- ともみ
-
先ほど味覚のはなしをしましたけど、
舌もさることながら、
鼻も大切ですよね?
- 穂坂
-
そう。鼻っていうのは大事です。
最初は鼻で香りを感じながら、
食べていくんですよ。
香りがなければおいしさを感じません。
試しに、鼻をつまんで食べてみてくださいよ。
- ともみ
-
わたし、
時々食事もお酒もやってみますよ。
お行儀悪いんですけどね(笑)
舌と同じで、
鼻も訓練すれば鍛えられるものですよね?
- 穂坂
-
されますよ。ただ鼻ってね、
訓練はできるけど、
ものの数分で慣れちゃうんですよ。
- 白樫
-
剣菱の社員は、
蔵にある木の道具に慣れていますから、
樽の香りなどには、普通より鈍感だと思いますよ。
- ともみ
-
えっ!
あんなに強烈な木の香りがするのにですか!
ああ、でも言われてみたら、
自分の家の匂いってわからないですよね。
- 穂坂
- そうそうそう、それと同じ。
- 白樫
-
それを自覚していますから、
利き酒する時には、
自分の匂いとかコーヒー豆とか嗅いで、
それから注意を払いながらやりますよ。
- ともみ
-
うんうん、
わたしも利き酒の時には、
自分の匂いを嗅ぎます。
- 穂坂
-
鼻が敏感な人と、
そうでない人がいるけど、
両方とも数分で慣れちゃうから。
味覚はそうはいかないけど。
- 白樫
-
香りと言えば、
ソムリエの方がよく言いますけど。
お酒の香りの中にある、
なにかのニュアンスを嗅ぎ取って、
それを使って料理を合わせたらおいしいからって。
- ともみ
- なにかのニュアンスってなんですか?
- 白樫
-
たとえば、
カラメルとか蜂蜜のような香りが、
含まれていたら、
料理の隠し味でみりんとか蜂蜜を使う、
んだそうですよ。
- ともみ
-
あぁ、うんうん。
わかります!
- 穂坂
-
そうですね。
それにはまず、なにかの香り、
っていうのを嗅ぎ取らないといけない。
それは経験によるところも大きいです。
だけど彼らのすごいところは、
もし経験がなかったとしても、
想像力で何かを引っ張り出してくるところです。
- ともみ
-
それには匂いの体験もそうですけど、
日々表現をし続けて、
訓練する必要性がありそうですね。
- 穂坂
-
酒と食べ物の合わせ方も、
あれとあれだったら合うんじゃないかな?
っていうイマジネーションは大切ですよ。
でもそう思ってたって、
「あ~違ったかぁ!」って、
僕だって失敗する時もありますから。
- 白・と
- あるある(笑)
- 穂坂
-
ヒントみたいなものはありますよね。
香りとか酸とか、同系のものを見つける。
要は、刺激となるものの共通点を探すんです。
発酵食品に発酵食品っていうのは、
そういうことですよ。
極端に対比するものを合わせると、
おいしくなるってことも稀にありますけど、
失敗した時も大きい。
- 白樫
-
うーん。
マイナスかけるマイナスが、
ものすごくプラスにいくこと、
たまにありますねぇ!
- ともみ
-
ありますね~!
感動的な出逢いです!
- 白樫
-
食と酒がものすごく合った時って、
1+1が3とか4になるんですよね。
それを一回体験するともう戻れなくなる。
楽しみが増えますよね。
- ともみ
-
本当の美味しさを体験すると、
もう元の場所には戻れない。
それ、よくわかります!
- 白樫
-
良いマッチングに出逢った時の幸福感を、
より多くの人に感じて欲しいですね。
お酒って生活必需品じゃない。
だからこそ、生活の喜びや楽しみたらしめたいし、
どんどんお伝えしていきたいんです。
「あ、こんな組み合わせってあり?」、
っていうのを見つけたりすると、
言い表しがたいほどの幸福感がありますよね。
- ともみ
-
食べ物とお酒を合わせて、
それぞれ味わうより遥かにおいしくて、
感動のあまりに思わず泣いてしまった、
っていうことが、今までで3度あります。
- 穂坂
-
ほぉ、泣いてしまった。
それはすごいですねぇ。
- ともみ
-
そのひとつは、
剣菱さんの「瑞穂」というお酒と、
フランスにある行列ができるという、
人気フロマージュとのマリアージュでした。
あのなめらかな食感とチーズの臭み、
それを包み込むお酒の酸味と旨み。
ああいう感動体験がお酒の楽しみです。
それに体験そのものが、
わたしだけの財産だと思っています。
- 穂坂
- そうそう、そうなんですよね。
- 穂坂
-
似たものといえば、
チョコレートに熟成古酒が合いますよね。
- 白・と
- うんうん!!
- ともみ
-
東京で飲んでいる時には、
良さがわかりにくかったけれど、
蔵のある土地に足を運んでみて、
地元の個性的な特産物とあわせたとき、
「あぁ、だからこの酒ができたのか!」、
って腑に落ちたことがありますね。
- 白樫
-
ジュラのワインがまさにそうですよね。
「なんだこの酸味!」と思うんだけど、
現地の料理と合うんですよね。卵料理とか。
- 穂坂
-
一般的には、
ワインと卵料理って合わないと、
言われますけど、
酸を包み込んでくれるって感じなのかな。
- 白樫
-
「酒を飲まない人は人生の半分損してる」
なんてよく言いますけど、
あれは飲めない人への嫌み、
とかでは決してないと思うんです。
- ともみ
-
あぁ、わかるような気がします。
実際に体験してみるとわかりますが、
おいしいものを味わう幸福は何にも代え難い。
さらに”酔う”という免罪符まで手に入れて、
飲めない人には本当に申し訳ないですが、
これはあまりにも満たされた、
幸せなことだと真剣に思っています。
(つづきます)