YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
番外。

老いのこととか、人類の言語の獲得とか。
思想界の巨人とか言われていたって、世間話もするし、
「ただのおとうちゃん」として暮らしている時間がある。
そっちの時間の吉本さんの話ばかり聞く「まかないめし」
ずいぶん、いろんな人から、好評をいただいてきたんです。

世間話の合間に、ふと紛れこむ詩やら哲学、
「そういえば、そういうことについて、
吉本さんがこんなこと言ってたっけなぁ」と、
あとで思い出したくなるような、印象的な江戸弁の談話。

近所の尊敬できる年長の先輩としての、
吉本さんがくれた「考えというごはん」を、
またまた、「ほぼ日」で紹介していきたいと思います。

今年の9月のイベントへの出演のおねがいというか、
打ちあわせをしにいった時の合間に聞いた話は、
人類の言語の獲得だとか、中沢新一さんについてだとか、
途中で脱線を交えつつ、やっぱり、おもしろかったんです。
毎日すこしずつ、ビタミン剤みたいに、たのしんでみてね。



吉本隆明さんの試行社からのお知らせ。
「たずね人」は、いちおう終了したんですが、
新しい読者も増えたので、もっと発見できる可能性が
でてきたので、また、ここに掲載します。
初めての方、よろしくお願いしますね。

第6回 おあつらえむきに、いくもんか。


吉本さんと話していると、
「一般的な有識者なら、
 そういうたぐいのことは言わないだろうなぁ」
「いわゆる知識人なら、
 そういう分野のことを言うのは控えるだろうなぁ」
というような話が、平気で出てきたりするんです。

しかも、それを、本気で、説としてしゃべる。

それは、もしかしたら、吉本さんが、
「何かを言ったり考えたり書いたりということは、
 余計なことだから、
 原則としては、
 1日が24時間あるうちの25時間目にやります。
 つまり、日常生活で普通の人がやることは
 すべてやった上で、
 その中で時間を作ってやるのが、
 ぼくにとっての書くことや考えることなんです」
と、以前から主張しつづけていることが、
関係しているのかもしれない。

会話中に出てくる
「よせやい」「そうは問屋がおろさねえって言いますか」
といったような、生理的な実感から出る言葉が、
その姿勢を象徴しているようにも、思えます。

今日は、そんな、吉本さんによる
ちょっとあぶなっかしいかもしれないけれど、
実感として、吉本さんがこう思っている、という談話を、
ふたつ、紹介していきますね。
もちろん、このページは、その場にいた人が
こう聞いた、っていうスタンスで書いていますので、
ひょっとしたら、ご本人の考えとは、
ずれているところが、あるかもしれません。あしからず。

それじゃ、
ひとつめは、ヘーゲルとマルクスについて。
ふたつめは、素朴な疑問・・・。

すこし昔に、
すでに言われたことじゃねえか、と思う人も
いるかもしれませんが、まぁ、読みすすめてみてください。
やっぱり、すこし、違っていますので。


「ヘーゲルの歴史のとらえかたっていうのは、
 あれは、あれこそほんとにズルいというか、
 頭がいいんだろうけど、要するに、
 ヨーロッパの近代がもっともよくて、発達してて、
 ということを示すことになるんですね。
 ヘーゲルの論を追ってくと、
 『なんだ、おめえらんところが、
  いちばんいいってことになるじゃねえか』
 と、こういうふうに、なっちゃうわけですね。
 よせやい、なんて思うわけです。こっちはそう思う。
 
 ヘーゲルがケモノとおんなじだなんて言ってた
 地方の人だって、今は都会も作るしって、
 ちゃんとやってるわけだから、
 そんなバカなことを言っても、通用せんぜっていう。
 ヘーゲルは、野蛮、未開、原始、なんとか、と、
 そして近代まで単線でつないでいくんだけど、
 そうおあつらえむきにいくもんか、っていうか。

 マルクスっていうの人のすごさは、
 要するに、ヘーゲルの駄目さ加減ってのを
 すぐに見破ったところだと思うんです。
 ヨーロッパ近代までの道のりを、
 『そんなうまい具合に、
  てめぇのところにたどりつくようにいくもんか』
 っていうのは、誰でも感じるわけだけど、
 マルクスはそれをちゃんと、
 『うまくやりすぎだよ』と指摘している。
 発展段階のなかに、
 『アジア的段階の社会』がすくなくともある、
 というようにして、修正しているんですね。
 それは、そのとおりですから。
 ただ、どうせマルクスはそう言ったんだったら、
 もっと、すべての枠組みを直しちゃえ、って
 思うんだけどね。
 それで、ついでだから、未開以前の歴史まで
 つっこんでいっちゃえと思うんだけれども」


「もともと、ヘンな頭蓋骨が
 進化したらヨーロッパ人になるってのは、
 どうしようもない偏見で……。
 
 こないだ、生物にくわしくて、
 小説を書いているようなある人にお会いして、
 きいたことがあるんですけど。
 
 要するに、
 うたがわしくてしょうがねえから
 きいたことなんですけれども、
 『ぼくらが夏に海外に行って日焼けして、
  って、そういうことをくりかえしていると、
  黒人になれますか?』って。
 
 そんなバカなことねぇって、
 一笑にふされちゃったですけどね。
 ぼくは今でも、なると思ってるわけですから、
 それをきいて、その会話は終わりにしましたけど。 
 
 専門家と称する人は、
 もしもそうなったら突然異変だって言うんです。
 でも、何代もずっと日焼けしつづけていたら、
 黒くなれるんじゃないかというのは、
 ぼくは、疑いのないことのように思ってます。
 でも、専門家は、そう言いませんよ。
 
 相手にもしてくれねぇんで、ああもう、
 これは聞いたってしょうがねぇやと思って、
 止めちゃいましたけど、どうも疑いはありますね。
 逆に、寒いところに住み続けているかわかりませんが、
 肌が白っぽくなった人、いますからね。
 
 だから、きっとそうなんでしょうけど、
 今言うと、バカみたいに思われる。
 だから、それはいたしかたないことだな、
 って思っているけど」



今回紹介したところも含めて、
吉本さんの発言のなかで、
「あれ?・・・そうなの?」
と、思うところも、あったかもしれません。
しかし、それが、実は、
数年ごしで効いてくる言葉だったりもするので、
これがまた、みのがせないんですよー。

数週間前に吉本さんにうかがった話は、
ほかにも、たくさんあるんですけれども、
今シリーズは、いったん、ここまでにしたいと思います。

江戸弁の思想家が、
生理で語りつづけた話をご愛読くださり、
どうも、ありがとうございました。

また、近いうちに、吉本さんの会話を、
「ほぼ日」で、おとどけしたいなぁ、と思っています。
今度は、講演会の発言を、ご紹介するものになるかなぁ?

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2003-06-24-TUE

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2003-06-19  第2回 転べば、とまる。
2003-06-20  第3回 精神を知るための行動って。
2003-06-22  第4回 中のことを、中でもってわかること。
2003-06-23  第5回 猫だって人語を解する。