もくじ
第0回”エア”本屋「いか文庫」とは? 2017-12-05-Tue
第1回「イカ」と「ラジオ」が好きな女の子 2017-12-05-Tue
第2回事後報告の女 2017-12-05-Tue
第3回バイトちゃんの同僚、バイトくんの脱退 2017-12-05-Tue
第4回3人揃った、3年ぶりの喫茶店 2017-12-05-Tue
第5回バイトちゃんと店主 2017-12-05-Tue

スポーツメーカーで働いていましたが、20代最後の年に本屋に転職し、今も都内の本屋で店長として働いています。
5年前からは自分でも、「いか文庫」という本屋をやっています。
本、音楽、焼きそば、そして栗が好物です。

「いか文庫バイトちゃん」という人のこと

「いか文庫バイトちゃん」という人のこと

担当・店主

第2回 事後報告の女

バイトちゃんの得意技は、「事後報告」です。

何かしらの行動を起こすその時は、特に何も言わず、
びっくりするような展開を迎えてから報告してきます。

その中でも、特大で、
いか文庫に大革命を起こしたほどの事例が2つあるので、
早速お話ししましょう。

<1つ目>
「糸井重里さんにお手紙を出したんですけど、
ご本人から、会いましょうってお返事が来ました。」

ある日突然、バイトちゃんにそう言われました。

私は以前、雑誌BRUTUSで糸井さんが特集された時、
その内容すべてに感激してたまらなくなり、
両親の分を買って、わざわざ実家に送ったことがあります。
その糸井さんに?
私たちが?
会えるの?
本当に?

信じられなかったけど、本当でした。

「エア本屋ってなんだ??
謎につつまれた「いか文庫」のみなさんにお会いしました。」
https://www.1101.com/news/2012-12-03.html

当時青山にあった東京糸井重里事務所に伺い、社長室に通され、
糸井さんと机を挟んでお話したのですが、
その場で糸井さんに、
「いか文庫を続けるために、当たり前に必要なこと」を、
優しく、でも衝撃的にババーンと突き付けられ、呆然としました。

「楽しければ、いいよね〜」という気持ちで、
それ以外のことを全く考えていなかったことを見破られてしまった!
そんな、恥ずかしくてたまらない気持ちになりました。

とてつもない打撃を受けた私たちは、
ひとまず事務所の前にかつてあったお店、大坊珈琲店に入り、
その素敵な雰囲気に浸ることもできぬまま、
会話もなくただぼーっと、途方に暮れました。

帰宅しても気持ちを戻すことができず、夜は夜で、
自分の甘い考えに大後悔しながら、お風呂でしくしく泣きました。

でも・・・
そのことがきっかけとなり、
いか文庫を趣味としてではなく、
仕事として必死にがんばってみよう、という決意が生まれました。

いか文庫は今年2017年に「5周年」を迎え、
来年3月に「6年目」に突入します。

あの日がなかったら。
糸井さんに言われた一言がなかったら。
そしてバイトちゃんがメールを送っていなかったら。
いか文庫は今頃、もうこの世には存在していなかったに
違いありません。

<2つ目>
「店主、音楽フェスやりたいって言ってましたよね?
企画書作ってJ-WAVEに送ってみたら、
本社に来てくださいってお返事が来ました。」

いか文庫の仕事は、
「あれやってみたいねぇ」「これもやれないかなぁ」
という、妄想から始まります。

「音楽フェス」をやりたい。
自分がそう発言したかどうかの記憶もなくなった頃、
バイトちゃんから、
「音楽フェスの企画書を作って、ラジオ局J-WAVEに送った」
と、突然報告を受けました。
いか文庫がスタートして2年目、2013年秋のことでした。

最初報告を受けた時は、全く意味がわからず、
頭の中が「?」でいっぱいになったことだけ覚えています。

当時、ラジオ局J-WAVEが、音楽にまつわる夢を叶えるための
「クラウドファンディング」サービスを立ち上げたのですが、
バイトちゃんはその情報をラジオを聴いていた時に知り、
「これは、店主の夢を実現させるチャンスかもしれない」
と思ったのだそうです。

「でも事前に伝えてしまうと、店主のことだから、
うじうじ悩んで実行に移せなさそうだな・・・」
と考え、”勝手に”企画書を作り、送信。

それが見事、J-WAVEの担当者の目に止まり、
「一度お話をしましょう」
と、お返事が来たのだというのです。

打ち合わせ当日、
入ったこともなかった六本木ヒルズの33階に登り、
全面、窓ガラスで囲まれたJ-WAVEのオフィスから
東京タワーが見えた瞬間、
自分が東京に15年以上住んでいることを忘れるくらい、
テンションと心拍数が上がりました。

そして、バイトちゃんが作った草案を元に、
あれもこれもと、やりたいことを詰め込んだ企画内容を、
テンション高めに、自信満々に披露しました。

「お台場の野外ライブ会場で、3DAYS開催。
全国の書店員さんに投票してもらって出演アーティストを決め、
会場には本屋さんのブースも作って、ライブハウス本屋を開店させる。
さらに、フェス開催と連動して、全国の書店でいか文庫フェアを
同時開催」

今考えれば、無謀すぎて、
穴があったら入りたいほど恥ずかしい、この企画。
当然、J-WAVEの担当の方々に、
「お台場3DAYSって・・・もう少し現実見た方がいいよ・・・」
と、言われてしまいました。

でもそのあとすぐ、
「この夢自体は素晴らしいから、最終目標として取っておいて、
今回はもう少し小さい規模でやってみたら?」
と、再チャレンジのチャンスが与えられました。

何度となく打ち合わせを重ね、
「本にまつわるアーティストとゲストを呼んだライブ」と、
「ライブハウスの中に一夜限りの本屋さんを開店」
という内容を盛り込んだ企画が出来上がり、
ついにクラウドファンディングに挑むことになりました。

けれど、クラウドファンディングが始まってもなお、
出演アーティストがなかなか決まらなかったことを筆頭に、
経験したことが無いことばかりが起こる、紆余曲折の日々。
ずっと走り続けているような感覚で、
心が折れてしまいそうになることもありました。

それでも、バイトちゃんと力を合わせ、
本当にたくさんの方々の力を借りながら、
期限前日ギリギリに目標の150万円を達成し・・・

2014年10月20日(月)
渋谷のライブハウスを会場にした
いか文庫企画の音楽フェス
「本音のフェス」(ほんねのフェス)が開催されました。


「本音のフェス」の全記録
http://www.ikabunko.com/fes/index.html

来場した方々がみんな笑顔で「楽しい!」と言ってくれること。
そして、ライブハウスの中に一日限定で現れた本屋に、
お客様が殺到してくれたこと。
すべてが夢のような一日でした。

そしてこれも、バイトちゃんの「事後報告」する判断がなければ、
絶対に実現できなかったことの1つ、なのですが・・・

開催に向けての準備の真っ只中、いか文庫最大の危機が訪れていました。

そしてそれは、
バイトちゃんにとても悲しい思いをさせてしまった、
私の大きな失敗でもありました。

第3回 バイトちゃんの同僚、バイトくんの脱退