お昼の営業時間を終えた頃。
わたしは約1年ぶりに東京都世田谷区駒沢にある
「駒沢 宮川」の暖簾をくぐった。
- わたし
- こんにちは!ご無沙汰しています!
- 大将
-
おお、よく来たね!
こっち入りな。これから、焼くから。
(厨房に入らせてもらう。)
- わたし
-
うわー!やっぱり、めちゃめちゃ肉厚ですね。
身がおおきい!
- 大将
-
今が一番、いい時期だからな。
うなぎが冬ごもりをするから、たくさん食べるの。
丑の日のうなぎとは太さが全然ちがうよ。
- わたし
-
バイトさせてもらって、冬が一番おいしいってことを
知ってからは、夏の丑の日だけ食べる人は
損してると思いますよ(笑)
- 大将
-
だろう?でも、あんまりそのこと知られてないからね。
この時期はせっかくおいしい時期なのに
客入りのことで、どこのうなぎ屋も大変だよ。
- わたし
-
うなぎって、いつ食べられなくなるか分からないのに
おいしい時期にその問題があるのは、せつないですね。
- 大将
- うん。それでいうと、うなぎ屋も減ってきてるみたいで。
- わたし
- そうなんですか?
- 大将
- うん。こないだ鎌倉から、お客さんが来てくれて。
- わたし
- そんなに遠方から?すごいですね。
- 大将
-
「地元の有名なうなぎ屋さんが
3店舗ぐらいなくなっちゃったから」って。
- わたし
- もうそんなことになってるんですね。現実として。
- 大将
-
後継者がいないんだろうな。うなぎだけじゃなくて、
もう、俺たちも絶滅危惧種だよ(笑)
- わたし
- それは困ります(笑)
- 大将
-
あとやっぱり、うなぎって
これぐらいの値段はするからさ。
(竹で2808円。梅で3780円。)
- わたし
- そうですよね・・・。
- 大将
-
スーパーなんかで安いうなぎが出回ってるから
余計ね・・・。安いほうがいいっていう気持ちは
俺もあるから分からないわけじゃないんだけど。
- わたし
- むずかしいところですね・・・。
- 大将
-
うちは立地と昔から通ってくれるお客さんのおかげで
なんとか、やっていけてる。
だけどオフィス街でやってる店なんかは厳しいみたい。
サラリーマンがランチで食べるのには向いてないから。
- わたし
- そうですよね。
- 大将
-
うん。だから食べに来てくださったお客さんには
本当においしいと思って、帰ってほしいんだ。
その思いから、うちはホントにいいうなぎを使ってるの。
できるだけ自然に近い状態で育てているうなぎ。
このうなぎを育てる養鰻場に行ったことがあるんだけど
見学しているときにうなぎが泳いでいる水を
コップですくって「飲んでみてください。」って
渡されたんだよ。育てている人に。
ギョッとするでしょ?
- わたし
- はい。飲んだんですか…?
- 大将
-
うん。飲んだら、めちゃめちゃおいしかった。
南アルプスの雪解け水なんだけどね。
俺、そこの社長に水を売った方が
いいんじゃないのって言ったぐらい(笑)
- わたし
-
へえ。人が飲めるような水を泳ぎまわって
このうなぎは育ってるんですね。
- 大将
-
そう。そんなきれいな水で育った貴重なうなぎを
殺してるわけだからさ
「うなぎの供養」っていうのもする。
ちゃんとお寺さんで供養するの。
- わたし
- ええ。
- 大将
-
東京にあるうなぎ屋の連中が喪服を着て、寺に集まるの。
俺みたいに頭を剃って、坊主にしてる職人がいっぱい来る。
もうホント、映画のアウトレイジみたいなんだよ(笑)
- わたし
- (笑)。そんなことまでしてるんですね。
- 大将
-
そういうこともしてるし日々、貴重な生きものを
料理してるって噛み締めながら一匹いっぴき捌いている。
食べる人に美味しいって思ってもらいたい一心で。
- わたし
- はい。
- 大将
-
だから、うなぎの値段って高く感じるだろうけど
俺はまだ、うなぎは安いぐらいだと思う。
けっして儲けてないよ。まず、やっぱり貴重だから高い。
- わたし
-
いまはよくわかります。ニホンウナギは雷鳥と同じぐらい
絶滅が危惧されてるそうで。
- 大将
-
そうそう。それにただ肉を切って、焼くわけじゃないから
当然、技術がいる。うなぎを裂く、串を打つ、焼く。
その工程を1人で全部できない人は職人でも
いっぱい、いるんだよ。
- わたし
- え!そうなんですか?
- 大将
- うん。裂くの専門だから、焼けないとか。
- わたし
-
大将がすべて1人でやってるのを見てたから
そういうものかと思ってました。
- 大将
-
いやいや。指が熱くて、焼けないんだよね。
そういえば親父は
一番、面白いのは火鉢だって言ってたな。
- わたし
- 火鉢というのは「焼く」ところですね?
- 大将
-
うん。真っ白なうなぎにタレを付けてる工程が
絵を描いてるようだって。
全部、同じ色にしなくちゃいけないから。
- わたし
- ほうほう。
- 大将
-
火鉢には段が2段あって、その段と段の間が一番熱いから
下の段に乗せておくと、うなぎの上の部分しか
色が付かないんだよ。色は火力が強いところに付くから。
- わたし
-
はい。
- 大将
-
今度、上の段に乗せたらうなぎの下の部分に色が付く。
そうすると段の間の火が直に
串に当たってるから熱いわけだよ。
- わたし
- うわ・・・それは熱そう・・・。
- 大将
-
その串を持った時に「熱いっ!」って離しちゃえばアウト。根性と駆け引きだよ。今は1枚だから簡単だけど。
俺、この豆腐みたいに柔らかいものを
5枚や6枚は同時にこの色で焼けるからね。
- わたし
- はあ・・・すごい・・・。そんなことしてたんですね。
- 大将
- そうだよ。だから決して高くはないと思うんだけどな。
- わたし
-
そうですね。今、お話を聞いてて思ったんですけど
「寿司」はカウンターで食べるような
所謂、いいお店だと、1人あたり1万円とかしますよね?
- 大将
- するよね。寿司は技術あるよなあ。
- わたし
-
スーパーでパックの安い寿司も売ってるけど、
みんな高いお金を払って
お寿司屋で食べようと思う時もある。
- 大将
- うんうん。
- わたし
-
たぶん、スーパーの寿司とお寿司屋さんの寿司を
別の料理のように思っている感じもあるのかなって。
うなぎもそうなっていくと良いですよね。
- 大将
-
うん。そう思ってくれてるとうれしいな。
「今日はスーパーのうなぎで我慢しよう。」
「今日は七五三だから、うなぎ屋で食べよう」とか。
「ここぞ」の時のご馳走だと思うし、それがいい。
(つづきます。)