手塚治虫×ほぼ日ハラマキ

祖父江さんのお宝手塚グッズ ~ロックにあこがれた幼年期からお宝を埋めた話まで~

どんなに忙しくても、お手紙やサインなど、
お返しをされていた手塚治虫先生。
ブックデザイナーの祖父江慎さんも、
手塚先生との思い出がつまった、
「お宝手塚グッズ」をお持ちということで、
お話しをうかがいに行きました。

直筆で「ロック」を描いてもらった日。
一番大事なお宝グッズを埋めてしまった日。
ちょっと、ほろ苦い、
祖父江少年の幼少期と手塚先生との思い出を、
全四回でお届けします。
みなさんからの「自慢のお宝手塚グッズ」も
引き続き、大募集しています!

第2話 バンパイヤとして帰っていた小学生のころ

───

当時はダントツで人気だったのは、
やっぱりアトムなんですか?

祖父江

そう、ダントツでアトム。
今みたいにいろんな番組を放映してないから、
子どもはみんな、同じものをみていたんですよ。
お菓子も漫画も、
ぜーんぶ同じキャラクターで、
手塚先生のアニメだらけ。
たしか、一番最初にみたテレビ番組が
実写版の「鉄腕アトム」です。

───

最初は実写版だったんですね。

祖父江

父親がよく入院していたから、
病院にお見舞いに行くと、
待合室のモニターで放送していたの。
「♪ぼ~くは無敵だ。鉄腕ア~ト~ム~♪」って、
子どもがアトムの髪型をしたヘルメットをかぶってて。
それで、最終回もたまたま病院でみたら、
急に、アトムがヘルメットをとってね。
「今日まで鉄腕アトムをみてくれてありがとう」
って挨拶したの(笑)。

───

え! ヘルメットとっちゃうんですか。

祖父江

僕、なにがなんだかわからなくてね。
でもアトム役の男の子が、
頭に包帯みたいなものを巻いてたんだよね。
それで、病院だから包帯を巻いてるんだと思って、
怪我大丈夫かな? とか心配して。

───

病院だからこういう展開なんだと。

祖父江

そう、なつかしいな。
ほんとうはたぶん、ヘルメットは汗をかくから
巻いていただけだと思うんだけど。

それで名古屋牛乳提供だったから、曲が流れるの。
「♪名古屋牛乳~飲んでるのっ! ぷぷっぷぷっ♪」
ってよく歌ってたな。

───

提供の歌まで覚えていらっしゃるんですね。

祖父江

夢中になってみていたからね。
そのあとに、アニメ版の
「鉄腕アトム」がはじまって大喜び!
テレビに釘付けで、
駄菓子屋に行くとアトムのお菓子が山のようにあるの。
みんな、鉄腕アトムが大好きでしたよ。

───

そんな中でも祖父江さんは、
「ロック」がお好きだったんですね。

祖父江

「鉄腕アトム」の後に「バンパイヤ」が放送されて、
すごいカッコよかったんだよね。
ロックにあこがれていました。
僕、小学校の帰り道はひとりで
「バンパイヤごっこ」をしながら帰っていて。

───

バンパイヤごっこですか?

祖父江

自分でいるのが嫌でしょうがなくて、
バンパイヤが満月をみてオオカミになるみたいに、
変身したかったの。
僕は犬になろうと、犬の鳴き声を練習してて、
それがけっこう上手でね。
吠えると、遠くの家の犬が吠え返してくれて、
互いに吠え合えるんですよ。

だから小学生のころは、
学校の友だちとは帰らないで、
通学路をひとりで、犬語で帰ってた。

───

(笑)。

祖父江

上手だから、
犬が吠えすぎて困っちゃうこともあって、
そういうときの吠え止め方は、
低くて大きい犬の声で吠えるの。
「ウォンッ」って。
そうすると黙るんですよ。
「ウォンッ」。

───

そうなんですね。

祖父江

犬っておもしろいの。
吠え合ってみんなで騒ぎたいときは、
子犬のように高い声で吠える。
そうすると街中が
ワンワンワンワンワンワンって、
すごいたのしい。
「吠えるんじゃありません!」とか
怒られている犬をみたら、
低い大きな犬の声で吠えると静かになる。

当時はまだ野良犬がたくさんいたから、
ときどき上手に吠えられると、
野良犬がね「仲間をみつけた!」ってうれしそうに、
僕の方に吠えながら近づいてくるの。
でも自分を通り過ぎて向こうに行っちゃうのね。

───

まさか人間が吠えているとは
思っていないんでしょうね。

祖父江

そうだろうね。
あと、ひどい遊びがあって、
車にはねられそうになる犬の吠え声もマネしてた。
びっくりして、車がキーって止まるの。

───

いたずらっ子だったんですね。

祖父江

いい子ではなかったね。
友だちとつるむのが好きじゃなくて、
ひとりか、わりと悪い子と遊んでた。
それで自分でいるのが嫌で、
犬とかオオカミになりたいなと思っていたときに、
ちょうど特撮テレビ番組の「バンパイヤ」が
小学3年生のころ、始まるんです。
実写なんだけど、バンパイヤだけはアニメ合成で。

正しい通学路じゃなくて、
通っちゃいけない道を
バンパイヤとして帰ったんです。

───

バンパイヤとして。
バンパイヤは狼男であるトッペイを利用して、
世界支配をたくらむロックとのSF作品ですよね。

祖父江

オオカミに変わるときが、
すうっごくカッコいいんですよ。
目隠しを外すと満月が出ていて、
「うわ! 満月!」といいながら身体が震えだして、
腕や足から毛が出てきて、
爪がのびて、瞳孔が開いて縦長の瞳孔にかわり、
舌なめずりして、歯の形がとがって、
苦しみながらオオカミに変身するんです。

───

その様がカッコよかったんですか?

祖父江

カッコよかった!
中でもロックはすうっごく強くて、悪くて、
「ロック様~♡」って感じで、恋してたね。
悪い男って、カッコいいんだよね。

───

男の人からみても、
カッコいい悪い男なんですね。

祖父江

意外に繊細で弱そうなんだけどね。
イケメンだけど
悪さばっかりしているイケナイ男子に、
祖父江少年はあこがれていたんです。

(つづきます。)

2017-12-03-SUN