- 糸井
- 多分、「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が似てるんじゃないかな。意地悪なんだと思う、ぼくらは。
- 浅生
- ぼく、意地悪じゃないです。
- 糸井
- いや、要するに嫌なものがあるんですよ、いっぱい。その嫌なものって「何で嫌なんだろう」って思うと、「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。
- 浅生
- ぼくはだから、ストラクチャーを構築するんです。
- 糸井
- いい訳してる。
- 浅生
- ストラクチャーを構築してシステムにしちゃうと、何もしなくてもそうなっていくので、そうしちゃいたいんですよね。
- 糸井
- ぼくが言ってることと同じじゃない。
- 浅生
- 言い換えただけ。
- 糸井
- 会社の予算に組み込んじゃうとかさ。いや、「人が当てにならないものだ」とかね、「人って嫌なことするものだ」とか、「いいことって言いながら嫌なことするもんだ」とか、そういう意地悪な視線っていうのは、明らかに鴨さんのエッセイとか小説とか読んでてもそういうもんだらけですよ、やっぱり。それは、裏を返せば「優しさ」って言ってくれる人もいる、みたいな。
- 浅生
- 不思議なんですよね。人間ってそういう、しょせん裏表がみんなあるのに、ないと思ってる人がいることがわりと不思議で。
- 糸井
- そう。「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。
- 糸井
- そのへんは、それこそ浄土真宗の考えじゃないですか、ほとんど。浄土真宗ですよ。縁があればするし、縁がなければしないんだよっていう話でさ。東洋にそういうこと考えた人がいたおかげで、俺はほんとに助かってる。
- 浅生
- もともと、仏教のそもそもが「何かしたい」とか、「何かになりたい」とか、「何かが欲しい」って思うと、それは全て苦行だから、それ全部捨てると悟れるっていう。だから別に何かやりたいことがないほうが。
- 糸井
- ブッティスト。
- 浅生
- ブッティストとして(笑)
- 糸井
- 話を変えて、アグニオンについて。
細かく発注の段階を言うと、どっからはじまったんですか?
- 浅生
- 一番最初は2012年かな。そのころ、ちょっとツイッターが炎上して、始末書を書いたりするようなことがあって、ちょっと落ち込んでたんです。落ち込んでてショボンとしてたときに、新潮の編集者がやって来て、「何でもいいから、何かちょっと書いてもらえませんか」って言われて。
「何でもいいから何か書いてもらえませんか」「はぁ」みたいな。最初に新潮の『yom yom』っていう雑誌を読んで、「何が足りないと思いますか」って言われたんで、「若い男の子向けのSFとかは、今このなかにないよね」みたいな話をして。
で、とりあえず10枚ぐらい書いてみたら、SFの原型みたいなのになってて。それを編集者が読んで「これおもしろいから、ちゃんと物語にして連載しましょう」って言われて。
- 糸井
- SFはお好きだった?
- 浅生
- 嫌いではないですけど、そんなマニアではないです。
これに関してはほんとに「何でもいいから書いてみて」って言われて、ワッと書いたらそういう、ほんとにそこの「最後の少年」っていうのがポツッと最初に出てきて、そっから編集と一緒に。
- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
- そうですね。「あ、こういう物語なんだ」書いてみるまで、わかんないんですよ自分でも。
- 糸井
- 終わったとき、作家としての新しい喜びみたいなの出ましたか?
- 浅生
- 「終わった」っていう。
- 糸井
- 仕事が終わったっていう感じですか。
- 浅生
- 何だろう、マラソンを最後までちゃんと走れたっていう。
達成感というか、「よかった」っていうか。自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、誰かにエントリーされて走る。
- 糸井
- 誰かが「代わりに走ってくれ」って言ったみたい。
- 浅生
- 糸井さんは小説書いたときは、自分からですか。
- 糸井
- ぼくは嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、もう本当に嫌でしょうがなかった。
浅生さんはまた頼まれたら書く?
- 浅生
- 多分嫌いじゃないんです。
- 糸井
- 観るのがそんなに好きだっていう人なんだから、ぼくとは違いますよ。
ぼくはめんどくさいもん。
- 浅生
- めんどくさいんです。間違いなく。
- 糸井
- めんどくさいの種類が違う。ぼくのめんどくさいは、もうほんとにめんどくさいから。
- 浅生
- ぼくのめんどくさいだって負けてませんよ。
- 糸井
- めんどくさいめんどくさいって言う人だけど、横尾さんとか「めんどくさい」って言いながら絵を描くじゃない。ぼくは書かないもん。
- 浅生
- でも、18年間毎日原稿書いてますよね。
- 糸井
- 毎日のほうが楽なんだよ、かえって。アリバイができるから。毎日やってるっていう。日曜もやってる蕎麦屋がまずくてもね、しょうがないよって言って。努力賞が欲しいね、ぼくは。
- 浅生
- 毎日やってるという。
- 糸井
- うん。努力賞で稼ぐ。
- 浅生
- やっぱりめんどくさいですよね。
- 糸井
- いや、でもね、書くのが嫌いな人にはできないですよ、うん。海外ドラマシリーズとかでも、ぼくは1シーズン観て2シーズン目の途中でもうめんどくさいもん。あれを5シーズン観るって言うだけでもすごいですよ。
- 浅生
- 中では11シーズンとかあるんですよ。
もうね、勘弁してくれって思うんです。
- 糸井
- 猫も呆れるよね。
- 浅生
- 『アグニオン』が辛かったのは、自分で始末しなきゃいけない。
- 糸井
- 当たり前じゃん。
- 浅生
- 連載だったので。
連載のそれこそ1話とか2話に、とりあえずこの先どうなるかわかんないわけです。自分でもどんな話になるかわからないので。いろいろ伏線を仕込むから、回収してかなきゃいけなくて。
- 糸井
- まったくわかってなかった?
- 浅生
- まったくわかってなかった。ざっくり何となく決めてたんですけど、2話の途中ぐらいから話変わってきてて。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、そういうのって全然気にすることないよって思うね。だって、『おそ松くん』はおそ松くんが主人公なはずなのに、六つ子の物語を書いたはずなのに、チビ太とかデカパンとか異形の者たちの話になっちゃってる。
- 浅生
- これも元々そうで、実は1回原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。書いて、最後の最後にそれまでの物語をある意味解決するための舞台回しとして、1人キャラクターが出てきて、それが最後しめていくんですけど。それを読んだ編集が「このキャラがいいね。この人主人公にもう1回書きませんか」って言われて、その500枚はだからもう全部捨てて、もう1回そこからゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには。
ぼくは時代がちょっと違っててさ、苦しいのよ。もう『アグニオン』だけで苦しいもん。
そういうのタイトルなの? みたいな。もっとなんか「神々の黄昏」みたいなさ。そういうのにしてよ、みたいな。
- 浅生
- 何だかわかんないタイトルにしたかったんです、もう。
- 糸井
- わからなくしたいんだね。
- 糸井
- ペンネームも明らかに本名じゃない人が書いてるし、何だかわからないものにする癖がとにかくついてるんですね。
- 浅生
- ああ、そうですね。ああ、そうかもしれない。
- 糸井
- 一生何だかわからないんでしょう。
- 糸井
- 一生このままだから、このインタビュー、ややこしいかもしれないですね(笑)
- 糸井
- 表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこが多分一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。「何にも書くことないんですよ」とか「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。だけど、何かを表現してないと生きてられない。
- 浅生
- でも、受注ない限りはやらないっていうね。ひどいですね。
- 糸井
- だから、「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」。これはでも、自分がちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- 何かにかこつけてるんですかね。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。表したい欲って、裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。画家の目はきっとあるとおもしろいなって。
- 糸井
- それはでも絵を描いてたほうが、画家の目が得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかな。そうかもしれない。
- 糸井
- いや、すごいですよ、ほんと、画家の目ってね。違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見えたとおりに見てるっていうか、見たとおりに見えてるじゃないですか。ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- そこに画家は個性によって、実は違う目だったりする。でもそれはぼくなんかが普段考える「女の目が欲しい」とか、そういうのと同じじゃないですかね。受け取る側の話をしてるけど、でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で。
浅生さんは今、臨終の言葉なんかどうでしょう。いま発注した。自分が死ぬときの言葉。
- 浅生
- はい。死ぬときですよね。前死にかけたときは、そのときは「死にたくない」って思ったんで、すごく死にたくなかったんですよ。
今もし急に死ぬとしたら「仕方ないかな」っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
- 「人間は死ぬ」とあまり変わらないような気がしますけど(笑)