どんなに忙しくても、お手紙やサインなど、
お返しをされていた手塚治虫先生。
ブックデザイナーの祖父江慎さんも、
手塚先生との思い出がつまった、
「お宝手塚グッズ」をお持ちということで、
お話しをうかがいに行きました。
直筆で「ロック」を描いてもらった日。
一番大事なお宝グッズを埋めてしまった日。
ちょっと、ほろ苦い、
祖父江少年の幼少期と手塚先生との思い出を、
全四回でお届けします。
みなさんからの「自慢のお宝手塚グッズ」も
引き続き、大募集しています!
第3話 下手くそな生き方をしていた
祖父江さんの幼少期は、
ロックに憧れるちょっと悪い子だったんですね。
うん。
ロックに出会う前から、
自分でいるのが嫌で嫌でしょうがなかったから、
『バンパイヤ』に出会う前の
『鉄腕アトム』時代に開発したのがこの顔なの。

おお!
(変身したままで)
小学生のころは親といるのが
恥ずかしかったんだよね。
買い物に行くときに、
自転車の荷台に乗せられるんだけども、
母ちゃんの買い物に付き合っている、というのが
ダサくて、知っている子にバレたくなかった。
「祖父江くんが、お母ちゃんの自転車の後ろに
乗っているのをみました」とか言われたら、
恥ずかしいじゃない。
それで、後ろの席は親から見えないから、
この顔で乗ってたの。
この顔だと誰かわからないから、
バレないんじゃないかなって思ってて。

バレないんですかね(笑)?
僕の街はね、
だいたい顔見知りの子どもばっかりだったけど、
バレてなかったね。
自転車に乗るときは必ずこの顔をして乗ってたから、
みんなに「あいつ変な顔してる」とか指差されて、
自転車こいでいる親が
「え? なにしているの?」って、
僕の方を向くじゃない。
そうしたら普段の僕の顔にすっと変えて
「え? なにもしてないよ」って。
変身願望がずっとあるんだよね、
だいたい男子は変身が好きだよ。

変身したいと思うのは、
強くなりたいとか、恥ずかしいとか、
どんな動機なんでしょうか。
なんかね、毎日が嫌でしょうがなかったんだね。
同じようなことの繰り返しで、
たのしみがなかったの。
友だちと遊んでいてもルールばっかりつくって、
しばられた決まりごとばかりで、
男子の遊びはつまんなかった。
メンコとかね。
これ、アトムのメンコ。

わあ。綺麗に保管されていますね。
アトムがベッドから目覚めたときに、
勢い余って目覚まし時計を壊しちゃうのね。
その、壊した目覚まし時計を
ぼんやりと眺めてるっていう、
絵のメンコが一番好きだった。
だから、それだけは勝負に出さずに、
今でも実家に大事に保存しています。
あの、メンコで遊んだことがなく、
ルールをきちんと理解していないのですが、
勝負に出さなかったのは
負けるととられちゃうからですか?
そう、みんな勝負に勝つために、
ずるいことばっかりするの。
ひっくり返しやすいようにメンコにロウを塗ったり、
ケンカの強い子が自分の都合よくルールを変えたり。
そんなことばっかりで、
面倒くさくて、面倒くさくて。
遊び方もつまんないの。
「おい、お前、あいつの目に指入れてこい!」とか。
そんな怖いこと言うんですか。
流行ってたよ、目に指入れるの。
僕のところでは流行っていないですよ(笑)。
そう? まあでも、集団で悪いことをたくらむ、
ジャイアンのようなリーダーは好きじゃなかった。
密かに、こっそりと悪だくみをする子が好きだったの。
ロックに憧れることで、
祖父江少年の遊び方や立ち振舞いが
変わったりしましたか?
マネをしたいわけではなくて、
自分と違う世界の象徴としてあこがれてたね。
ロックは僕にとって「お守り」のような存在。
気が弱いから、
ロックをみていると強くなれる気がしたんです。
マネをしていたのはバンパイヤで、
特技は犬の吠えマネと車に轢かれた犬。
まあ、下手くそな生き方をしていた若いころの話です。

ロック以外にお好きだった作品は?
『W3(ワンダースリー)』も好きでした。
それで、これ、これもお宝ですよ。
ワンダースリーの原画です。

すごい! 漫画のコマですか?
漫画で描かれたコマを小さく切ったものです。
このシーンはね、漫画雑誌には載っているんだけど、
単行本では削除されちゃってるの。
昔は、漫画雑誌を単行本にするときに、
ページに合わせていらないコマを
切って捨てちゃうんですよ。
えーっとどこだっけな。
‥‥あった! ここのシーンだ。

雑誌には載っていて、
単行本ではこのコマが見つからないですね。
単行本にするときに平気で変えちゃうんだよね。
別の作品なんて、
事件がいくつも交錯して子どもには難しいだろうって、
事件ごとに組み直されちゃって。
でも一番新しい単行本では、このシーンが復活してました。
印刷物からおこしたのかなぁ?
このお宝はどこで手に入れたんですか?
イラストと同じ、デパートの催事ですよ。
漫画のコマのオークションをしていたの。
子どもだからオークションなんてわからないじゃない、
でもたしかこれはオークションではなくて、
3,000円くらいで売ってくれたのかな?
当時の3,000円ってけっこう高いから、
僕のお小遣いはこれでなくなっちゃった。
このシーンを選ばれたのはどうしてだったんですか?
ボッコがね、好きだったの。
ここに描かれているワンダースリーの隊長。
どんなところが好きだったんですか?
なんかね、いい声だなと思ってて。
あと、このシーンはボッコが2体も描かれてるから
お得だなと思って。
ほんとうですね。
赤塚不二夫さんも、とっても好きで、
この号は赤塚不二夫さんの「シェー」が描かれていて、
手塚さんの「ワンダースリー」もあって、
僕にとってはとびっきり大切な号なの。

僕ん家は、貧乏だったから
漫画をなかなか買ってもらえなくて、
手塚さんの作品といえばアニメ。
「ワンダースリー」も夢中になってみていて、
たしか当時泣いちゃったんだよね。
親戚の家に行ったときにお祭りに連れて行かれて、
「ワンダースリー」の放映が始まる時間が近づいているのに、
帰れなくて。僕はお祭りじゃなくて
ワンダースリーをみたいのに、
ここに居ないといけない悲しさで泣き出した。
それだけ夢中だったんですね。
好きだったんだよね、ワンダースリー。

一番お好きな作品は?
手塚さんの作品はどれも好きでしたよ。
手塚さんの描く絵はかわいいよね。
風船みたいにキュッ、キュッと動いて、
アトムとか初期のキャラクターの足はキュッキュッって。
動きが可愛くてどのキャラクターも好きです。
(つづきます。)
2017-12-04-MON