- 糸井
- そうですね。あの、小説は頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 糸井
- 頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないです。
何ですかね、この受注体質さ。
頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが過剰なことになっていくような気はするんですよ。だから10頼まれたら、頼まれた通りの10を納品して終わりだとちょっと気が済まなくて、12ぐらい、16ぐらい返すっていう感じにはしたいなっていう。やりたいことがあんまりないんですけど、やりたいことは期待に応えたいっていうこと。
- 糸井
- 何にも無いと、自分からプチッて先には行かないけど、頼まれるとやりたいことがワーッと、その機に乗じて持ってこられるような感じ。
- 浅生
- そうなのかなぁ。
- 糸井
- ご自分のところの、あんな変な公式ホームページとか。誰もそんな発注してないと思うし。
- 浅生
- あれも「話題になるホームページってどうやったらいいですか」っていう相談をされて、「じゃあお見せしますよ」って言って、やった感じなんですよ。こういうことです。
- 糸井
- 見事ですね。あの感じ。
「自分がやりたいと思ったことないんですか」「ない」っていうのは、俺もずっと言ってきたことなんだけど、たまには混じるよね。「あれやろうか」ってね。
- 浅生
- 例えばNHKにずっといて、自分からやったのって東北の震災のあとにCMを2本作ったんですけど、それは自分から企画して‥‥だけど通らなかったんです。要は神戸の話をしようと思ったんです。東北が震災に遭ったんだったら、今すぐに東北のことを「絆」とかいっぱいワーッと出始めた頃に、これ今そんな話したって意味がないから、「神戸は17年経って日常を取り戻しました」っていうCMを東北に向けてではなく、単に「神戸の今」っていうCMを作ろうと思って企画を出したんですけど、「何で東北じゃなくて神戸なんだ」って言われて。
- 糸井
- それはね、決めた人の心はわかんないんだけど、ビックリしたことがあって、神戸がどのくらいかかったかみたいな話って、東北の人自身がものすごく聞いてがっかりしたの。だからだよ。あれ、こうなるまでにだいたい2年ぐらいかかったんだよねって言ったら、「ええっ、2年ですか」って言うのを、2年を長く感じてたの。だから‥‥。
- 浅生
- でも、覚悟はやっぱり必要で、17年経ってやっと笑えるようになったとか、っていう、ある種覚悟を持たなきゃいけない。ぼく、30年かかると思ったんですよ。東北のときに。だけど、必ず戻るものがあるっていうのも含めて、神戸で今暮らしてる人が17年前に大変な思いをしましたけど、17年経った今、笑顔で暮らす毎日があります、っていうだけの、「神戸」っていうCMを作ろうと思って。ただ、怖いんで、CMの企画して東北に行ったんですよ。いろんなとこ行って「こんなCMを考えてるんですけど、どう思いますか?」っていうのをまず聞いて回って、みんなが「これだったら、ぼくたちは見ても平気だ」ってたくさんの人が言ってくれたんで「よし、じゃあ作ろう」と思って。ただNHKでは企画が通らなかったので、「もういいや、作っちゃえ」って思って、勝手に作っちゃったんですよ、自腹で。NHKが流してくれなかったら、ほかの会社でもどこでも持ってって、お金出してもらっちゃおうと思って。そしたら、最後の最後にNHKが全部お金出してくれたんで、うちは家庭が崩壊せずにすんだんですけど。それぐらいです、自分からやろうと思って作ったのって。あとはだいたい受注ですね。
- 糸井
- 震災に関しての話でいえば、概念とかロジックでものを語れる人と、今の気休めを欲しい人っていうのと両方いて、どっちも実は必要なんですよね。だから、「絆」「絆」でやってくっていうのも、「絆」が効果をあげてるときには何か力になるんだけど、「もういくら言ったってダメじゃない」ってときにはもうダメだし。夢を語るって言って、20年先にはこうなるって話をしても「そんなに待てないんだよ」。つまり80の人にとってはもう死んじゃうわけだし、若い人だったら1番大事な10歳から10年っていったら20歳、このティーンエージャーの間っていうのは、これはもうずっとこの中に生きるんですかっていうことになるし。気休めと、それからロジックっていうのが自分の中でどう使い分けるかみたいなのは、当時いっぱい考えさせられた。
何せ一番困るのが「夢も希望もないんだ」っていうことを大騒ぎする人。これは迷惑どころじゃなくって。
- 浅生
- ほんとうに困りますよ。
- 糸井
- もうほんとに、そこにいない人がね、騒ぐんだけどね。で、いる人も悲しいから、乗っちゃってその歌を歌い出すみたいな。
今だからこそ「あれは困りましたね」って言えますけど、当時は今言ってることも、まったく発信できない時期でしたから。
浅生さんの大きな決断としては、当時NHKのYOUTUBEとかUstreamとかでNHKの映像を放送することを自分の独断で許可しますっていう。
ツイッター史上、日本のSNS史上に残るぐらいの決断だと思うんですけど、あれは。あれは自分から? 誰も受注しないですよね。
- 浅生
- いや、でもあれも「こういうのが流れてるのに、何でNHKリツイートしないんだよ」みたいなのが来て、初めてそれで知って、「ああ、たしかにこういうのがある」っていうふうに気がついて。
だから言ってみれば人から言われてやったようなもんで。自分で探して見つけたわけではないから。
- 糸井
- 見つけてくるところまでは無理だよ、それは。
- 浅生
- 知らないですから。「こんなのがあるんだから、リツイートしろよ」みたいなの来て、「これはやるべきだな」と思って。
- 糸井
- あのあたりはすごく「決断だな」っていうのは言えるし同時に「これは決断しちゃうでしょう」っていうくらいの雰囲気もあったよね。
その大きな波っていうのが読めた瞬間ですよね。大きく逆らって磔になるようなことしたわけじゃなくて。
- 浅生
- いいことですから。
- 糸井
- 何とかすればできるし、「いいことですから」っていう。あれ、すごく昔のような気がするね。
- 浅生
- 5年前ですね。
ぼくが1番緊張したのは、「これからユルいツイートします」って書いたときが1番緊張しましたね。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- Ustreamについては、まぁ最悪クビになるだけじゃないですか。でも「今からユルいツイートします」っていうのを、日常的なことをやりますっていうのを書くときは、相当悩んだんです。多分半日ぐらい悩んだんですよね。何度も文章書き直して、ほんとにこれでいいかなっていう。
要するに1人で舵切ろうとしたんで、「ほんとにこれでちゃんと舵が切れるか」っていう。
- 糸井
- どっちが悩んだかっていうのも、よくわかりますね。それは、最悪なにっていうのが見えないことだからね。
- 浅生
- どうハレーションしてくかわからないので、それによって逆に傷つく人がいっぱい出るかもしれないっていう恐怖は。
- 糸井
- ぼくもお金の寄付の話を翌々日に出したときは、迷ったし恐怖だった。
あれはやっぱり、本当に嫌な間違え方をすると「ほぼ日」の存続に関わると思ったんで、嫌だったね。
でも、あれはぼくもあのあたりの仕事って受動なんです、やっぱり。「あれ? このまま行くと、どっかで募金箱に千円入れた人が終わりにしちゃうような気がするな」っていう、その実感。それが何だか辛かったんですよね。だって、ニュースで見えてた映像と、誰かが募金箱に千円入れて、あるいは百円入れて、終わりにしちゃうような感覚とがどうしても釣り合いが取れないなと思ったんで。痛みを共有するっていうことをしないとな、みたいな。でも、あれも嫌だったよね、そのあとがね。「お前はいくらしたんだ」的なね。イタチごっこですからね。全財産投げ出しても「そんなもんか」って言われるわけでから。
- 浅生
- ぼく、女川にわりと直後から行ってFM作ったりとかしてたんですけど、それあんまり言わないようにしてて。言うと、またなんか余計なことが起きそうな気がしたんで、こっそりずっとやってたんですけど、だんだんやっぱり広まっていって、NHKのツイッターやってたやつがツイッターだけじゃなくてどうも行っているっぽいっていう。そうなると、わりと言うことが、なんでかすかね、一次情報ってあんまり信用してなくて、よくメディアの人が一次情報が大事だって言うんですけど、自分がそこ行って見たからって全部見てるわけでもないし、それが全てでもないから、そんなに一次情報って信用できないんだけど、でもまぁ少なくとも自分が知る範囲では知れるっていう。そのファクトに基づいてものが言えるのは、ちょっと安心というか、だから行ってるっていうのもあるんですよね。自分で見て自分でやって感じたことをちゃんと言えるっていうのが。実感ないまま何か言うのはちょっと嫌だなと思ったので。
- 糸井
- 1回パッと見たから何かっていうことは絶対ないと思うし、震災の後の時期で早野さんがやってたことっていうのがすごいなと思うのは、ほんとに何でもないときにしょっちゅう呼ばれて行ってたじゃない。あの回数が、一次情報ってものだと思うんだよね。呼ばれるだけの頼られ方をしている、っていうことと、それからちっちゃいのと大きいのとが、区別差別されることなく、それはそれで行かなきゃいけないし。で「うれしくってヒョイヒョイ行ってるのか」って言ったら、「そりゃあ、嫌なこともありますよ」っていう。そのほんと加減、それは自分たちがやってることもそういうふうにしたいもんだなと思って。でもね、人間弱いからさ、早野さんみたいに手に職があったり頭が良かったりすると、ちょっと役に立つんだけど、俺らが「しょっちゅう行ってるんですよ」って言っても。
- 浅生
- 「そうですか」ってなっちゃう。
- 糸井
- そうそう。「もう来なくなっちゃうんだろうね」って心配してることに対して、「不動産屋と契約したから2年はいます」とか、そういう誰でもできることをやるってところが。
- 浅生
- ぼくは寄付したくなかったので、福島に山を買ったんです。
- 糸井
- いいんですよ、それ。
- 浅生
- もちろん、すごい安いんですよ。山の山林で、ほんとにぼくが買える程度の金額なので、全然大したことはないんですけど。山買うとどうなるかっていうと、毎年固定資産税を払うことになるんですよ。そうすると、ぼくがうっかり忘れてても勝手に引き落とされるので、ぼくがそこ持ってる限りは永久に福島のその町とつながりができるので。
- 糸井
- 今持ってるんですか。
- 浅生
- 今もです。だから、9月にまた1つ「あっ」みたいな。
「また落ちてた」。