- 白樫
-
前、蔵に30人の大学生が来ましてね、
見学して試飲して、その後で、
「週1回以上、なんのお酒でもいいから、
アルコールを口にする人?」
って聞いたらたった1人でした。
- 穂・と
- うわぁ!1人。本当ですかあ。
- 白樫
-
しかも、その1人が、
中国からの留学生の方で。
- 穂・と
- うわぁ……。
- ともみ
-
そうなると、もはや日本酒の今後うんぬん、
とかの次元ではないですよね。
- 白樫
-
そうなんです。
なぜだろう?と思って、
それぞれに直接聞いてみたんですよ。
そうしたら、友だちと会うことは好きなんだけど、
会うことの重要性はあまり感じてなくて、
会っているっていうことを写真に撮って、
SNSを通じてそこにいない人たちに、
知らせることが大事なんですって。
- 穂坂
- ほぉ。
- 白樫
-
お酒を飲むと顔が赤くなるでしょう。
写真写りが悪くなるんだそうですよ。
あとは、
居酒屋で千円ちょっとの予算だと、
テーブルの上がかなり閑散とするけど、
スタバで同じ金額を使うと、
豪華でかわいい写真が撮れる、と。
「なんでスタバじゃだめなんですか?」
って逆に聞かれちゃいました。(苦笑)
- ともみ
-
それは、お酒に関わる者としては、
かなりショックですね。
千円ちょっとあるなら、
缶チューハイとビールに缶詰。
だめですかね?
私ならそうしちゃうんですけど。
- 白樫
- いや、それじゃあ写真うつりが…。
- ともみ
-
そうですよね。
そうじゃないかとは思いました。
- 穂坂
-
以前ね、『これからの日本酒の業界展望』
っていうテーマで学生に卒論を書かせたんですよ。
そしたら調査の中に、
学生が使えるお金っていうのが減ってきている、と。
小遣いの使用内訳で一番大きいのは、
IT関係だそうです。
今のお話のように、
友だちと一緒にワイワイするということも、
実はあんまりない。
1人でもいいんだそうですよ。
- ともみ
-
あぁ。携帯電話があって、
SNSにコメントがきたりすると、
一緒にいるような感覚になるのかもしれませんね!
- 穂坂
-
そう。そうなってくると、
お酒はいらないってことになってくる、と。
実は調べてみると、
これは若い世代だけじゃなくて、
もっと上の世代にもこの傾向がみられるんです。
家庭のお父さんたちも、
お酒を飲む環境がどんどん狭まってきてて。
- ともみ
-
改めて、
「なぜお酒を飲むんですか?」と、
聞かれたら、なんて答えましょうか?
- 穂坂
-
酒の飲み方で、
大昔から今まで変わってないのは、
コミュニケーションのツールとして使われていること。
人間関係を保つためにありますよ。
平安時代だって同じなんですよ。
今よりもっと明確な上下関係があった中で、
それを調整するための酒ね。
昔の人も「あぁ同じだなぁ」って思いますよ。
- ともみ
-
平安時代は、
偉い人と目下の人とが一緒に飲むんですか?
- 穂坂
- 一緒に飲んだみたいですよ。
- 白樫
- お下がりをちょうだいしたり。
- 穂坂
- それも当然ありますよね。そうですね。
- ともみ
- お下がりってなんのことですか?
- 穂坂
-
お下がりは、神様に供えたものを下げてきて、
それでいただくものですよ。
- ともみ
- ああ、はいはいはい!なるほど。
- 穂坂
-
それを使って、みんなで楽しむんですよ。
もちろん上下があるけれども、
一緒に酔って楽しみながら、
自分の位置とか今やってることとか、愚痴とか、
そういうことを全部言い合いながら、
人間関係の親睦を図ったようです。
だから、昔からなんにせよ酒だったじゃないですか。
これが昔からある文化です。
出逢いで酒、別れで酒、ですもん。
楽しいときも酒、悲しいときも酒。
- ともみ
-
でもこんな世の中ですから、
別に酔わなくたっていいじゃない。
お酒なしで同じことをすればいいんじゃない。
って言われちゃうじゃないですか。
お酒で悪いことだって起こるじゃないか、とも。
- 白樫
-
そういえば、立川談志師匠が昔、
「酒のせいで悪くなるんじゃない。
そいつが悪いってことを酒が教えてくれるんだ※」って言っていたような。
(※正しくは「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」)
- 穂・と
- (笑)
- 穂坂
-
はいはい。
アルコールって人の脳を麻痺させますでしょう。
一番最初に崩れるのは、理性の部分なんですよ。
理性が崩れた瞬間に、仮面が剥がれる。
そうすると、その人の持っている本質が出ます。
理論的にいうと、
酒が悪いんじゃなくて、
その人が悪いか?悪くないか?が出るんですよ。
- ともみ
-
あぁ、なるほど。
その人の本質が。
- 穂坂
-
なんとか上戸なんていうのはまだ可愛い。
泣き上戸、笑い上戸、怒り上戸、泣き上戸…
普段は一生懸命、理性で抑圧してるんですよ。
お酒を飲んだら楽しい人っているでしょう。
本当は普段から楽しくしたいんだけど、
周りから軽蔑されるからって隠してる人もいますよね。
酒飲むとその人自身がわかります。
だから、酒飲みで悪い人っていうのは、
本心が悪いの。
- ともみ
- (笑)
- 穂坂
-
酒が悪いんじゃないんですよ。
その人の人間性が出ちゃう。
そこだけなんですよ。
だから「酒飲みにウソつきはいない」ってよく言いますよ。
- ともみ
-
聞きますね。
あっ!そうか。
そもそもウソをつけなくなるんですね。
- 穂坂
-
そうです、本性出ちゃうから。
だからそれでも嘘つく奴は、本当の悪い奴だって。
- 3人
- (笑)
- ともみ
- それはどうしようもないですねぇ(笑)
- 穂坂
- どうしようもないです。
- ともみ
-
騙されてる側も酔ってるから、
騙されたことも、
気づかないかもしれないですけどね(笑)
- 穂坂
- かもしれませんけどね(笑)
- 穂坂
-
酒を飲むと、
理性から剥がれていくから融和になり、
それでコミュニケーションを潤滑に図れると。
で、段々楽しくなっていくけど、
度を超すと、今度は上戸になったり、
酩酊にはいったり。
その酩酊に入る前、
ちょっと千鳥足になりそうで、
呂律が回らなくなったら、
もう飲むのをやめないといけません。
そうすれば楽しいまま終われる。
このことを、みなさんが知ってくれれば、
良いんですけどねぇ。
- 白樫
-
そのコミュニケーションの機会が減っている、
その原因のひとつは、
本音で話せなくなってるから。
ということも、
あるかもしれませんね。
- ともみ
-
本音を話すとマズイってことですか?
だからお酒を飲んで酔うと都合が悪い?
- 白樫
-
確かに今って、テレビもSNSも、
なにかあれば、立ち直れなくなるまで、
みんなで叩きますからねぇ。
- 穂坂
-
なんかちょっと言い過ぎちゃっても、
今までなら、
「酒の席でごめんね」っていう弁えと教育もあったから。
グレーというか、程々というか、
そういう日本の文化が良かったのに。
今は表面に見えている言葉と事象だけをみて、
それで判断するでしょう。
- ともみ
-
そうですね。
それぞれの背景には、
色んなことがありますからね。
- 穂坂
-
結果があるということは、
必ず原因があるっていうことですから。
たとえばある日突然、
違う国に連れて行かれたら、
今まで自分が得た経験を駆使して、対処しますよね。
最初は様子伺いだけで、動けないかもしれない。
全然体験したことないところにポンって連れて行かれる、
その時のように配慮のようなものが必要ということです。
- ともみ
-
そうですね。知ったつもりで、
「要はこういうことでしょう」と判断するのは、
大変危険なことですね。
あ!海外という話で思い出しましたが、
ベトナムでもアメリカでも、
言葉の通じない海外の酒場で、
気がつくと仲良くなって乾杯している、
ということがよくあります。
お酒ってきっとそういうことですよね。
- 穂坂
- そうです。その通りです。
- ともみ
-
ムリに言葉で解決しなくてもいい、
ってさせちゃうのはお酒ですもんね。
- 穂坂
-
雰囲気を含めて、
なにかを察し合うんですよね。
- ともみ
-
以前白樫さんにご紹介いただいた、
御影駅前の角打ち。
- 白樫
- あぁ!面白いところでしたでしょう。
- ともみ
-
お店も良かったですけど、
そこにいる常連さんもとても素敵な方たちで。
みんなで仲良く飲んで、
その後一緒にもう一軒行っちゃいましたよ。
どこにいてもお酒さえあれば変わらないなぁ~、
としみじみ思いましたよ。
- 穂坂
-
いや、それはわかんないですよ。
それは人徳かもしれない。
そういう雰囲気を醸してるのかもしれない(笑)
- ともみ
-
”雰囲気を醸す”って良い言葉ですね。
お酒っていいなぁと、つくづく思いました(笑)
- 穂坂
-
僕はね(学生に対して)、
「飲み屋に行くときは最低3人以上で行け」って言うんです。
そうすると1人2種類ずつ頼めば、計6種類。
おつまみも同様で、
それだけの組み合わせを体験できますでしょう。
ひとりで6種類飲むの大変ですからね。
- 白樫
-
3人で同じお酒飲んで、
違う感想を言い合うってこともいいですね。
- ともみ
-
それぞれの受け取り方があるんだって、
思えますよね。
先日、別の蔵のお酒を混ぜて、
「この酒とこの酒は合う」
「この料理と合わせると最高だ」
と言って遊んでいましたよ。
- 穂坂
-
そう、その遊び心が大事でね。
自分たちが好き勝手やって、
色々試してみるのはルールなんてないんですよ。
正解を求めようとしなくて良いんです。
- 白樫
-
そうですね。
それはある意味、全部正解だし、
正解はないですからね。
- 穂坂
-
そういう前提でいけば喧嘩にならないですよ。
「俺はこう思う」
「あれ、出身どこ?」から話は始まりますよ。
- ともみ
-
好きな人のタイプが違うように、
それぞれの感じ方があって、
みんな好みって違いますからね。
そりゃあ中には人気の高い、
女優さんやアイドルやモデルさんはいるでしょうけどね。
- 穂坂
-
平安時代や大昔と比較すると、
食べられる料理の味つけは濃くなってきています。
すると、
日本酒だけじゃ足りなくなってくるんですよ。
あとは、最初の一杯目から日本酒を飲むかっていうと、
- 白・と
- ビールですねぇ。
- 穂坂
-
僕もそれでいいと思うんです。
好きな酒で気持ちよく喉を潤して。
特に一杯目は、喉越しの好き好きがあるでしょう。
僕だって最初は、ビールですもん。
簡単なつまみを食べたりして、
それで、さぁしっかり食べようかって時に、
日本酒に移るかもしれないし。
その時その時の自分の体調も考えて、
自由に選ぶのがいいと思うんです。
お酒を飲む時まで、
「こうじゃなきゃいけない」なんていったらね、
それほどつまらないものはないですよ(笑)
やっぱりね、楽しく飲まなきゃ酒じゃないから。
- 白樫
-
先生が仰る通りで、
楽しく1日を終えられる酒が一番いい。
そう思っています。
- 穂坂
-
そうです、その通りです。
僕はね、飽きずに最後まで楽しく飲めたら、
それが一番良い酒だと思ってる。
でも身体に悪いかもわからない(笑)
- ともみ
- つい飲みすぎちゃってね(笑)
- 3人
- (笑)
- 穂坂
-
さっき言ったように、
日本酒がこうじゃなきゃいけないっていうの、
僕はないと思ってるのです。
好きに呑めばいい。
でも、味がどんどん変わってきて、
味覚がずれてくるのは、
それはまた別の問題。
それも食育のひとつだと思うんですよね。
それを上手く伝えていくことができないと、
昔ながらの伝統食も一緒に消えていく。
- ともみ
-
子どもだけじゃなくて、大人も。
みんなに食育が必要ですね。
地域経済、農業、
親子、上下、友人関係、
日本や日本人としてのアイデンティティ。
大昔の歴史から現代にいたるまで、
様々なものと密接に結びついている、
日本の酒と書いた「日本酒」。
今一度目の前のものだけに固執せず、
立ち返り、見直してみる必要があるのかもしれませんね。
先生、白樫さん、
本日は様々なことを教えていただきました。
ありがとうございます。
- 穂・白
- ありがとうございました。
(つづきます・現地レポート)