中島みゆきが「ファイト!」を歌う時代。
あやや
歌って、歌い手によって、
自分の心情を歌ってるような
感じがする人と、
誰かの立場に立って歌ってるような
感じのする人っているじゃないですか。
それがみゆきさんの場合は
はっきりとご本人の心情じゃないような
感じがするんです。
シェフ
作家性が強いですよね。
コウノ
そうそう。
あやや
気がする。
たとえば「地上の星」も、
名もなき人たちこそが
星なんだよっていうことを
言ってるじゃないですか。
よこさと
それ、ぼくね、よく考えるんですけど、
「全部」なんですよね。
視点が急に神様みたいな
高いところに上がるときもあれば、
そこに這ってるアリンコの中に入って
その気持ちで歌うときもある。
定まってはいないんですよ。
だから全部に、あまねく浸透してる。
あやや
そっか。誰よりも、
不思議な感じがするのは
そういうことなんですね。
山下
カメラが自在に動き回ってる感じですね。
ゆーないと
自在、自在。
あやや
それが惹かれる理由かもしれないです。
中島みゆきさんて、曲を聴くたび、
これまでに見たことがないという
印象を受けるんですよ。
シェフ
1曲ごとに違うかもしれないね。
あやや
「ファイト!」は何か応援してるようにも見えるし。
シェフ
「ファイト!」はこれ、
DJの立場っていう
シチュエーションかなぁ。
ラジオのリスナーから投稿されて来た
葉書を読んでいるみたいなふうに、
いろんな人の人生のストーリーが入ってる。
あ、ラジオといえば、DVDの中で、
みゆきさんが座って、
ちょっとネクタイみたいなのして
歌ってるコーナーがあるじゃないですか。
そこは実はお便りコーナーで、
開演前に、お客さんが手紙を書くんですよ。
娘が嫁に行って夫婦ふたりになったので
ひさしぶりにふたりで出かけて来ましたとか、
こんな思い出がありますとか、
みんながそれぞれ好きに書く。
それをラジオの構成作家の人が編集して
これを読んでくださいっていうのを
舞台のみゆきさんに届けるんですよ。
あやや
あ、あの紙!
「命の別名」で、振りかざしていた紙!
ゆーないと
あの紙、歌詞じゃないんだ!
コウノ
歌詞じゃないんですねー。
よこさと
あれ、お客さんからのお手紙なんです。
多分、歌詞、持ってても、
みゆきさん、近眼だから
読みながら歌えないと思う。
あやや
あれは定番なんですか。
シェフ
ぼくの観た3回のコンサートは
すべてやってました。
いろいろあってね、
ホロリとしたり、
ちょっとくすっと笑ったり、
他愛もなかったりするようなことを
読むんですよ。
で、すごくね、
すごいときもありますよ。
壮絶だなって日もあれば、
軽ーい日もあるんだけど、
話を戻すとね、「ファイト!」は
そういう経験からできた曲かもね。
ゆーないと
それ、読んで、それに対して
みゆきさんが何か言う?
シェフ
そう、重くなり過ぎないように、
さらっと何かを言って、
で、歌につなげるんだけど、
関係あるようなないような
構成になってたりする。
ゆーないと
うわあ。
あやや
あー、そういうことなんだ。
よこさと
あれ、見事だったなあ。
シェフ
あれを全国でやってるんですよね。
ゆーないと
ああ、それはすごい。
シェフ
全公演。
よこさと
あれ、長い間、
ラジオをやってきた賜物ですよね。
あやや
私はみゆきさんは
テレビドラマの主題歌で知ったんです。
フジテレビの「親愛なる者へ」っていうドラマで
「浅い眠り」を聴いて、
すごーい、いい曲だなあと思って。
シェフ
えーっと(資料を見る)、1992年ですね。
よこさと
あのぐらいからみゆきさんは、
歌の表現の幅がどんどん
広がってきてるんじゃないかな。
今回のコンサートも全部、歌が、
歌い方が違うぐらい違う。
シェフ
「ファイト!」なんか、もう最たるもので、
1話ずつ違う歌い方しますよね。
ぼくは中島みゆきという人の音楽には
まったく触れないで30代まで来て。
「大吟醸」っていうベスト盤からです。
そこで「ファイト!」に出会うんです。
今回「ファイト!」が聴けたのも
鳥肌ものでしたよ。
だって前回「ファイト!」を
コンサートで歌ったのって、
阪神大震災やオウム事件の年のはずですよ。
コウノ
へえ‥‥。
シェフ
日本がごったごたになってるときの
コンサートツアーだったはずです。
ゆーないと
ああ、なるほど。
シェフ
で、今回、また中島みゆきが
「ファイト!」を
歌う時代が来たんだと思って。
来ちゃったんだ、と思って、
ちょっと怖かった。
山下
中島みゆきが「ファイト!」を歌う時代が。
シェフ
たぶん、もう1個、意味があって、
病に倒れている吉田拓郎さんへの応援かな、とか。
盟友でしょう。
しかも「ファイト!」の前が
吉田拓郎のカバーの
「唇をかみしめて」ですもんね。
あやや
あ、そうなんですね。
シェフ
で、続けて「ファイト!」だったんで、
始まった途端に拍手が起きましたね。
まさか、聴けると思ってなかった。
コウノ
ね、あ、鳥肌が立って来た。
山下
壮絶でしたね、「ファイト!」はね。
シェフ
あ、中島みゆきが
「ファイト!」を歌う時代は
俺も頑張んなきゃみたいな気に。
ゆーないと
ああ。
シェフ
何か警告を発されたような。
山下
そうですね、警報が出た感じですね。
ゆーないと
慌てちゃう。
シェフ
慌てちゃうよね。
どうにかしなきゃっていうメッセージ、
強いものをぼくは勝手に感じてました。
あやや
あのう、訊いてもいいですか?
よこさと
どうぞどうぞ。
あやや
みゆきさんには、
いったい何があったんですかね‥‥。
よこさと
え?
あやや
こんな歌をつくって
わたしたちに聞かせてくれるって、
いったいなにがあったら
人はこんなふうになるんだろうって。
ゆーないと
ほんとですよねえ。
シェフ
うーん、何かあったとか
そういうことじゃなくて、
推理小説家の実人生に
殺人や陰謀ががたくさん
関わっているわけがないように。
でも、人の心の闇や世の悪を感知できるから
小説が書けるわけであって、
中島みゆきさんというひとも、
人の思いや希望や絶望や時の流れ、
そういうことがすべてきちんとわかってて
こういう歌が生まれるのかもよ。
そういうものごとを感じ取る力と
それを物語にしてつむぐ力と
それを歌う表現者としての力すべてに
とびぬけているんじゃないのかなあ。
あやや
そうですね。
だから、重くないっていうか、
重いんだけど、
みゆきさんが救いになってるというか。
山下
コンサート自体が全体的に明るい雰囲気で
笑顔で進んでいくじゃないですか。
ゆーないと
うん。
山下
それで、ね、
油断してるとドーンと来るんですよね。
ゆーないと
そうそうそう。
シェフ
そうそう、軽ーいトークの後に
突然すごい曲が入ったりするわけですよ。
でも今回は、前半はトークが多めで、
後半、わりと一気に曲に行きましたね。
山下
畳みかけたんですね。
あやや
中島みゆきさんの中で変遷てあるんですか。
わたしが観た昔の映像って
みゆきさん、ギターを持ってて、
オーバーオールみたいなのを着てたような。
でも今はそういう感じじゃないですもんね。
よこさと
あ、それはありますよね。
最初の頃はすごくアコースティックで、
シンプルに歌ってましたけど、
途中で打ち込みの音が流行ったとき、
そういうのを取り入れたりとか。
よく言われるのが
迷ってた時期もあるっていうことですね。
シェフ
ロック寄りな時代がありましたよね。
よこさと
今の方向のきっかけになったのは
「地上の星」だって、
ご本人も言ってましたよね。
「地上の星」は、
オーソドックスに、ひねらずに、
ストレートに作って、
それがすごくヒットして、
ああ、自分は自分のやり方で
やればいいんだっていうふうに戻ったって。
あやや
や、そうか。
よこさと
「地上の星」がヒットした直後の
コンサートツアーでは、
昔の曲をいっぱい歌ってくれたんです。
そのとき、ヤマハの人に聞いたら、
みゆきさんの中で何かがこう、落ちたんで、
昔の歌をいっぱい入れたんですって。
あやや
『歌旅』には
入っていないですけれど
「ヘッドライト・テールライト」も
とてもいいですよねえ。
シェフ
ああいうテーマの曲って、みゆきさんには
幾つかあって、全部いいですよね。
決して「夢は叶うよ」みたいな
安易な約束はしていないのに、
でも、歩いていこうという人を
ちゃんと応援している。
よこさと
そうそう、絶対、夢が叶うよなんて
言わないんですよ。
ゆーないと
絶対言わない。
よこさと
こんな厳しい人いないと思うんです。
山下
(笑)。
シェフ
道は厳しいよと。
山下
厳しいですね。
シェフ
その道に灯りを照らすのはあなただよと。
あなたが照らさなかったら、
誰も照らしてくんないよと。
コウノ
うん、うん、うん。
ゆーないと
厳しーい。
あやや
でもそんなあなたでも、
見捨てないよーみたいな感じが。
シェフ
ちゃんと見ているよっていうの、あるよね。
よこさと
だからね、楽になるんですよね。
ゆーないと
そうですね。
シェフ
必要ですよね。中島みゆきは。
よこさと
必要ですよ。
何かね、辛いことや悲しいことがあったら、
絶対中島みゆきですよ。
昔から言われますけど、
失恋したりとか、辛いことがあったときは、
明るい曲を聴くんじゃなくて、
中島みゆきを聴いて、ぐっと1回沈むと、
底を打って浮上できるみたいな。
シェフ
そうですね、蹴ってね、ポーンとね。
 

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(つづく)
2008-10-17-FRI
 
協力
ヤマハミュージックアーティスト
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
ダ・ヴィンチ
JASRAC許諾番号   9008687008Y3802


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