
旅でする話。
(永田泰大)
一緒に旅をすると、関係が特別になるのは、
いつもしない話をするからだと思う。
たとえば、自分の親の話とか、
じつは具体的に考えている将来のビジョンとか、
こっそりずっと好きなものとか。
ある程度の閉鎖的で限定的な関係が、
見知らぬ場所へ移りながら、
終わりのあるたっぷりの時間を過ごす。
その特別さが、ふだん語らないテーマへ自分を向かわせる。
約束し合ったわけでもないのに
なぜか互いにそれを大切に扱うような前提を感じながら、
おおきなかたまりをそれぞれに深い場所から差し出し合う。
食事のあとのよもやま話や
会議がはじまるまえの雑談では、
なかなかそういうふうに話すことはできない。
いくつか、旅をするとき特有の
大事な話を聞いたり言ったりした。
もちろん、それらすべてをここに書くつもりはないし、
そもそもそういう話って、
語られた内容そのものよりも、
言い合ったときの雰囲気とか景色とか
ためらいとか苦笑いとか
そういう一切を含んではじめて大切になるものだから、
とても再現できるものじゃないんだ。