もくじ
第1回ぼくの人生、不安しかない。 2017-05-16-Tue
第2回サウンドクリエーターのK君 2017-05-16-Tue
第3回CMプランナーのN君 2017-05-16-Tue
第4回設計事務所代表のD君 2017-05-16-Tue
第5回放送作家のT君 2017-05-16-Tue
第6回コピーライターのM君 2017-05-16-Tue
第7回5人の取材を終えて 2017-05-16-Tue

自転車と山歩きが好きなコピーライターです。40歳を前にフリーになりました!どうしましょう。

39歳フリーランス1年生、不安に向き合う。

39歳フリーランス1年生、不安に向き合う。

担当・足立 遊

第2回 サウンドクリエーターのK君

39歳・独身
就職経験なし
筆者との関係:高校時代の友人

ーまさかKが、フリーで音楽やるなんて、
 高校のときには思ってもみなかった。
 もっと手堅く、公務員とかになるのかと思ってたよ。

もともと、幼稚園の頃から中学まで、
エレクトーンを習っていたんだよ。
でも高校の時は、音楽が好きだっていうことを、
自分から話すことはなかったかもしれない。
本当は、小さい頃からずっと音楽が好きで、
スーパーに買い物に行っても、ひとりで車に残って、
音楽を聴いて待っているような子供だった。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」が出たのが
幼稚園の頃で、それを車の中でずっと聴いてのは、
いまでもハッキリと覚えているから。

でも、その頃って、それをまわりの友達に話しても、
「だれそれ?」って言われて、分かってもらえなくて。
小学生の頃になると、マイケルが好きっていうのも、
なんだか恥ずかしくなっちゃって、
それからあんまり人に言えなくなったんだよね。

中学のときに初めて音楽の話ができる友達ができて、
初めて誰かに「マイケルが好き」って言えたのは、
嬉しかったなぁ。
その友達が教えてくれたのがHIP-HOPで、
カルチャーショックを受けるくらいハマったんだけど、
高校ではHIP-HOPの話ができる友達ができなくて、
また、ひとりだけの楽しみに戻っちゃったんだよね。
学校から帰ったら、ひとりでCDを聴いて、
それをヒントに、エレクトーンで曲を作ったりしてた。

ーバンドをやろう、
 みたいな発想にはならなかったんだ。

もし、そういう発想ができていれば、
ひとりでは出せない音をカタチにできたりして、
ひと皮もふた皮もむけたのかもしれないんだけど、
自分の好きなミュージシャンすら上手く伝えられないくらい、
コミュニケーションに対するが苦手意識があったからね。
HIP-HOPが好きで、
バンド音楽を通ってこなかったというのもあると思うけど。

だから、高校2年のときにテクノという音楽に出会って、
シンセ(シンセサイザー)さえあれば
ひとりいろんな音楽が作れるんだ!ということを知って
親に頼み込んで買ってもらったときも、
どこかでだれかと共同作業することへの苦手意識が、
働いていたのかもしれないね。

ー話を聞いていると、すでにKは、
 先天性のフリーランスだったような気がしてるんだけど、
 大学のときは、就職活動とかしなかったの?

1社も受けなかったね。
エントリーシートも出したことがない。

ちょうど世の中が「超就職氷河期」とか言われていて
(1999年〜2000年頃)、
それを口実にして部分もあったと思う。

世間知らずだったというのも大いにあるけど、
音楽をやって食べていける職業が、
ぜんぜん分からなくて、思いつくのが
自分で音源を作ってそれを売ること、
つまり、アーティストだったんだよね。

大学では、DJをしたり、音楽のイベントをしたりする
小さなサークルに入っていたんだけど、
そこで自分の作った曲を流したり、
その音源を有名なDJに渡したりして、
それを続けていれば、いつか、どうにかなると思ってた。
そのDJが大きなイベントで曲を流してくれて、
それが誰かの耳に止まり、どこかのレーベルから
レコードを出す、みたいな甘っちょろい考えだけど。

そういう根拠のない自信と、
実家暮らしの甘えという、両方があったね。

大学を卒業してバイトをしながら、
そんな生活がしばらく続いたかな。

ーまだまったく先が見えてこないんだけど、
 焦りとか、不安はなかったの?

うーん…、なかったと言えば嘘になるけど、
サークルの仲間とか、まわりに同じようなやつがいたし、
なんとかなるっしょという感覚のほうが強かったかもね。
親に対する後ろめたさはあったけどね・・・

ちょうどその頃、サークルの仲間が、
今でいうシェアハウスみたいな共同生活を始めてさ、
そこが同世代のいろんな人の溜まり場になったんだよね。
映像を作ってるやつ、イラストを描いてるやつ、
広告代理店のやつ、デザイン会社のやつ・・・
そういう友達に囲まれながら、自分もフリーターではなく、
何かを作っている人間だと思っていた気がする。

ーだんだん、話を聞いている
 こちらのほうが焦ってきたよ。

そうしているうちに、WEBの世界が進化してきたんだよ。
たしか2001年頃だったと思うけど、
FLASHっていう技術が普及してきて、WEBのコンテンツが、
動いたり音が出たり、どんどん演出がかってきたんだよね。

それで、WEBサイトのデザインをやっている友達から、
「K君、音楽作ってるんだから、このサイトにBGM付けてよ」
って言われて、そこで初めて、
こういう仕事もあるんだって気付いたんだよね。
WEBの世界でも音や音楽が求められるようになって、
その頃から、広告代理店やWEBの制作会社から
仕事が来るようになったんだよね。

それと同時に、自分は、
自分から何かを発信するアーティストじゃなくて、
映像とか、空間とか、動作とかに音を組み合わせていく、
そういうことがしたかったんだ、って気付いたんだよね。
小さい頃マイケルに惹かれたのも、音楽だけじゃなくて、
ダンスと映像との組み合わせにワクワクしたんだなって。

だから、たとえば、この映像には
どんな音楽が活きるかなって考えているようなときが
一番ワクワクするし、相手が求めていることに対して、
いろいろと提案していくのが楽しいんだよね。

それから少しずつ音楽の仕事が増えるにつれて
バイトの時間を減らしたりしたけど、
それでもバイトを辞めて実家を出るまでには
結局そこから5、6年かかったね。
たしか27か28のときだったかな。

ー幼い頃から潜在的に好きだった何かが
 ようやく仕事でカタチになったんだね。

そうだね。しばらくは追い風だったんだけど、
一時期WEBのコンテンツがリッチ化し過ぎて、
演出過多というか、
「サイトが重くなる」という問題が出たり、
WEBサイトを作るための広告費が減らされたりして、
そうなると真っ先に音から削られるから、
このままなくなるのかな、って怖くなったことはあったよ。
どうしよう、今月収入ないよ、みたいな。

でも、そのときに思ったのは、
なんだかんだ言って、
小さい頃から好きだったことを仕事にできているわけだし、
それはとても恵まれていることなんだから、
それを続けていくために、
いざとなったら何でもやらなきゃいけないな、と。
その感覚は今でも持っているけどね。

幸い、このごろはFLASHに代わってYouTubeとか、
動画配信がしやすい環境が整ってきたから、
動画(映像)に音楽をつける仕事が増えていったけどね。

ー音楽の仕事一本で生活できるようになって
 10年ちょっと経つけど、結婚を考えたりはしないの?

まずは相手を探さないと(笑)
でも、そういう願望が薄いんだろうね。
そりゃ結婚できるならしたいけど、
こういう安定感のない仕事だし、
一人だからなんとかなってる部分もあるからね。
もっと若ければ勢いでなんとかできるのかもしれないけど、
もう40になるし、どうしても二の足を踏んでしまうよね。

ーいまはどんなペースで働いているの?
 休みはちゃんと取れてる?

今は、休みが取れないほどはやってないけど、
でも別に、売れっ子っていうわけでもないから、
自分で時間をコントロールできるような身分でもないしね。

「フリーなんだから」って割り切って、
長期の休みを取る人もいるけど、
その間に何か仕事が来たらって考えると不安になるし、
そう考えると、旅行にも行かなくていいかってなるね。
休みを取るのにも、強い精神力が必要なんだよ(笑)
やっぱり、急な対応を求められることも多いし、
今まで仕事を断ったことは、ほとんどないね。

ーこれからどういう風に仕事をしていこう、とか、
 今後のイメージはあるの?

正直、明確なビジョンはないよ。
10年前に今の姿をイメージできていたかといえば、
できていなかったし、WEBを含めて、
今後どんなテクノロジーが主流になるのかも分からない。

人を楽しませるっていう音楽の本質は変わらないと思うけど、
テクノロジーが進化すれば、
今よりも簡単に音楽が作れるようになるだろうし、
そういう環境が変化する可能性だって大いにあると思う。

だから、たとえば30年後、
自分が70歳のときのイメージなんてできないし、
今の働き方のまま続けていくのは無理だと思う。

そういう意味では、
「ゼロになる」っていうのは40歳だけじゃなくて、
いつでもゼロになるイメージを持っておくというか。
「いざとなったら、何でもやるしかない」っていうのは、
そういうことかなと思う。

でもさ、自分が選んだことは、
すべての選択が、いい選択だと思ってるんだよね。
たとえそれが悪い選択だったとしても、
結果的にはいい選択になるというか。
人って、ついつい、
あっちの方が良かったんじゃないかって、思いがちじゃん。
でも、ぜんぶの選択、悪いほうには選んでないって、
なんか思ってるんだよね。
なにかしら、いい選択しか選ばないようにできている。
人間はそうプログラムされている(笑)

そりゃあ、悩みも不安もたくさんあるけど、
選ばないという選択肢はないわけだし、
だからこそ日々、制作物に真剣に取り組んで、
やるべきことをやっていれば、
なんかこう、いい選択しかせずに行くから、
なんとかなるんじゃないかなって。

生きていればウジウジすることもあるけど、
結局、ベストな人生しか生きられないっていうのかね。
そう思わないとやっていけないし、実際にそう思っているよ。

第3回 CMプランナーのN君