もくじ
第1回ちゃんと大人になれているかな? 2017-12-05-Tue
第2回うなぎのはなし。 2017-12-05-Tue
第3回仕事のはなし。 2017-12-05-Tue
第4回将来のはなし。父親のはなし。 2017-12-05-Tue
第5回結婚のはなし。 2017-12-05-Tue
第6回不安のはなし。家族のはなし。 2017-12-05-Tue
第7回大将との話を終えて。 2017-12-05-Tue

1994年生まれ。学生です。
水泳、空手、チェロ、生徒会活動、
シンガーソングライター、広告会社のインターン。
今日まで色々なことに挑戦してきました。
今度は「書くこと」に挑戦します。
よろしくお願いします。

大将!大人ってなんでしょうか?

大将!大人ってなんでしょうか?

担当・川西

第3回 仕事のはなし。

大将
どうぞ。すぐ、食べてもらいたいな。
今、この瞬間が最高だから。

わたし
いただきます。

もぐもぐもぐ。

わたし
おいしいです。それから、やっぱりキレイですね。すごく。
大将
そう?それ一番、うれしいよ。
俺、「おいしい」もそうなんだけど「おいしい」の前でも
後でも、「君の仕事はきれいだ」って言われたい。
わたし
へえ。それはどうしてですか?
大将
「美しい」「きれい」は
「おいしい」とイコールになるんだよ。絶対。
俺はそう思ってる。だから美しくできないと
自分が嫌になる。
わたし
うんうん。
大将
見た瞬間がマズそうだと、
口に入れたときにも感動しないからね。
だから、「美しい」にこだわるの。
わたし
そうだったんですね。
ところで、不躾な質問ですけど
大将はうなぎ屋になりたくて、なったんですか?
大将
なりたかったね!先代の親父が、かっこよかったから。
もう小学生の時から言ってたらしい。
わたし
そうだったんですか?
大将
うん。小学校3、4年生のときぐらいかな。
わたし
はあ、そんなに早くから。
大将
子どもの頃って、親の実家に帰ると親戚に
「将来の夢は?」って、必ず聞かれるじゃん。
「大きくなったら、何になりたいの?」って。
わたし
聞かれます。
大将
もう普通に「うなぎ屋をやる」って言ってたらしい。
その前は「ウルトラマンになる!」とか言ってたけど(笑)
わたし
かわいいですね(笑)
その、先代のお父様をかっこいいと思ったのは
やっぱり学校から家に帰ってきて、お父様が
うなぎを焼いている姿を見てたりしたからですか?
大将
そうそう。かっこよかったね。
夏休みは朝、親父がうなぎ捌いてるところを
じーっと見てるんだけど、うなぎの血がビシャって飛んで、
それが目に入ってさ、目が見えなくなったりもしてた。
毎日、厨房で「そんなところに立ってると危ないぞ!」って
親父に怒鳴られてたよ。
大将
でも、なにか携わりたくてね。
「ぼくが重箱にごはんをつめる」とか
「ぼくが出前に行ってくる」って言ってた。
それで出前に行く途中、車に轢かれそうになったりもして。
 
「お前がいると余計、忙しくなる」って断られながらも
ずっと厨房にいたね。ワイワイしてるのが好きだった。
俺には兄が1人いて、兄貴はやらなかったんだけど
俺はそんなことやってたね。
わたし
あー。
じゃあもう小学生のときから、お手伝いを通じて
実践から学ぶというか・・・
大将
そうそうそう。だから、うなぎの捌く手順は分かってた。
まず首を落として、開いて、肝を取って、
骨を引いて、背びれを引いてとかね。
わたし
へー。
大将
簡単にやってるように見えるから
誰だってできるだろうと思ってたんだけど
修行に行ったら、はじめは全然できなくて。
こんなに難しいんだって改めて感動したね。
ほんと、できなかったんだよ・・・。
わたし
大将にも、そんな時があったんですね。
大将
それまでは自分のことを器用だと思っていた。
プラモデルを作ったり、絵を描いたりするのが得意で
「何をやらしても、器用だな」って周りに言われて、
自信もあった。でも、そのときに初めて
「お前、ぶきっちょだな」って言われたの。
わたし
へえ。それはお父様に言われたんですか。
大将
ううん。修行をした”つきじ宮川本廛の伊勢丹新宿店”で
先輩に言われた。
わたし
ああ。修行をされたのはお父様のもとではなくて
別のお店だったんですね。
大将
「これだけ教えてできないのか?
お前ぶきっちょだな」って。
ショックだったよ。ハンマーで殴られた感じ。
あんなに悔しかったのは人生で初めてだった。
絶対できるようになってやるって思ってさ、
毎日、始発で職場に行って、終電で家に帰ってたよ。
わたし
すごいですね。
大学を卒業されてから、すぐ修行を始めたんですか?
大将
そう。厳密には大学を卒業する前の2月から。
 
だから3月の卒業式の時には
やけどで指がボロボロになってたことをすごく覚えてる。
卒業証書を受け取るときに拇印を押したら
なにも写らなかったんだ。
ただ赤いインクだけが、べったりついていて。
わたし
ああ。もう指紋がないんですね。
大将
うん。大やけどしてたから。
わたし
文字通り、身を削って修行をされていたんですね。
大将
そう。ほんとにキツかった。
だから義務的に継がなくちゃいけないんだと
思ってやれるような商売じゃないな。
この味を出せるぐらいにはなれないし、続かないよ。
 
好きじゃなきゃ、できない。
正直センスも影響してくるし
人から教わってできるもんじゃないからな。
わたし
へえ。
大将
本人のやる気がなければ絶対にできない。
それを諦めずにやり続ける根性は
まず「好きだ」って気持ちがないと生まれてこない。
わたし
ああ。やっぱり動機というか、原動力はそこに。
大将
そうそう。「絶対、一人前になってやろう!」っていう
根性は一番、必要。
それに感性やら、センスも関係してくる。
 
とはいえ、とにかく本人のやり抜く根性がないと
何事もできないよ。
あと、好きなだけでもできないことはある。
わたし
好きなだけでもできない。
大将
うん。「絶対にやり抜くぞ!」という気持ちと
「好き」と言う気持ちの両方がなくちゃいけない。
わたし
ああ。
大将
ながーくやってれば、そのうち仕事を覚えるだろうという
だらだらしてる人もいるんだよね。
極めようとしてないんだな。
それは俺、一緒に働いてて腹が立つ。
あと、言われたことしかやらない人ね。
それは職人じゃなくて、ただの従業員なの。
わたし
ほうほう。
大将
職人として店を任されてるんだったら
自分で考えて行動して、よりこの店の売り上げを
上げようと考えなくちゃいけないんだけど
言われたことしかやらない人もいたな。
腹が立つね、同じ給料をもらってるのに。
わたし
ああ、そうですよね。
大将
これは龍ちゃん(”わたし”のこと)が
この先、どんな仕事をするにせよ
おなじことが言えるんじゃないかな。

(つづきます。)

第4回 将来のはなし。父親のはなし。