ミニ水族館の片付けを終えて、
やってきたのは横浜駅のそばにあるパスタ屋です。
- ――
- おつかれさまです!
- 寺田
- おつかれさま!
ああ、明日仕事じゃ無ければ飲むのになあ。(笑)
- ――
- 明日って日曜ですけど。
- 寺田
- 日曜は都内で
ミニアクアリウムのワークショップをやるんだよ。
- ――
- 過密なスケジュールですね…
寺田さんって、
昔からずっと環境学習をやりたいと思って
今に至るんですか?
- 寺田
- いやいや。
最初は俺、全然環境学習をやるつもりはなくて。
むしろ自然の調査とかビオトープ作りをやりたかった。
人と話すよりも、とにかく
自然と向き合えばいいと思ってたんだよね。
たとえばある川が自然再生するためには
こういう堰を作ればいいとか、
ビオトープを町なかにどう作れば
生き物のネットワークが形成されるか、とか。
- ――
- はい。
- 寺田
- でも、そのうちこれって、
1人で何か頑張って
成果が出ることじゃないなって思って。
どんどん人と自然が離れていく中で、
結局自分が死ぬ間際になった頃にさ、
こんなに俺頑張ったのに、
「結局昔より環境が悪くなってるじゃん」
ってなりかねないと思ったんだよ。
- ――
- そう思うきっかけって、何かあったんですか?
- 寺田
- 大学を出た後の、就職の時かな。
自然の調査をやる環境コンサルの会社とか、
建設会社のビオトープを作る部門とか、
そういう所に行きたかったんだよね。
でも、大学2年ぐらいから
どんな仕事なんだろうって調べていくと
色んなことが見えてきて。
大きい会社では現場に出ずに
仕事を下請けに回しちゃってるとか、
現場の方は元請けの会社の事情があるから
本当はこうしたい、と思ってもできないとか。
それを知ったら、
「俺、結局どこに入っても変わんねえじゃん」
って感じになっちゃって。
- ――
- ああ……
- 寺田
- でも、そのときに思ったんだよね。
何か1つのものを変えるのに、
1人で動いて駄目なんだったら、
10人とか20人、人がいれば変わるかもしれない。
俺が連れてきた20人がいたとして、
その20人の一人ひとりがまた20人を連れてくると……
って計算をしていった時に、
そのやり方の方が絶対効率がいいなと思って。
するとさ、次の世代を担ってくれる子どもたちに
環境学習っていうものをやっておくといいなって
思うようになったわけ。
たとえばクラスに40人の子どもがいたとして、
初めはみんな全く自然に興味が無かったとしても、
環境学習とか自然体験をした後で
40人のうち1人でも興味を持つ子がいたとしたら。
それを1年間で何十クラスもやれば、
何十人もの子が興味を持ってくれるぞ、みたいな。
で、その興味を持った子が友達と一緒に川に行ったら、
また興味を持つ子が増えて……
というイメージがちょっとずつできてきてさ。
- ――
- はい、はい。
- 寺田
- 1人自分の中で考えてる、
「自然環境を良くしたい」
っていうのを実現するためには、
それはもうネズミ算的に増えるような
マンパワーが欲しいんだよね。
そうやって考えていった時、
環境学習ってやる意義があるぞって、
全く別の方向からも気付かされて。
- ――
- と、言うと。
- 寺田
- 実はそれが、君が大学時代にアルバイトしてた、
横浜のNPOで働きはじめた時のことなんだけど。
- ――
- 懐かしいです。
植物の調査とか、
子ども向けにドングリの種類を教える講座とか、
私も色々やらせてもらいました。
- 寺田
- NPOに来る前、
俺は環境調査の会社に就職してたから、
はじめは土日だけバイトで入ることになったんだよね。
そこで、1年間に10人くらいの
近所の子を相手にするだけの
環境学習をやらせてもらって。
でさ、その子たちが
学校の作文で「将来なりたいもの」って書く時に、
10人中4人くらいが
「寺田さん」って書いたらしくて。(笑)
- ――
- へええ。(笑)
- 寺田
- それを聞いたときに、
感情的に訴えられるものがあって。
なんか、なんというのかな。
普通、なりたいものを聞かれて、
人の名前が出てくるってなかなか無いじゃない。
これはやってて意味あることなんだなあっていうか。
すごく心を動かされるものがあって。
肩肘を張って自分の同調者を増やそう、
なんて思わなくても、
生き物に興味を持ってくれる子は
それなりに増えてくれるんじゃないかな、
っていう手応えがあって。
それで、環境学習っていう
今の仕事の路線になったんだよね。
- ――
- そこで子どもたちが「寺田さん」って書いたの、
なんとなく分かる気がします。(笑)
- 寺田
- そう?俺は実を言うと、当時は
子どもの相手とかが得意じゃ無くて。
- ――
- えっ、今日もウニランプのワークショップで
あんなに活躍されてたのに。
- 寺田
- 自分自身が一人っ子なのもあると思うんだけどね。
なんか、子どもって明らかにすごく年下じゃん。(笑)
- ――
- 年下ですね。(笑)
- 寺田
- どう接したらいいかわかんないというかさ、
訳のわかんないことを
いってくるんじゃないかっていう身構えと、
どこまで本当のことをいったらいいのかっていう悩みと。
だから当時は多分
子どもの気持ちにもなれてないと思うし、
どうやったら楽しいっていうのを模索しながらやってた。
なんかこう、どうしよう、どうしようって
思いながらやってたから。
でもそんな中で、「寺田さんになりたい」なんて
書いてくれたから、自分にはすごく意外で。
「え、そんな風に書いてくれちゃうの?」って嬉しくて。
逆に言ったらすごく責任感も感じたね。
- ――
- 寺田さんになりたいって書いた子のこと、
やっぱり、すごく分かる気がします。
魚を捕まえたり、
自然のことを話したりしてるのが、
それ自体がすごい楽しそうなんです。
- 寺田
- あー!なるほどね。
そうか、それはあるかもしれないね。
- ――
- 多分、その生き物が何かは分からなくても、
とにかく楽しそうってことだけは伝わるから、
楽しいって所から全てがスタートするっていう。
- 寺田
- すごいそうだと思う。
やっぱり、自分は水の中の生き物が好きだから。
本当にこれはある意味病気だと思うんだけど、
水があるだけで生き物を覗きに行きたくなるんだよね。
極端な話、アホでしょっていわれたのが、
ディズニーランドの…
- ――
- あっ…(笑)
- 寺田
- ディズニーランドに池とかあるじゃん。
家族で行って行列に並んでると、
水辺がちょこっと見える場所があるのね。
そういう所でこうやって背伸びして、
茂みの向こう側にある池を超頑張って見てたら、
「そんなとこ何もいないから。バカじゃないの」
って言われて。
嫁に。(笑)
- ――
- 子どもの時とかじゃなくて、
最近の話なんですね。(笑)
- 寺田
- 最近だよ最近!
ほんと無意識なんだよね。
言われると初めて
「あ、俺そうだわ。俺、こういう感じだわ」
って思うじゃん。
なんか水たまりでも生き物探しちゃう、みたいな。
別に意識して探そうって思ってるんじゃなくて、
あると勝手に見てるっていう。
もう病気だよね、一種の。(笑)
(つづきます)