2016年11月26日。
ここは、横浜駅から徒歩数分の繁華街。
空は気持ちのいい真っ青です。
橋の下には淀んだ川がありますが、
歩いている人たちは誰も、気に留めません。
「26日に路上で水族館をやるから、おいで!」
私が寺田さんからメールを受け取ったのは、
11月の中旬でした。
学生時代、私は横浜のとあるNPOで
子ども向けの自然体験イベントをやる
アルバイトをしていました。
寺田さんは、当時そのNPOの
職員をされていた方です。
11月26日の今日、
横浜駅の西口では、
「パークキャラバン」
と呼ぶイベントが開かれます。
繁華街の路上に芝生を敷き詰めて
ボルダリングやけん玉などの
体を動かす遊びが楽しめる、
ちょっとしたお祭りです。
(主催の「横浜西口元気プロジェクト実行委員会」の
フェイスブックページはこちら)
その一角で今日、
寺田さんは1日限りの小さな水族館を開きます。
今回私は、
その現場にお邪魔させて頂くことになりました。
それでは寺田さん、よろしくお願いします!
午後1時。
機材が満載の車を運転して、
横浜駅のそばの駐車場に寺田さんが現れました。
- 寺田
- おまたせ。今日はよろしく!
- ――
- よろしくお願いします!
- 寺田
- 今日の水族館のテーマは帷子川なんだけど、
川の様子ってもう見てみた?
- ――
- さっき見ました。
緑色の水が流れずにたまってるような感じで、
ちょっとドブ川っぽいというか。
- 寺田
- ほんとね、そう思ってる人がたくさんいるんだよ。
でもここにウナギがすんでるんだから
それ聞くとみんなびっくりだよね。
- ――
- ウナギですか!
- 寺田
- そうそう。
帷子川の河口はこうやって横浜の駅前を
流れてるんだけど、源流はきれいな場所で。
実はウナギがいたり、
ハゼっていう魚の仲間で、
絶滅危惧種のやつが何種類かいたりしてね。
だから、
こんなに汚いと思われている川に
意外と生き物がいるんだぞっていうことを
今日の展示では伝えたいんだよね。
- ――
- なるほど
- 寺田
- そしたら早速だけど、
移動用の水槽を会場まで運びましょう。
今日見せる帷子川の魚たちが
みんなこの中に入ってるから
気をつけて。
- ――
- はい。慎重に。
- 寺田
- 帷子川は、見た目は
自然とは似つかわしくないような
人工的な川になってるから、
みんな、自然が残ってない場所だと
思っちゃうんだよね。
- ――
- なるほど。
- 寺田
- でも、これまでの自分らの調査結果で、
帷子川には結構生き物がいることが分かってきてる。
それをそのまま水槽に入れて見せれば、
この川には生き物なんていないって
マイナスのイメージを持っていた人たちが
「え、こんなのがいるの!?」
って思うよね。
そういうことで驚いてもらって、
もっと水辺に関心を持ってもらいたくて。
汚い川だと言われることもあるけど、
水質も調べると案外悪くないんだよ。
夏休みに環境学習のイベントで、
子どもたちに川の水を
コップに汲んでもらったことがあるんだよね。
ミネラルウォーターと並べてみせて
一緒に来てる保護者の人たちに
「どっちが今汲んだ川の水でしょう?」
って聞いてみたりして。
においも透明感も違いが分からないから、
「どっちか飲めって言われたらどうします?」
って意地悪なことを言うと、みんな困っちゃう。(笑)
- ――
- 片方はついさっきまで
汚いと思ってた水ですもんね。(笑)
- 寺田
- 川の汚さって、
数値で測れる専用のキットがあるんだよ。
その場で測ってみせると
山の中の清流と同じ数値になるんだよね。
「えーっ、今までと見方が変わりました!」
みたいな感じに言われたりするよ。
会場まで水槽を運ぶと、
道路に人工芝を敷く作業が
着々と進んでいました。
人工芝があるだけで
随分道の印象が違って見えます。
そんな人工芝の上に水槽が出現。
まだ何も生き物がいない、水と石だけの水槽です。
「何かいるの?」
と、この時点で既に
道を行く人たちの視線が水槽に集まります。
水槽があればつい見てしまうその気持ち、分かるかも。
ここへ、車から運んできた移動用水槽の魚たちを、
水ごとどばっと移します。
水槽内の砂や石などのレイアウトを整え、
説明のパネルを貼り、
ミニ水族館の水槽が完成!
もう少しアップで撮ってみましょう。
こちらはウナギ。
隅っこが好きで、
水槽の角や石のかげによく隠れていました。
モクズガニです。
はさみを覆うふさふさは、藻ではなく自分自身の毛。
よく見ると、後ろにテナガエビが隠れています。
顔のよく似たこの2匹は
どちらも「ハゼ」という魚の仲間です。
左はチチブ、右はマハゼ。
完成した水槽には
子どもだけでなく、大人も集まっていました。
「へえ、こんな所にウナギがいるんだ」
「これ全部そこの帷子川にいるの?」
「魚だ!魚だ!」
- ――
- みんなやっぱり驚いてますね。
- 寺田
- いいリアクションだね。(笑)
実はこうやって知ってもらうことが
次につながるんだよ。
最終的にはちゃんと
帷子川の自然再生をしたいんだよね。
この川の中には干潟ができる場所があるから、
そこにみんなで船で乗りつけて、
他の生き物のすみかになる
植物のヨシを植えたりしてね。
でも今の段階ではそんなことをやったって
「生き物がいない所で何やってんだ」
って人から思われるに決まってるから。
だから、そういう意識の段差を
今日みたいなイベントで埋めていくわけ。
こんなに自然がいっぱい残ってるよ、
っていうのをたくさんの人に見せてね。
- ――
- 横浜の駅前でやるのはそのためなんですね。
水槽の横では、
ウニの殻を使ってランプを作る
ワークショップも行いました。
用意した席は、子どもたちでほぼ満席に。
トゲだらけのイメージのウニですが、
死んだ後はトゲが落ちて丸い殻だけが残ります。
このウニの殻にLEDランプをはめ込んで
周りをサンゴや貝殻、ビーズで彩っていきます。
ワークショップに来ていた男の子が
ウニのランプを作る様子を撮らせてもらいました。
完成した作品を暗いところで光らせると、
こんな感じです。
- ――
- ウニのランプなんて初めて見ました。
- 寺田
- こうやってランプが光ると、
目立つからみんなが目を向けるでしょ。
横浜の駅前に来る世代って
高校生とかも結構多いんだけど、
そういう子たちも引きつけたくて。
「なんか光ってる」
って近づいてもらうと、
それがウニだったって分かるわけ。
ウニなんて、
トゲがあってただ中身を食べるだけ。
そんなイメージでおしまいになりがちだけど、
実はあいつらは
こういうきれいなアートになるような
複雑な殻の構造を自分自身で作ってる。
生き物って不思議だなって
思うきっかけになるといいよね。
- ――
- たしかに、
こんな模様がトゲの下に隠れてるなんて
思いませんよね。
- 寺田
- 横浜駅の辺りは帷子川の河口が近いから
今回の展示では町と海のつながりも伝えたいんだよね。
海の生き物を使った何かをやりたくて。
それでウニってわけ。
最初は完成品を展示しようとしたんだけど、
途中でこれは子どもが作ったらいいなって思って。
できたやつを持って帰れば
すごい思い出に残るし、
それこそ生き物って面白いぞって
興味につながるかもしれないじゃない。
光って目立つといえば、この水槽もそう。
右の水槽にいる魚はヒナハゼ、
左の水槽はケフサイソガニってカニだね。
- ――
- フラスコが水槽に!
- 寺田
- こうするだけでおしゃれな感じになるでしょ。(笑)
でもそれだけじゃなくて。
横浜は都市化している環境なんだけど、
よく見ると生き物がいる町なんだっていう、
そういう町の感じを表現したくて。
- ――
- 本当に色々なことを考えて企画を組むんですね。
あの手この手を使って、
川のこと、生き物のことに
興味を持ってもらおうってことなんですね。
(つづきます)