1小泉今日子という人の、変さ。
- 糸井
-
このトークイベントがはじまる前に
撮影の時間があったんですけど、
「ふたりで本を持ってください」と言われたんです。
でもぼく、書いてないんですよ。
「いや、共著じゃないんで」って(笑)。
- 会場
- (笑)
- 小泉
-
(笑)
つきあっていただきまして、すみません。
- 糸井
- いやいや、ありがとうございました。
- 小泉
-
糸井さんには、雑誌「SWITCH」で、
今回出版した本のもとにもなった
「原宿百景」という連載をしているときに、
雑誌の企画で対談させていただいて。
ほぼ日でも、「キョンキョンと原宿を歩く」という
特集をしてくださったんですよね。
- 糸井
-
はい。原宿ならしょっちゅう歩いているのに、
あの日は、なんかとてもキュンとする日でしたね。
小泉さんがいたからってこともあるんですけど、
なんだろうな‥‥「生きて」ますよね、原宿は。
- 小泉
-
原宿が生きているという感覚は、私の中にもあります。
新陳代謝が激しい街というか。
- 糸井
-
「原宿百景」は、いつごろから
連載がはじまったんですか?
- 小泉
-
9、10年前かな。
先日、100回で完結したんですが、
「原宿百景」というタイトルをつけるからには、
絶対100回までやりたかったんです。
その間、どんどん街も変わっていくし、
自分もスタッフも老けていくし(笑)。
みんな一緒に変わっていく感じがありました。
- 糸井
-
今まで、小泉さんが観た映画や読んだ本について
書かれた文章は読んできて、
とてもいいなぁと思っていたんだけど、
この本のような、本当のことをもとにして思いを書く、
という形のものは、あんまり読んだことがなかったです。
- 小泉
-
そうですね。
連載には「原宿」というテーマがあったんですが、
原宿と自分の接点をいろいろ探し出すと、
意外なものが引き出しにあったという感覚があります。
- 糸井
-
おりのようにたまっていたものが、
かき回されて出てますよね。
文中には、それこそ、
ご出身の「本厚木」も出てくるし、ご家族も出てくるし。
原宿ということさえ真ん中に置いておけば、
どう広げちゃってもいいんだっていう。
- 小泉
- そうそう。
- 糸井
-
この本の中でよかったところは
いっぱいあるんだけど、
1つは、小泉さんがアイドルだった時代、
楽屋で後輩アイドルと一緒にいる場面です。
その子が鏡の前でお化粧をしていて、
横には小泉さんがいて。
アイドルのそういう部分って、
あまり読んだことがないんですよ。
- 小泉
-
そうか。
入れないですもんね、楽屋って。
- 糸井
-
そう。で、女の子同士でしょう?
それを書いてる小泉今日子という人の、変さ(笑)。
- 小泉
- (笑)
- 糸井
-
普通は、そういうことを
ないことにしてるじゃない?
お化粧ができあがってからが「キョンキョン」だし、
お化粧してる前はただの「私」だから。
- 小泉
- はいはい。
- 糸井
-
だから、読んでいて不思議な感じになります。
それから、文章の中で、
「今の私」と「アイドル時代の私」が、
わりと混ざってますよね。
- 小泉
-
そうですね。
アイドルだった10代の私が書いてるときもあるし、
そのころを思い出して、今の自分が書いてるときもある。
そこが混ざっちゃって、
ちょっと不思議な文章になってますよね(笑)。
- 糸井
-
編集の方も偉いなと思うんだけど、
「統一しましょう」と言ってないんですよね。
- 小泉
- はい。言われなかったです。
- 糸井
-
おかげで、この本に書いてあることは、
当時の私が思ったことなのか、
今の私が思っていることなのか、
え、どっちなんだろう? ってなる。
つまり「間(あいだ)」のところが
すごく描かれているんです。
ぼくは、もうできないんですよ、そういうことが。
どこかのところで物差しを合わせちゃう。
ああいうふうに書くのって、ものすごく難しいんです。
- 小泉
-
なんか、夜中に書いていると、
自分が頭のなかで、
いつの自分としゃべりながら書いているのか
わからなくなるんです。
で、そのまま書いちゃおう、みたいな感じがありました。
- 糸井
-
昔の私と今の私、
アイドルとしての私とただの私、
その、行ったり来たりの真ん中あたりが、
いつでも小泉今日子という人のいる場所ですよ(笑)。
芸能界の仕事も、全部そういうふうに
やってきたんじゃない?
- 小泉
- そうですね。
- 糸井
-
どんなに寂しい日だって、
いい表情でニカッて笑うし、
そうやって笑うのを否定しないで、
「そういう仕事だからね」と思ってるでしょう。
- 小泉
- あぁ、そうですね。そう思ってます。
- 糸井
-
「なんてったってアイドル」という歌についても、
ご自分で
「この歌を歌うのは、不思議な気持ちだった」
と、どこかに書いてましたよね。
- 小泉
-
そうですね。
「大人が悪ふざけしやがって」と思ってましたね(笑)。
- 糸井
-
そうやって自分自身を客観的に見ながら、
「じゃあ、やります」。
- 小泉
- 「まぁ、私にしか歌えないんだろうなぁ」みたいな。
- 糸井
-
それから、この本のなかには、
ご家族のことも出てきますけど、
小泉さんはお母さんのことを名前で呼んでますよね。
- 小泉
- はい。「ユミさん」って。
- 糸井
-
でも、おばあさんは「おばあちゃん」ですよね。
全部、「どっちなの?」って。
- 小泉
-
いろんなことをはっきりさせるのが恥ずかしいのかな。
家族じゃない、別の人みたいに書きたくて、
あえて「ユミさん」と書いたりする感じ。
母の名前を片仮名にしちゃったのも、
漢字だと、すごく
「お父さん、お母さん」になっちゃって
恥ずかしいからなんです。
- 糸井
-
あぁ、そこですね。
その「どっちつかずノリ」が、
ぼくが小泉今日子のことを
すごく気になってしまう理由なんじゃないかなぁ。
(つづきます)
2016-06-06-MON
Photography: Matsumoto Shota