もくじ
第1回あるミュージシャンの夢が叶った日 2019-03-19-Tue
第2回ツアーミュージシャンという生き方 2019-03-19-Tue
第3回考えるのは、どうしたら実現できるか 2019-03-19-Tue
第4回全国からファンが集う日 2019-03-19-Tue
第5回人は待ってくれない 2019-03-19-Tue
第6回あの日の答えを探しに 2019-03-19-Tue

88年生まれ。渋谷でライター・編集の仕事をしています。aikoのことが大好きです。

あるミュージシャンに教わった、</br>夢を叶えるために必要なもの

あるミュージシャンに教わった、
夢を叶えるために必要なもの

担当・フクオヨウコ

第4回 全国からファンが集う日

伝兵衛さんが叶えた夢は、
スティーヴ・ガッドとのライブだけではない。

2007年1月26日、
伝兵衛さんは自身の50歳の誕生日を記念して、
NHKホールを個人で貸し切り、ライブを開催した。

ステージ上にバーカウンターを作り、
ゲスト出演者たちはそこでお酒を飲み、
自分の演奏する順番がまわってきたら、移動して楽器を鳴らす。
普通では考えられない舞台構成だが、
この日のステージが、これまで全国を渡り歩いてきた
伝兵衛さんによる1日限りのライブバーだとしたら、
いかにも伝兵衛さんらしい演出だと納得してしまう。

イベンターを通さずに個人でホールを借り、
準備も当日の運営もほんの数人の仲間たちだけで乗り切った。

「あらゆることが、無茶苦茶なライブだったよ」

そう笑いながら話すのは、
伝兵衛さんのバースデーライブの裏方をメインで担当した、
後輩ミュージシャンの端山龍麿(はやまりゅうまろ)さんだ。

「最初に伝兵衛さんから裏方を手伝えって言われたときは、
スタッフが俺ひとりだけだったの。
何がなんだかわからないまま打ち合わせにかりだされて、
物販やケータリングの準備とか、
とにかくやらなきゃいけないことがたくさんあった。
こりゃひとりじゃ無理だってなって、
後輩2人に手伝ってもらいながら、
パンフレットやバックステージパスも自分たちで作った。
ライブの日は当日券の販売もやらなきゃいけなくて、
もう、バックヤードはぐちゃぐちゃだったよ。
でも、おもしろかったね。壮大な文化祭みたいで。
3人でまわすのはさすがに無理だったと今でも思うけど、
やり方としては正しかった気がするね。
大きい会場だからってイベンターに丸投げするんじゃなくて、
自分たちの手で一から作るっていうのは、
伝兵衛さんのライブをやる上では正解だったと思う」

石井さんも当時を振り返り、こう話す。

「公演日の2年前にNHKホールを押さえてからは、
伝兵衛さんは客席を埋めるために、
旅先でお客さんによく声をかけていました。
『NHKホール、来るだろう?どこがいい?』って、
座席表を見せるんですよ。
で、場所を聞いたら席に色をつけて『じゃあ、この席ね』って。
『チケットできたら送るね』って、強引に買わせる(笑)。
お客さんは、ブーブーにこにこしながら文句を言うんですよ、
『あのときは無理やり買わされた』って。
そんな感じで、2年かけて席を埋めていったんです。
最終的に満席とまではならなかったけど、ステージから見て、
さみしくないくらいのお客さんが入っていました。
伝兵衛さんとしては、満杯にしたかったと思いますけどね」

たとえ満席にならなくとも、
全国各地にいる伝兵衛さんのファンが
一堂に会した特別な1日だ。

日本を代表するコンサートホールで開催された
伝兵衛さんのバースデーライブは、
彼と、彼を支える人たちが2年を費やし、
地道な行動のつみかさねの先に実現した夢だった。

(つづきます)

第5回 人は待ってくれない