もくじ
第1回ちゃんと大人になれているかな? 2017-12-05-Tue
第2回うなぎのはなし。 2017-12-05-Tue
第3回仕事のはなし。 2017-12-05-Tue
第4回将来のはなし。父親のはなし。 2017-12-05-Tue
第5回結婚のはなし。 2017-12-05-Tue
第6回不安のはなし。家族のはなし。 2017-12-05-Tue
第7回大将との話を終えて。 2017-12-05-Tue

1994年生まれ。学生です。
水泳、空手、チェロ、生徒会活動、
シンガーソングライター、広告会社のインターン。
今日まで色々なことに挑戦してきました。
今度は「書くこと」に挑戦します。
よろしくお願いします。

大将!大人ってなんでしょうか?

大将!大人ってなんでしょうか?

担当・川西

第4回 将来のはなし。父親のはなし。

わたし
大学を卒業して、いざ修行をはじめるという時に
お父様に教わることは考えなかったんですか?
大将
ああ、それは最初からまったく考えなかった。
親子同士だと馴れ合いがあるから。
よそへ行って、怒鳴られながら修行しようと思ってた。
わたし
あー。
大将
生意気になったり、甘えたりするだろうから。
親だって、息子の性格は分かってるだろうから
言いたくないことも言っちゃうだろうし。
喧嘩になるよ。特に男同士だからね。
わたし
その感覚は分かる気がします。
大将
でも完璧にできるようになったら
親父の店に帰ろうとは思ってたよ。
まあ突き詰めていくとキリはないから
ある程度できるようになったら帰ろうって。
まず大学を出てうなぎ屋をやってるのが
珍しかったから、その過程で色々あったけど。
わたし
そうですよね。高校を卒業して修行をするという選択肢も
あったと思うんですけど、大学へ行こうと思ったのは
どうしてですか?ちょうど、わたしは将来の選択を
しているところなので気になります。
大将
あー、それは親の気持ちが影響してるかな。
親父は戦後の厳しい暮らしを経験しているんだ。
埼玉にある防空壕の中から東京の方面が
真っ赤に燃えてるのが見えたって昔、言ってた。
わたし
それは過酷だったんでしょうね。
大将
戦後は物がなくて、食っていけないから
親父は東京のうなぎ屋に丁稚奉公で行ったんだと。
時代がそんな時代だから、中学校もろくに行けなくて
17歳の時にはバリバリ仕事してたらしい。
わたし
すごいですね。
大将
その頃、ほんとは悔しかったって言ってたんだよ。
一番、遊びたい年頃に仕事せざるをえなかったから。
失われた青春時代みたいなことだと思う。
そういった辛いことを経験してるから
自分の子どもには大学に行ってほしいって
気持ちでいてくれたんだと思うんだよね。
わたし
ああ、そうだったんですね。
大将
あと「今のうちに遊んでおこう」って思ったのもあるな。
うなぎ屋の世界に入れば
平日のほとんどに加えて、土日も働く。
そういう生活になるんだって知ってたからさ。
わたし
はい。
大将
それこそ小学生の頃、親父は土日も仕事があるから
一緒に出かけたり、遊んだりできなかった。
でも夏休みや冬休みの定休日だけは海や山に
連れて行ってくれたんだ。うれしかったね。
そんな感じだったから、厳しいのは分かってたんだな。
わたし
ああ、なるほど。
大将
つまり勉強したくて、大学に行ったわけじゃないんだ。
うなぎ屋になると決めてたから
あえて大学に行って、遊ぶ。
4年間は徹底して、やりたいことやるって決めてた。
そのかわり学費、出してもらってるから
きっちり4年で卒業して、すぐにうなぎ屋をやろうと。
わたし
うんうん。
大将
そう思って、大学に行くことにしたから入学前には
厳しくて、辛い「山岳部」に入部するって決めてたんだよ。
そこで精神的に鍛えておかないと
うなぎ屋なんかできないぞと思ったから。
わたし
そうだったんですね。
じゃあ、逆算って言ったらおかしいですけど
先回りして考えて、そういう選択をされたんですね。
それで無事に卒業されて、職人の道に進まれた。
大将
なんとかね。山岳部に没頭していたから
単位はほとんど4年生で取ったよ(笑)
死にもの狂いで(笑)
わたし
そうだったんですね(笑)
それで父親と同じ仕事をするっていうことについて
ひとつ聞きたいことがあるんです。
大将
というと?
わたし
わたしは今「書くこと」に取り組んでいるんですね。
鍛錬して、仕事にしたいとも考えているんですが
その書く仕事というのは、わたしの父の生業なんですよ。
大将
そうだよね。作家さんだもんね。
わたし
わたしにとって、父はものすごく巨大な存在なんです。
同じ土俵で仕事をして、自分が父を超えられると
今はとても思えなくて。でも、同じ仕事をするならば
必ず超えるというか大成する使命のようなものが
あるのかなと思ったりもするんです。
 
大将はうなぎ屋になると決めた時、
「いつか親父を超えてやる!」
って思ったりしたことあるんですか?
大将
ううん。絶対、越せない。
わたし
あ、それは最初から越せないと思ってたんですか?
大将
うん。時代が違うよ。高度経済成長の時の
あの忙しさはもう2度と味わえないと思う。
ハンパなく忙しかったらしいから。
その頃の仕事量をこなした人達だからね。
親父の世代は「達人」が多いの。だから越せない。
わたし
へえ。
大将
店で親父の代から通ってくれているお客さんに
「お父さんと同じようなうなぎ出すね。」って
言われるとすごい嬉しい。だけど、越せてないね。
0から腕を磨いて、土地買って、店を建てて
一人でうなぎ屋をやってみろって言われても
やれないもの。それを成し遂げた親父は偉大だよ。
わたし
そんな風に思われてたんですね。
大将
まあ正直に言うと、越そうと思って頑張ってるけど
越せないだろうなって思いも半分ある。
わたし
ああ、そうなんですか。
大将
その龍ちゃん(わたし)の気持ちに少し近いと
思うんだけど「認めてもらいたい」って思いがある。
越せないのが分かってるから「お前も上手くなったな」って
親父に認めてもらいたいと思っているというのが
一番しっくりくるかな。
わたし
それはもう、叶ったんですか?
大将
叶ってんのかな…。まあ俺のうなぎを美味いって
言って食ってくれたら叶ってんじゃないかな…。
わたし
不明なんですね・・・。
大将
言ってくれないんだもの(笑)正直じゃないから(笑)
ゴールのない世界だから言わないんだろうけどね。
 
まあ親子って「下手だなお前」とか、
「お前だいぶ上手くなったじゃねぇか」とか
ドラマのようなセリフは出ないと思うよ。
わたし
言われてみれば、そうですね。
すこし自分のなかのモヤっとしたものが
消化された気がしています。

(つづきます。)

第5回 結婚のはなし。