手塚治虫×ほぼ日ハラマキ

祖父江さんのお宝手塚グッズ ~ロックにあこがれた幼年期からお宝を埋めた話まで~

どんなに忙しくても、お手紙やサインなど、
お返しをされていた手塚治虫先生。
ブックデザイナーの祖父江慎さんも、
手塚先生との思い出がつまった、
「お宝手塚グッズ」をお持ちということで、
お話しをうかがいに行きました。

直筆で「ロック」を描いてもらった日。
一番大事なお宝グッズを埋めてしまった日。
ちょっと、ほろ苦い、
祖父江少年の幼少期と手塚先生との思い出を、
全四回でお届けします。
みなさんからの「自慢のお宝手塚グッズ」も
引き続き、大募集しています!

第3話 下手くそな生き方をしていた

───

祖父江さんの幼少期は、
ロックに憧れるちょっと悪い子だったんですね。

祖父江

うん。
ロックに出会う前から、
自分でいるのが嫌で嫌でしょうがなかったから、
『バンパイヤ』に出会う前の
『鉄腕アトム』時代に開発したのがこの顔なの。

───

おお!

祖父江

(変身したままで)
小学生のころは親といるのが
恥ずかしかったんだよね。
買い物に行くときに、
自転車の荷台に乗せられるんだけども、
母ちゃんの買い物に付き合っている、というのが
ダサくて、知っている子にバレたくなかった。
「祖父江くんが、お母ちゃんの自転車の後ろに
乗っているのをみました」とか言われたら、
恥ずかしいじゃない。
それで、後ろの席は親から見えないから、
この顔で乗ってたの。

この顔だと誰かわからないから、
バレないんじゃないかなって思ってて。

───

バレないんですかね(笑)?

祖父江

僕の街はね、
だいたい顔見知りの子どもばっかりだったけど、
バレてなかったね。
自転車に乗るときは必ずこの顔をして乗ってたから、
みんなに「あいつ変な顔してる」とか指差されて、
自転車こいでいる親が
「え? なにしているの?」って、
僕の方を向くじゃない。
そうしたら普段の僕の顔にすっと変えて
「え? なにもしてないよ」って。
変身願望がずっとあるんだよね、
だいたい男子は変身が好きだよ。

───

変身したいと思うのは、
強くなりたいとか、恥ずかしいとか、
どんな動機なんでしょうか。

祖父江

なんかね、毎日が嫌でしょうがなかったんだね。
同じようなことの繰り返しで、
たのしみがなかったの。
友だちと遊んでいてもルールばっかりつくって、
しばられた決まりごとばかりで、
男子の遊びはつまんなかった。
メンコとかね。
これ、アトムのメンコ。

───

わあ。綺麗に保管されていますね。

祖父江

アトムがベッドから目覚めたときに、
勢い余って目覚まし時計を壊しちゃうのね。
その、壊した目覚まし時計を
ぼんやりと眺めてるっていう、
絵のメンコが一番好きだった。
だから、それだけは勝負に出さずに、
今でも実家に大事に保存しています。

───

あの、メンコで遊んだことがなく、
ルールをきちんと理解していないのですが、
勝負に出さなかったのは
負けるととられちゃうからですか?

祖父江

そう、みんな勝負に勝つために、
ずるいことばっかりするの。
ひっくり返しやすいようにメンコにロウを塗ったり、
ケンカの強い子が自分の都合よくルールを変えたり。
そんなことばっかりで、
面倒くさくて、面倒くさくて。
遊び方もつまんないの。
「おい、お前、あいつの目に指入れてこい!」とか。

───

そんな怖いこと言うんですか。

祖父江

流行ってたよ、目に指入れるの。

(祖父江さんと同年代のほぼ日乗組員)

僕のところでは流行っていないですよ(笑)。

祖父江

そう? まあでも、集団で悪いことをたくらむ、
ジャイアンのようなリーダーは好きじゃなかった。
密かに、こっそりと悪だくみをする子が好きだったの。

───

ロックに憧れることで、
祖父江少年の遊び方や立ち振舞いが
変わったりしましたか?

祖父江

マネをしたいわけではなくて、
自分と違う世界の象徴としてあこがれてたね。
ロックは僕にとって「お守り」のような存在。
気が弱いから、
ロックをみていると強くなれる気がしたんです。

マネをしていたのはバンパイヤで、
特技は犬の吠えマネと車に轢かれた犬。
まあ、下手くそな生き方をしていた若いころの話です。

───

ロック以外にお好きだった作品は?

祖父江

『W3(ワンダースリー)』も好きでした。
それで、これ、これもお宝ですよ。
ワンダースリーの原画です。

───

すごい! 漫画のコマですか?

祖父江

漫画で描かれたコマを小さく切ったものです。
このシーンはね、漫画雑誌には載っているんだけど、
単行本では削除されちゃってるの。
昔は、漫画雑誌を単行本にするときに、
ページに合わせていらないコマを
切って捨てちゃうんですよ。
えーっとどこだっけな。

‥‥あった! ここのシーンだ。

───

雑誌には載っていて、
単行本ではこのコマが見つからないですね。

祖父江

単行本にするときに平気で変えちゃうんだよね。
別の作品なんて、
事件がいくつも交錯して子どもには難しいだろうって、
事件ごとに組み直されちゃって。
でも一番新しい単行本では、このシーンが復活してました。
印刷物からおこしたのかなぁ?

───

このお宝はどこで手に入れたんですか?

祖父江

イラストと同じ、デパートの催事ですよ。
漫画のコマのオークションをしていたの。
子どもだからオークションなんてわからないじゃない、
でもたしかこれはオークションではなくて、
3,000円くらいで売ってくれたのかな?
当時の3,000円ってけっこう高いから、
僕のお小遣いはこれでなくなっちゃった。

───

このシーンを選ばれたのはどうしてだったんですか?

祖父江

ボッコがね、好きだったの。
ここに描かれているワンダースリーの隊長。

───

どんなところが好きだったんですか?

祖父江

なんかね、いい声だなと思ってて。
あと、このシーンはボッコが2体も描かれてるから
お得だなと思って。

───

ほんとうですね。

祖父江

赤塚不二夫さんも、とっても好きで、
この号は赤塚不二夫さんの「シェー」が描かれていて、
手塚さんの「ワンダースリー」もあって、
僕にとってはとびっきり大切な号なの。

祖父江

僕ん家は、貧乏だったから
漫画をなかなか買ってもらえなくて、
手塚さんの作品といえばアニメ。
「ワンダースリー」も夢中になってみていて、
たしか当時泣いちゃったんだよね。
親戚の家に行ったときにお祭りに連れて行かれて、
「ワンダースリー」の放映が始まる時間が近づいているのに、
帰れなくて。僕はお祭りじゃなくて
ワンダースリーをみたいのに、
ここに居ないといけない悲しさで泣き出した。

───

それだけ夢中だったんですね。

祖父江

好きだったんだよね、ワンダースリー。

───

一番お好きな作品は?

祖父江

手塚さんの作品はどれも好きでしたよ。
手塚さんの描く絵はかわいいよね。
風船みたいにキュッ、キュッと動いて、
アトムとか初期のキャラクターの足はキュッキュッって。
動きが可愛くてどのキャラクターも好きです。

(つづきます。)

2017-12-04-MON