メーカーであるノリタケさんでの製造が終了し、完売しました。
それは昨冬のこと。 伊賀の丸柱にある土楽窯に、 福森雅武さんの「野焼き」を 見せていただこうと訪れたときのことです。 福森家のおかあさんが 「寒いでしょう。これであたたまってくださいね」 と、出してくださったのが、 地元で獲れた、イノシシの肉を使ったシチューでした。 3日かけて、コトコトと煮込んだというそのシチューは ドミグラスソースの濃厚な味わいの奥に イノシシの野性味がしっかり封じ込められ、 それはそれはおいしいものだったのですが、 「こんなにイノシシがおいしいなんて!」 という感激のほかに。 おどろいたことが、もうひとつありました。 それは、スプーンでした。 シチュー用というにはちょっとこぶりの、 まるっこいかたちをした、スプーン。 見ただけで、かなり使い込まれてきたものだということが すぐにわかる、味わいぶかい経年変化がありました。 このスプーンでシチューをすくって口に運ぶと、 とくべつな力をくわえることなく、 ひとくちの料理が口の中にそっと置かれたあと、 スプーンじたいが「するっ」と唇から離れていきます。 もちろん、お皿からシチューをすくうときにも、 とても使いやすい形をしていました。 夢中でお皿を空にしたあと、 ぼくらは、福森さんにたずねました。 「このスプーンは、どこで手に入れたのですか?」と。 すると福森さんはこう教えてくれました。 いつだったか、ずいぶん前に、 関西のあるホテルに泊まったんです。 そこのレストランで出されたこのスプーンが あまりに使い心地がいいものだから、 3本だけ、ゆずってもらってきたんですよ。 そのあと、同じものがほしくて あちこち探したのだけれど、 見つからないままなものだから、 こうしてお客さま用にしているんです──。 ぼくらは、このスプーンが どこのメーカーのものなのか、 いまも入手できるのかを、調べることにしました。 福森さんから、3本のうちの1本をお借りして、 調べてみたところ、ホテルのマークのほかに、 裏面に「Noritake E.P.N.S.」という 刻印が見つかりました。 Noritakeというのは洋食器で有名な日本の会社で、 現在でも世界的に知られるブランドです。 カタログを取り寄せて調べてみたところ、 「E.P.N.S.」は、 ホテルやレストランの業務用の食器のシリーズ 「ノリタケ カウンティス E.P.N.S.」のことであり、 このかたちのスプーンは、 現在も生産されているものだとわかってきました。 ちなみに「E.P.N.S.」は Electro Plated Nickel Silverの略で、 「洋白・銀メッキ仕上げ」の意味です。 洋白というのは、 純銀によく似た重量と質感を持つ合金。 高価で、変形しやすく、 手入れがたいへんな銀食器にかわるものとして、 ヨーロッパではふるくから使われてきました。 口当たりがよく、料理の味をそこなわず、 ずっしりとした、心地よい重みがあります。 そこに、銀メッキをほどこしたのが、 この「洋白銀器」のスプーンなのでした。 ヨーロッパではひろく普及した洋白銀器ですが、 日本の家庭にあまり広まることはありませんでした。 その理由は、空気にふれていくなかで変色が起こるため、 「手入れがめんどう」と思われてきたためだそうです。 じっさいは、毎日使っていくことで 渋く、いい色合いに変化をしていく、 まさに陶磁器のようなものでもありますし、 逆に、金属みがきを使えば ぴかぴかに保つこともできるのですが、 そうこうしているうちにステンレスの時代になり、 そちらがどんどん家庭に普及しいきます。 洋白銀器は、一部の高級な食器のほかは ホテルやレストランなどでの業務用として、 残っていったのでした。 ノリタケさんにお願いをして、 この、ホテル・レストラン用の洋白銀器のスプーンを 「ほぼ日」で仕入れることになりました。 じつは、在庫がなかったため、 今回「ほぼ日」用に増産をお願いしたのです。 (そのため、初回のカレー皿販売には、 間に合いませんでしたが、 今回、1000本を仕入れることができましたので どうぞ、ご検討くださいませ。) 正式名称は「ノリタケ カウンティス(E.P.N.S.) スープスプーン」といいます。 サイズは、全長180mm。 福森道歩さんといっしょにつくった 「ほんとにだいじなカレー皿」と いっしょに使っていただけたら、うれしいです。 もちろん、カレーだけではなく、 たとえばオムライスや炒飯にも、いいんですよ。 |
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銀を使用しているため変色します。 | |
「洋白銀器」は銀メッキをほどこしているため、 空気や酸に触れると変色します。 これは銀の特性で、さびではありません。 無害ですからご安心ください。 次第に渋い色あいに変わっていく変化を 味わいのひとつとお考えください。 |
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大人用のスプーンです。 | |
ホテルやレストランで使われている 大人用のスープスプーンですから、 ちいさなお子さまのお口にはサイズが合いません。 ふだんから大人用のスプーンをお使いでしたら だいじょうぶですが、 ご家族分そろえようとお考えのかたは、 ご注意くださいね。 |
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洗うときは | |
使用後はできるだけ早く、中性洗剤を使って やわらかいスポンジで洗ってください。 洗った後はやわらかな布で水気をふき取り、 完全に乾燥させてください。 ※銀の表面を傷つけるクレンザー・たわしや、 変色の原因になる漂白剤はご使用にならないでください。 |
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保管するときは | |
洋白銀器は長い間空気に触れていると変色します。 保管するときはあまり開け閉めしない 引き出しに入れるなどして、 なるべく空気に触れないようにしてください。 長期間保管する際はチャック付きのビニール袋などに 入れ、中の空気を抜いてから保管してください。 ※ゴムは銀を変色させるため、 輪ゴムで束ねると黒い跡がつきます。 保管の際に輪ゴムはご使用にならないでください。 |
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変色が気になったときは | |
市販の銀器専用の磨き剤でお手入れください。 ※歯磨き粉は表面の銀を傷つける可能性があるため、 ご使用にならないでください。 |
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洋白銀器の一番のお手入れ方法は、 毎日使っていただくことです。 洗いと乾燥を頻繁に繰り返すと、 使用せずに置いておく場合に比べて 変色の進み具合が遅くなります。 洋白銀器だからとおしまずに毎日使ってください。 |