- ともみ
-
地域性の観点からも大切ですが、
日本酒づくりには、
そもそも減量である米がなくてはなりません。
減反や高齢化、農業離れなど、
多くの問題を耳にします。
どうすれば良いのでしょう?
- 穂坂
- 実は僕はいま、ちょっとした試みをしていまして。
- ともみ
- 試み、ですか。
- 穂坂
-
僕が住む神奈川県の小田原周辺には、
実は5つの酒屋さんがあるんですよ。
その1つが休造してるので、再生も兼ねて、
農業とあわせて。
色んな人を巻き込んで、動いています。
- ともみ
-
新規で酒蔵の酒造免許をとるのは、
ほぼ不可能に近いと聞きますものね。
そこの酒蔵を復活させて…
- 穂坂
-
復活させて、
周りの農家さんに酒米作ってもらって。
箱根山と富士山が見えて、酒蔵の杉玉が見えて、
田んぼがある、という昔の景観保全を目指します。
それでね
農業地域と住宅街に分断されているけど、
そこの交流を図る仕掛けもつくって。
- ともみ
-
おぉ、循環型社会。
地域再生ですね。
- 白樫
-
ちょうどうちも、
この4月から農業法人をはじめまして。
- 穂坂
- そうなんですね、はい。
- 白樫
-
これは夢なんですけど、
将来的には夏は農業やって、
冬場は酒造りをするっていう昔に戻して、
みんなの年収550万を目指します。
- 穂坂
- 最高ですねぇ~。
- 白樫
-
それも会社員として、じゃなくて、
独立した個人事業主としてやってもらう。
わたし達は、蔵人さんの確保に困っているし、
農業分野も人手不足です。
この2つを両立させたい。
ただ農業で採算をとるためには、
タイムラグが必ず生まれるので、
いきなり個人でやるにはリスクと負担が大きい。
「じゃあ一旦うちで引き受けよう」と、
農業をはじめました。
- 穂坂
- うんうん。
- 白樫
-
先生が仰ったように、
米がないとお酒はつくれない。
食べる米をつくる田んぼも残さなくてはならない。
本当は、日本って恵まれてるんで、
目の前の米と、魚と山菜とって食べてたら、
飢えることはないんですよ。
- 穂坂
- ないんですよ!そうそうそう!!
- 白樫
-
米の場合は、穀物なので保存できますしね。
これだけグローバル化すると、
世界のどこか一か所で災害が起きたら、
世界中が飢えちゃう可能性もあります。
だからそれぞれ自分たちで、
飢えない方法を考えておかないといけない。
だから日本は、
米はもっと大切にしなきゃいけないと思うんです。
なくなった田んぼは復活できない。
だから、
とりあえず酒米の田んぼとして遺しておきたいんです。
- ともみ
-
えっ??
『なくなった田んぼは復活できない』って、
どういうことですか?
- 穂坂
-
一回田んぼを休耕して、どうなるかっていうと、
田んぼには生えやすい雑草があるんです。
かやだとか葦だとか。ちょっと根性のあるやつ。
あれが生えちゃったら、厄介ですよ。
あとは、水性の柳とかね。
あんなの生えちゃったらもっと始末が悪い。
だから、常に田んぼはぐちゃぐちゃかき混ぜて、
雑草を生えさせないようにしないといけない。
- ともみ
-
全然わからないんですが、
雑草が生えたら抜けばいい、
っていうもんでもないんですか?
- 白・穂
- 抜けばいいってもんじゃない。
- 穂坂
- それの種がたくさん撒かれちゃうでしょう。
- ともみ
-
撒かれたところに、
稲が生えると・・・?
- 穂坂
-
稲と競争する。
稲の方が生育が遅いんですよ。
だから稲が上手くできない。
雑草はなぜ雑草かって、強いから雑草なの。
あれに植生があったら、雑草じゃないからね(笑)
- ともみ
-
うーん。稲が負けちゃって、
正常に生育しないんですねぇ~。
- 白樫
-
休耕田を復活させて、
そこで作った山田錦なんかは、
まるで五穀米みたいになっちゃってるんですよ。
- 穂坂
- そうです、そうそう。そうなんですよ。
- 白樫
- 米も痩せてるし。
- ともみ
-
それじゃあ満足なものができませんね。
休耕田だったので我慢して飲んでください!
っていうことも、
消費者としてはありえないだろうから、
酒造りには使えないですね。
- 穂坂
-
1年休めば3年かかりますよ。
2年だったら6,7年かかりますよ。
3年休んだら、戻すのに10年くらい。
田んぼは、机上の空論では語れません。
それをみんな知らないんです。
- 白樫
-
だから、食用でも酒用でも、
なんでもいいから田んぼとして使い続けて、
放っておかないことが大切なんですよ。
- 穂坂
- あともう一つの問題は、経営の仕方でしょう。
- ともみ
- 後継者問題とか?
- 穂坂
-
そう。山間地農業や小規模農業では、
親が子供たちに自信をもって、
「やれ!」「継げ!」って言えない。
子どもたちに任せる、とか、
継がなくていいよ。ってなっちゃうと、
都会でサラリーマンになったっきり、
帰ってこないですよね。
たとえ収入が得られるとしても、
農業の辛さはなんとなく見て知ってますから、
「ああいうことしたくない」ってなりますよ。
- ともみ
-
うーむ。なるほど。
自分に置き換えたら、それは、
容易く理解できる気がします。
- 穂坂
-
小さいころからずっと、
「継ぐんだぞ」「ここを守るんだぞ」って、
ずっと言ってたら、そうなりますよ。
冒頭で話した味覚じゃないけど、
そういう風に育てたら自然とそうなりますよ。
- ともみ
-
意識を強く持って、
それを遺そうとしていけば、
そうなりますか、ねぇ?
- 穂坂
- なりますよ。
- ともみ
-
でも、そう言われたら、
農業だけじゃなくて、
酒蔵の跡継ぎ話も、
同じようなことを耳にしますね。
- 穂坂
-
そう。
昔から親から、継ぐものだって教えられてきたんですよ。
この間ね、卒業生が僕のところに来て。
そこの息子がちょうど大学生になる年だったなぁ、と、
「息子はどうしたの?うちに来ないね」と言ったら、
「僕も親父から継げとは言われなくて、
任せられたので、僕もそのつもりで。
子どもに任せています。子ども次第でしょうね」って。
- ともみ
-
うーん。
他の日本の世襲制度も、
今は同様かもしれませんね。
- 穂坂
-
特に酒造りはねぇ。
昭和50年代以降、消費量が減り続けていったじゃない。
まだ僕の年代までは良かったんですよ。
継いで仕事にしても良いと思える時代だったんですよ。
- ともみ
-
そうですね。
わたし達の世代は、
生まれたときから、ずっと下降の一途。
日本酒業界がものすごい勢いで、
斜陽業界と化していった時代です。
華やかなときを、全く見たことがないんです。
- 穂坂
-
そのくらいの世代だと、
糸魚川のそばの蔵に、卒業生がいるんですけど。
- ともみ
- 加賀の井酒造の小林さんですね。
- 穂坂
-
はい。
彼が大学にいた頃の日本酒業界は、
やっぱりかなり厳しかった。
でも、それでも本人は頑張ってやっていきたい。
継ぎたいって一生懸命になって。
今でも気丈にやっていますよ。
そうしたら弟も戻ってきたんだけど。
- ともみ
-
そうなんですね。
その決心たるや。
剣菱さんももちろん厚い歴史がありますが、
加賀の井酒造さんも、
小林さんで18代目といいますから、
その重みって、
ちょっと想像してみるのも苦労します。
- 穂坂
-
それはあくまでも、稀なケースでね。
大部分の蔵は、
財産があれば、切り売りしながらやって。
そういう時代なんですよね。
農業もそうなんですよね。
- ともみ
- そうなんですね…。
- 穂坂
-
農業の話に戻りますが、
戦後すぐ農地解放で小作になりました。
あれによって、多くの方が農地を手放してしまって、
もともと面積の小さい日本ですから、
そこが宅地化していって。
田んぼがモザイク状になったんです。
- 白樫
-
そうなんですよ。
うちも農業をはじめて、
まず困っているのは田んぼの確保です。
作業しにくい棚田とか、斜面とか、
そういった場所からみなさん手離していきます。
それに加えて、
その一帯が一気に手に入るわけではない。
田んぼがそれぞれ飛び飛びになるので、
作業しにくいんです。
- ともみ
-
どうやったらこれから、
農業は復活していくんでしょうね?
- 白樫
-
農業は復活するんじゃないでしょうか。
あとは、誰が手を挙げて集約するか。
みんな同時に農業をやめたり、貸し出しませんから、
それまでは赤字が出ます。
それでも請け負う人がいるかどうかで、
今後の農業は変わるんじゃないですかね。
- 穂坂
-
田んぼをちょっと持っていても、
機械などの設備投資や維持費にお金がかかるため、
生活することができません。
ここ以上っていうボーダーラインがある。
だから、
田んぼを集約できてくると随分安定するから、
また昔みたいにしっかりとした農業基盤ができる。
と僕も思っていますよ。
どこがやるかと言えば、
やっぱり剣菱さんのように、地方の造り酒屋さんとか。
- ともみ
-
少しずつですが、そういう動きが、
たしかにありますね!
- 穂坂
-
そうですね。
大手さんとは違う形だけど、
自分の田んぼを作って、
自分たちで酒造りをやるって増えてるでしょう?
もう少し前からその動きはありましたけど、
近ごろは本格化していますよね。
- 白樫
-
神奈川県の泉橋酒造さんは、
結構やっているようですね。
- ともみ
- あ、海老名の!
- 穂坂
-
ああ、そうですね。やってますね。
あと、あそこは早かったんじゃないですか。
「清泉」の久須美酒造。
- ともみ
-
「夏子の酒」のモデルとして、
有名なところですね。
- 穂坂
-
そう。徐々に増やしたみたいですね。
あと、糸魚川にある「根知男山」の渡辺酒造店。
あそこは、結構大きな農家で。頑張ってますね。
それでも米が足りない。
だから剣菱さんなんて、相当田んぼを持たないと。
- ともみ
-
全部まかなうとなると、
とんでもないことになりそうですね~!
- 穂坂
-
いや、でもそのくらいの気持ちでいかないと、
大変なことになりますよ。
農業はできませんよ。
- 白樫
-
本当そうですね。
先生の仰る通りです。
なんとか田んぼが集まると良いんですが。
- ともみ
-
そうですね。
剣菱さんが使用されているのは、
山田錦の特A地区※です。
より一層守られていくことを、
願ってしまいます。
[※山田錦の特A地区・・・酒造用の米にも等級があり、その最高ランクのものを作る地域の呼び名。兵庫県の一部の地域が指定されている。酒米の王様と呼び名が高い山田錦、の最高位なのでNO.1の酒米といっても過言でなく、農家の方々もその誇りを持ち育てている。]
(つづきます)