横浜駅のそばで、
寺田さんが開いた1日限りのミニ水族館。
夕方の時間を過ぎて、
一気に辺りは暗くなってきました。
暗い分だけ、
明かりのついたおしゃれ水槽や
色とりどりのウニランプが
目立っています。
寺田さんが今日ミニ水族館を出しているのは
繁華街の路上に芝生を敷き詰めて
体を動かす遊びが楽しめるお祭り、
「パークキャラバン」の会場です。
実は、このお祭りは、
町の中に人の集う場所を作り、
横浜駅西口のエリアを活性化するための
社会実験でもあります。
まちづくりに携わる地域の人たちも
大勢集まっていました。
「水槽展示、うちでもやってくれませんか?」
「おしゃれな水槽を作るワークショップなんかが
できるといいなあ」
なんて、寺田さんと話をされている方も。
ミニ水族館は今日限りですが、
今日の展示が色々な人たちの
新しいアイデアの種になって、
次のイベントにつながっていくのかもしれません。
- ――
- 今日の水族館、あちこちに工夫が凝らされてて
本当に1日ではもったいないくらいです。
こういう水槽の展示って、
寺田さんはあちこちでやっておられるんですか?
- 寺田
- そうだね。
水槽展示だけじゃなくて、
本当に色々なことをやってるよ。
一言で言えば、とにかく
「人と自然を近づけよう」っていうコンセプトがあって、
そこから外れないことならなんでもやる。
自然の調査とか、子どもや地域の人向けの環境学習とか。
帷子川のことでいうと、
この川の流域にある横浜市の旭区が、
地域の小学生に川について学んでもらう
っていうプログラムをやってるんだよね。
その講師をもう何年も引き受けてるかな。
子どもたちを川に連れて行って
魚を捕まえてもらって。
捕まえた魚は、こっちですぐ種類別に水槽に分けて
小学校の体育館なんかにずらっと並べて
みんなに観察してもらう。
ヤゴやザリガニも含めれば、
常に15~16種くらいの生き物は集まるね。
- ――
- 体育館に期間限定の水族館が!
- 寺田
- 現地で魚を捕まえて終わりだと、
他の子が何を捕まえたかが
分からないまま終わるんだよね。
ザリガニばっかり取った子は
この川はザリガニの川だって思ってるけど、
その横で別の子がハゼを取ってたりするわけ。
体育館に水槽を並べれば
子どもたちの人数が多くても
全員が間近で生き物を見られるっていう
メリットもあるんだよ。
- ――
- 帷子川以外でも色んなことをされてるんですよね?
- 寺田
- もちろん。
うちの事務所は東京の江東区にあるんだけど、
そこでも環境学習をやってるよ。
江東区って江戸時代から
徳川家康が船運を充実させるために
掘った運河がいっぱい残ってるのね。
で、地域の歴史を学ぼうっていう
小学校3~5年生向けの
歴史の体験学習がもともとあったんだけど、
そこで生き物の学習もやりましょうって
こっちから提案して。
あと、面白かったのは
地方の町でやらせてもらった仕事かなあ。
- ――
- 東京や横浜ではなく。
- 寺田
- そう。
その町は、使われなくなった休耕田で
もう一度米作りをしようとしてて、
俺はその田んぼで生き物を捕まえて
子どもたちに見せて教えてるんだけど。
現地に行ったらすごく自然が残ってて
「環境学習なんか必要ないじゃん!」
って初めは思ったんだよね。(笑)
わざわざ自然に触れる機会なんて作らなくても、
毎日通ってる通学路で十分だって。
でも実は違ったんだよ。
田んぼに入ったこともない、
泥に触ったこともない、
そんな子が結構いるって知って、驚いて。
- ――
- ほおお
- 寺田
- さらに言えば、
そういう子がいるのは、
同じ町の中でも山あいというより郊外みたいな所、
って感じがするかな。
立派な道路があって、
ショッピングモールがあって、
区画化された土地に建売の住宅が並んでて。
今のニュータウン化された地域と同じような
町の構成になっちゃってる。
遊びに行くのはショッピングモールだし、
放課後も塾に行ったり、スイミングに行ったり。
なんだか都会の子どもたちと
変わらない暮らしをしていることが多くて。
- ――
- 別に自然が嫌いっていうことじゃないんですよね。
- 寺田
- そうそう。
多分ね、きっかけがなくなってる。
せっかく身の回りに自然があっても、
そういう自然が豊かな所に
後から都会的なものができると
そっちに目が行っちゃって、
余計に自然体験をしなくなるっていう傾向が、
もしかしたらあるのかもしれない。
- ――
- なるほど。
- 寺田
- だからこの仕事では
「段差を埋めよう」ってことを
心がけてる所があるかな。
自然体験とか環境学習とかって
申し込む側の人からすると、
参加してみようっていう時に
すごく大きなハードルがあって。
特に、自然に興味を持ってない子が多い時代には
そこのハードルは
はてしなく高いんじゃないか、
って気がしてる。
だから、そこを上れる小さな階段を作ってあげないと
乗り越えられないんだよね。
たとえば、自然の素材を使ったワークショップを
やることで興味を持ってもらったり。
キャンプとかバーベキューとかっていう
アウトドア寄りのイベントで
釣りに参加してもらったり。
- 寺田
- 後はもう単純に、
自然のある環境に来やすくする方法もある。
以前ある場所で、
生き物の絵を描いてもらってランタンを作る、
っていうワークショップをやったんだよね。
保育園とかの小さい子たちって、
どうしても親が水辺に近寄らせない傾向があるんだよ。
でも、
自分たちの作った作品が夜の水辺に並んで、
しかも光ります、ってなると
親子で水辺に見に来てくれる。
普段なら夜の川なんて危険でしょうがない、
って話になるんだけど、
こういう機会なら子どもたちも近寄れる。
すると、
水辺の方を「なんかいるかな?」って覗いてみたり、
夜の川に吹く風が気持ちいいって気付いたり。
子どもたちもそういうことができるんだよね。
今はそういうきっかけ作りから提案していかないと。
自然について学ぼう、体験しよう、っていう
玄関口の所まで、
そもそも参加者が来てくれない。
だから、一見するとこんなの関係ないってことも、
きっかけになるかなって思えば
本当に何でもやるんだよね。
お話を伺っていたら、
午後7時、撤収の時間がやってきました。
魚を素早く移動用の水槽に戻す寺田さん。
ウナギだって、透明の筒を使ってこの通り!
片付けを終えた後は、
軽い打ち上げでご飯を食べに行くことになりました。
場所を変えて、寺田さんのお仕事について
引き続き色々な話を伺ってみたいと思います。
(つづきます)