第4回 おなじ時代に生まれて。
シェフ
いままで映像化されてこなかったコンサートが
はじめてDVDになったというのは
やっぱり意味があることなんでしょうね。
今回のコンサート、
強く世の中に出したいという気持ちが
あったということだろうから。
あやや
DVDにはMC、おしゃべりが
ほぼ入っていなかったですけど、
じっさいはどうなんですか。
よこさと
じっさいはたくさんしゃべりますよ。
ラジオみたいに。
あやや
明るく楽しく?
シェフ
明るく楽しく。客席も沸いてました。
「『地上の星』で中島みゆきを
 知ったというお客さんが
 はじめてステージで見て
 このトークに
 びっくりしてるんじゃないでしょうか」
みたいなことも言ったりして。
あの、でもぼく、変遷があって、
そんなに数多くコンサートに
足を運んでいるわけじゃないんですが、
知り合いが買ったチケットが
余ってしまったので、買わないかと、
代打で行ったのが最初なんです。
10年以上前の大雨の日、
新宿厚生年金会館、
2階のいちばん前の真ん中っていう、
いい席だったんですよ。
うん。
シェフ
でもそれを観たときは
ちょっと恐かったんです。
客席があまりに静か過ぎて。
へえ。
シェフ
トークにもあまり反応がないし
みゆきさんの方も客席の反応を待たずに
どんどん進めてく感じがあって、
ラジオの公開録音を聴いてるみたいな、
ちょっとした距離があったんですよ。
ぼくは全く知らずに行ったので、
気持ちが入り切れてなかっただけなのか
分かんないんですけど。
その次に、舞浜でやった、
「紅灯の海」を歌ったときのコンサート。
広ーい会場で観たんですけど、
わりとそれは会場のせいか、
わさわさしながらも
コンサートにちゃんと参加する感じがして。
でも、今回は特別でしたね。
この距離の近い感じや、
お客さんがちゃんとリラックスもしてるけど
集中もしてるみたいな、いい感じ。
現場も恐くはなかったです。
ゆーないと
じゃ、いつもこのDVDの感じとは
限らないんですか、
そのお客さんの感じも?
シェフ
よこさとさん、どうですか?
よこさと
でも、ぼくは、だめですね、
行くと入っちゃうんで、
まわりのようすを
ぜんぜんおぼえていないんです。
山下
常に1対1になるんだ(笑)。
場の空気とかじゃなくて。
シェフ
じゃやっぱり観るときの余裕とかこころの状態、
そのときの気持ちで
変わって見えるだけかもしれないですね。
よこさと
元々、音楽はそういうとこ、
あると思うんですけど、
みゆきさんの場合は特に
何かすごく個人的な音楽な気がして。
マスなんですけどね、
何か、こう、聴いてると
自分の思い出だとか、想いが
沸き上がってきますよね。
シェフ
以前のコンサートで、
知り合いにばったり会ったら、
「糸」でぼろぼろ泣いたって言ってた。
なんか、そのとき、
大恋愛をしていたみたいでね、
そういうのって自分の物語に
置き換えて聴くことができるからだよね。
よこさと
そう、感じ方に違いがあるので、
同じようにファンでも、
ぼくほどじゃない人と行くのは、
ギャップがあってやだなと思ったこともあるな。
山下
たしかに、気を遣いますよね。
よこさと
ところが、いまや、
もう全然気にならなくて。
ゆーないと
(笑)。
よこさと
誰と一緒でも、
1人で行った感じになっちゃうんです。
山下
もう誰と行っても一緒なわけですね。
よこさと
そうですね。糸井さんやたけいさんと行っても
1人で聞いている気になります。
シェフ
一緒に行く甲斐がないけど、
その集中力はたいしたものだと思う。
よこさと
あの時、糸井さんが真っ先に
スタンディングオベーションしたんですよね。
みゆきさんのコンサートって。
みんな、座って聴いて、
そんなに立たないんですよ。
シェフ
糸井さんは途中で1回、
「with」の後に、何て曲、これ? って。
これ、すごいねみたいな感じで。
で、すぐその日、帰って、
iTunesで買ったんだって。
よこさと
すごかった、「with」は。
ほんと最初に「with」で泣いたもんなあ。
シェフ
withという言葉のあとに、
君の名を綴っていいか‥‥。
あやや
書く側ですか、書かれる側ですか、
気持ちとしては。
シェフ
よこさとさんは
「(自分の名前を)書いて!」って思ったって
言ってたけど、
ぼくは「書いていいか?」側で
聞いてました。
よこさと
あ、でも「書いていいか」の方が
強いです、ぼくも。
さっきはああ言ったけど。
山下
張り合わない張り合わない(笑)。
シェフ
聞くたびに視点が変わることもあるからねえ。
ゆーないと
日によって違うときもありますね。聴くときに。
よこさと
そうなんですよね。不思議です。
何か、みゆきさんがぼくに歌いかけてくれてる、
というようなことも感じつつ、
歌詞の内容を味わうと、
歌ってる側として考えてしまったり。
まるでぼくが言ってるみたいに。
ゆーないと
自分がみゆきさんみたいな?
よこさと
そう、ぼくがみゆきさんなんですよ。
山下
あー。
うん、うん、うん。
よこさと
そこが難しいですけど、
2人っきりで向き合って、
みゆきさんがぼくに、ぼくだけに
歌ってくれてるんですよ。
これは間違いないんです。
(笑)。
山下
はい、間違いない。
シェフ
しょうがないなあ。
よこさと
だってだって、
ぼくが、本人が言ってるんで
間違いないんですっ。
たけいさん、ケーキをこっちに
よこさないでくださいっ。
太っちゃうでしょう。
ダイエット中なんですから。
シェフ
せっかくピエール・エルメで
買ってきたのに。
よこさと
じゃあ2人で1個にしません?
シェフ
うん、ぼくが上のフルーツ食べるから
下の台をどうぞ。
よこさと
えー、だって下、炭水化物と
バターじゃないですか。
シェフ
ぼくもダイエット中だもん。
コウノ
その乙女な会話‥‥
山下
(笑)じゃ下げましょうね、
切りがないので。
ゆーないと
山下さんが保父さんみたいです。
よこさと
でね、なんだっけ、
ぼくの中ではですね、
みゆきさんがぼくに歌ってくれてるの。
で、そのぼくも、みゆきさんそのものなの。
ぼくの気持ちなんですよ、それが。
ゆーないと
うーん?
よこさと
だから「with」もたけいさんと一緒で、
「with」の後に名前を連ねていいか?
って歌ってるのは、
ぼくが歌ってるんです。
うーん。うん、うん。
山下
CDの方にカラオケが入ってるじゃないですか。
「地上の星」の。
シェフ
そうだった。
CDは、最後の最後が
「地上の星」のカラオケなんですね。
それも、ライブ音源から、
みゆきさんのヴォーカルだけを
除いたバージョンが入っている。
コウノ
そうそう。
あやや
そう。それが聞きたかった。
なぜなんですか?
山下
ほんとうの意図はわからないですが、
『歌旅』のCD版のほうを通して聴くと、
ずっと、客席にいる気分で聴いていたのが、
「地上の星」でぐるーっとカメラが回って
自分がステージの上に立った
みゆきさんに重なるように思えるんです。
シェフ
そうそう、急にステージの側に
くるーんとなって
客席が見えるような気分でこれを聴くんですよ。
始めて聴いたとき、すごい緊張しちゃって。
山下
「ちょっと最後、わたしになってご覧」
みたいな。
ゆーないと
あー。そうかも!
シェフ
ほんとは、わからないよ。
みんなカラオケ好きでしょうという
ただのサービスかもしれないし、
真意は分からないんだけど。
山下
でも‥‥何か意図がありますね、やっぱりね。
あやや
ある、ある、絶対ある。
ゆーないと
普通、カラオケバージョンとか入れるなら、
歌入りも入って、
ボーナストラックにカラオケですもんね。
でもCDに歌入りはないんですよね。
よこさと
その入れ替わるって感じで言うと、
DVDの最後のところで、
唯一のMC(語り)が入りますよね。
「同じ時代に、生まれてくれて、
 ありがとう」って。
シェフ
言いますねえ。
よこさと
言うじゃないですか。
シェフ
全国を回って、
この土産言葉を置いていきますって。
よこさと
ぼくらの観た回も、あの言葉を
言ってくれたんですけど、
あれって、何かね、
こっちが思ってることなんですよね、
みゆきさんに。
シェフ
思ってますね。
同時代のあらゆるすばらしい芸術家に対して
そのことを、思いますよね。
うん。
よこさと
我々が生まれたこの時代に
存在してくれて
ほんとにありがとうございますっていうふうに
思ってるんですけど、
それを逆に言われちゃった感じで、
あれも何かひっくり返った感じがしたんです。
え、みゆきさんにそんなこと言われて、
ぼくが思ってることなのにって。
あそこで、だーっ、と涙です。
ああー。
コウノ
話聞くだけでもわーっ、です。
 

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(つづく)
2008-10-15-WED
 
協力
ヤマハミュージックアーティスト
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ダ・ヴィンチ
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