最高の削り節ができました。

ごはんにのっけるぜいたくな削り節。

こちら、ヤマキ株式会社の城戸克郎さん。
「ごはんにのっけるぜいたくな削り節。」
を陣頭指揮して、つくったひとです。
克郎さんのひいおじいさんが創業したヤマキは、
現在、兄の善浩さんが社長、
次男の克郎さんは専務をつとめています。
「最初、名前(克郎)の読みは
『カツロウ』じゃなく
『カツオ』という案だったんです」
というほどの、かつお節の申し子!
この削り節ができあがるまでのこと、
お聞きしました。

市販をしなかった削り節。

ヤマキが最初にこの削り節をつくったのは、
2017年、創業100周年のときのことでした。
100周年の記念式典で、
全社員、OB、OGに配りたいと、
「本気でやったらここまでできるんだっていう削り節」を
つくってみようと考えたんです。
市販することを考えなかったのは、
量がほんのちょっとしかできないためと、
つくるのに、たいへんなコストがかかるからです。

なにが違うのかというと、
まず原料となる鰹からです。
仕入れは、「かつお節の目利き」にお願いしました。

削り節の原料になる鰹節を買うためには、
昔は、鹿児島、土佐、焼津、そういった地域で
入札会があったわけなんですけれど、
いまはそれがシステム化され、
入札会を通さずに購入ができるようになっています。
けれどもその伝統をのこすために、
4年に一回だけ、スペシャルイベントとして開かれる、
まるでオリンピックのような
かつお節の入札会があるんです。
そのときには「農林水産大臣賞」とか「水産庁長官賞」
なんていうふうに表彰もあるので、
全国の産地のみなさんが今年作った一番いいものはこれだ、
場合によっては2年がかりで作ったようなものを
名誉のために出すんです。
作るのは、名人と呼ばれる技術をもつ作り手たち。
彼らは、かつお節の製作工程だけじゃなく、
「この魚はいいかつお節になるはずだ」とか、
「いや、これは見ためはいいけど魚質は悪いぞ」など、
原料となる鰹の目利きでもあるわけです。

その入札会で名を残している歴戦の勇者たちとは、
我々は長い歴史の中でお付き合いをしています。
私の代から、なんかじゃなくて、
世代を超えたお付き合いしているんですね。
ですから、その歴代ゴールドメダリストみたいな人に、
ぼくはこういう思いを込めたかつお節を作りたいので、
そのためのいい鰹の仕入れをあなたに任せるから、と、
お願いをしました。
たくさん用意するのは無理だと思うけれど
少しでいいから確保しておいてください、と。

削り節のための「いい鰹」とは?

ほんとうの目利きの世界がどんなものなのかは、
経験の浅いぼくにはわからないのですけれど、
わかる範囲で言うならば、たとえば鮮度は大事です。
魚は、うま味を人間が足すことができません。
そして、とった直後から鮮度は落ちる。
だから魚体が新鮮で
優れていることは、とても大事なんです。

刺し身用とちがうのは、
かつお節用の鰹は脂が多くないほうがいいということです。
脂が多いと、薄く削ったときに酸化がすすみ、
それが雑味につながっていくんですね。
だからかつお節にする鰹は、脂肪分の少ない、
身の引き締まった魚体であることが求められます。
かんたんに言うと「戻り鰹より初鰹」ですし、
北方の鰹より南方の鰹をえらびます。

原料部
井上岳人さん談

かつお節にふさわしい鰹かどうか、鮮度や脂肪分を見きわめるのは、一尾まるごとの状態がスタートです。けれども実際は、切ってみて、さらに製造工程の途中の段階で、節になる前、また節になった状態でも、いくつかのグレードに分けていきます。今回の原料は、我々が見る中で一番上のAランクとして選んだものを使っています。いつも以上に原料をセレクトし、大事に作って仕上げました。こういった選択眼は、勉強して頭ではわかっていても、やはり現場で実際に作業をし、作りあげていく工程の中で得られる経験が大切です。すべての工程を把握していなければ、ほんとうにいいものかどうかの判断ができません。これはつねに大事だと考えていることです。鰹が手に入ったら、原料部からは、大きさ、水分の状態、形状を、開発・設計担当に伝え、その状態に合った加工方法を考え、準備をしてもらいます。
今回、できあがった削り節は、ごはんにそのままかけて食べるのが好きです。ほんとうにおいしいものって、調味料がいらないなって思うんです。

そうして、今回のために買い付けた鰹は、
鹿児島の近海でとった一本釣りのものでした。

製造現場では、ほんとうに毎日削ってくれている
工場のベテラン社員さんも「いい鰹だねぇ!」、
削る機械の鉋(かんな)を調整する職人さんも、
「いいっ!」と。彼らが評価する鰹は、
まちがいなくいいものです。
僕らなんかよりも毎日見ていますからね。

最高の削り節をつくるために。

通常の商品であれば、かつお節をつくるところは
専業のかつお節屋さん(産地)に託し、
ヤマキは「かつお節を削ってパックして世に出す」ところを
担当するわけなんですけれど、
今回はちょっとちがいました。
思いを込めてつくるのだから、
うちの社員も一緒に汗をかかせてください、
ということにしたんですよ。
腕利きの職人さんが産地にいるように、
じつはヤマキの中にも、
かつお節のことをずーっと研究している
人たちがいるんですね。
あるいは、ちょっとおこがましいけれど、
産地のみなさんに技術指導ができるような職人を、
実はうちも抱えているんです。

そこで、「最高のかつお節の作り方ってなんだろう?」と、
今さらながらだけども、
うちの職人と産地の職人さんで話をしてもらいました。
今回の節って、超・伝統的な手作りで、
一本一本手で切ってるんですね。
産地のみなさんも喜んでくれたのが、
昔はこういうふうな手作りをしてたよな、と。
たくさん作らなきゃいけなくなってくると、
機械を入れたり、一部は合理化をしなきゃいけない。
自動で作ることができるラインだってあるわけです。
でも、これは、熟練の技を思い出す
いい機会になったよ、と言ってくださって。
だから、普段は工場長をはじめ、
若い人に任していることを。
産地の社長や奥様が久々に包丁を持って
「よし! 切りますか!」と。
そういうふうに手で包丁でスパーンと切れるのは
実際、奥様と社長の2人だけだったりするんです。
うちの社員も行って切りましたが、かないません。
そもそも食品メーカーで鰹をさばける人間は、
そんなにいないと思いますけれども‥‥。
たぶん包丁3本ぐらいは使ったと思うんです。
長い刃と分厚い刃とか、切る場所によって
包丁を使い分けるんですけども、ぼくは全然切れないです。
でもうちの社員はできる。
それで、産地の、ほんとうの伝統の技を知っている
みなさんといっしょに、つくっていったんです。
「過去に感謝、現在に信頼、そして未来に希望」という
オットー・フリードリヒ・ボルノウという、
ドイツの教育哲学者のことばがあるんですが、
ぼくの気持ちはまさしくそれです。
この削り節づくりは、過去に感謝するっていう意味で、
これまで何世代にもわたって付き合ってきた
産地のみなさんと一緒にやろうじゃないか、
という試みでもあったんです。

商品開発部
都倉孝之さん談

まず言われたのは「最高級の花かつおをつくる」というコンセプトでした。私、15年、乾物に携わっておりますが、こんなコンセプトは初めてでした。そして原料部から鰹の情報が届いたので、商品の設計をしていきました。これは、原料部の井上や、生産技術センターの永田と組んでの仕事です。設計にあたっては、まず機械を勉強するところからスタートでした。たとえば換鉋(かんぽう)という技術がありまして、鉋(かんな)を換えて調整することです。どれだけ刃を出すかで薄さが決まります。非常に高度な作業で、とりつける刃先の調整が、何マイクロというレベルです。これを自分たちでできるようにしなければなりませんでした。なんとか、調整ができるようになりましたが、まだまだ完全に学んだと言えるところまでは来ていないです。試作ができるようになってからも、何度も試験をして、その結果を社内で共有し、というのを何度も何度も繰り返し、やっとゴーサインが出たんです。最初にできあがった削り節のことは、いまでも忘れられません。誰もが驚くほど、きれいで、立派だったんです。
今回の削り節は、「まず、そのまま食べてみてください」って言いたいです。たぶんふだんの食生活で、削り節をそのまま食べるって、なかなかないと思うので、こんな味なんだ! って、知ってほしい。あと、ふだんのお味噌汁に、すこし加えると、香りがぐっと良くなりますよ。

薄削りの極意。

ぼくらは削り節の1枚を「ハナ」と呼びます。
花かつおのハナですね。
これをいかに薄く、大きく、ツヤをだすか、
それがいいハナの条件です。
原材料に、いかにいいかつお節を使っても、
削る技術がなければ、ぽろぽろに崩れたり、
分厚くなってしまいます。
ヤマキには、それを薄く削る技術があります。
また、かつお節を見れば、どう削ったらいいかわかる、
そしてひとつひとつに合わせて機械を調整できる、
そんな熟練の職人もいました。
その伝統はいまものこっているんです。

商品開発部
渡部誠司さん談

刃の調整は、目で見てもわからないレベルです。なのでゲージを使って計測しながら調整をするんですが、このプロジェクトにかかわって、ぼくら、ゲージがなくてもできる、というレベルにまでは行ったと思います。
今回の削り節は、オニオンサラダにかけるのもおすすめです。
オニオンの渋味や苦味を、削り節がいい具合にマスキングしてくれるんです。あと、酢醤油のところてんにトッピングすると、お互いの食感がきわだって、美味しいですよ。

そもそも、かつお節って、
昔は家庭で、手で削っていたんですよ。
どこの家でも、かつお節は専用の鉋(削り器)で
削るのが当たり前でした。
それがこどもの仕事になっている家も多かった。
けれどもたいへんなんですよ、うまく削るのって。
そう思ったぼくの曽祖父、ひいじいちゃんが、
削り節を薄く削る機械を3台買ってきて、
みんなを削る作業から解放しようじゃないか! 
って、愛媛で立ち上げたのが、ヤマキなんです。

▲1917年の創業時につくっていた「花かつを」。紙の包みだった。ちなみに当時の社名は「城戸豊吉商店」、
屋号が「ヤマキ」。

けれども、愛媛で削って東京や全国で売るまでに、
紙の包みのなかで削り節が乾燥して
パリパリになっちゃった。
それがいまのようなかたちになったのは、
戦争が終わり、世の中の技術が進んでからです。

▲1972年、紙包みだった「花かつを」から、使い切り(1袋5g入り)の「カツオパック」が誕生。
削り立ての味と香りを損なわない特殊包装で、進物用として人気に。
(パッケージはどちらも当時のレプリカ。)

そんな「かつお節を削るプロ」であるヤマキには、
削る技術に古い歴史がありますし、
「古事記」によると、今から1500年ほど前の古墳時代に
「堅魚(かたうお)」という名前が
すでに用いられているとのことです。
でもね、じゃあ、進化はしてこなかったのかと言えば、
先人たちが少しずつ進化をさせた結果が、いまなんですね。
だから、削り節は伝統的なものだけれど、
もっと進化をしてもいい、
そう、ぼくらは思っているんです。

そこで、もっときれいな、
大きな「ハナ」ができるように、
ヤマキの持っているいい削り機を
ブラッシュアップしました。
その機械を製品加工として使うのは、
「ごはんにのっけるぜいたくな削り節。」が
商品としては初めてです。

生産技術センター
永田秀範さん談

もともとヤマキが持っている機械を設計しなおし、アップデートすることから、この仕事が始まりました。具体的には、削りの精度をあげ、機械的剛性を高めることが課題でした。そうすることで、より薄い「ハナ」を、安定して削ることができるようになります。私たちは「振れ」と呼んでいるんですが、精度があがり、剛性が高くなると、かつお節を円盤の刃物に押し当てるところで、かつお節の最初の形状、硬さとあいまって、暴れることがあるんです。通常の機械ですと、何度もかつお節の面を入れ替えて削っていきますが、今回の機械は、ずいぶん時間をかけて調整をし、その「振れ」が非常に少なく、最初から安定して削れるようなものになりました。そのおかげで、薄く、大きな削り節ができたんです。ちなみに、機械ができるまでに、3年の歳月を要しました。古い機械をアップデートして新しい機械をつくり、その初号機で作った初号品がこれなんですよ。ですから、100周年のときよりも「いい削り節」になっているはずです。

ここまで薄く削るのはすごくたいへんなことです。
ふつうは厚さが0.02ミリから0.04ミリぐらいの
レギュレーションで、0.03ミリが中心。
高級品になるとチャレンジして0.02ミリですね。
これはその高級品のほうで、
さらに薄さを追求したものです。
ここまで薄い花かつおは、
このほかに、そうそうないと思いますよ。

今回、こんなふうに世に出すことができて、
ほんとうに嬉しく思います。
100周年で配ったことをみんなが覚えていて、
「あのときの節、よかったよねえ」と言うんですよ。
産地のみなさんも、すごく喜んでくれた。
「こんな丁寧な物づくりをしたのは、
城戸さん、久しぶりだよ」って。
「またつくろうよ。毎年ってのはしんどいけど、
たまには、こういうものをやらないと」って。

生産技術センター
田中資浩さん談

私はずっと機械にかかわってきて、この4月からこのプロジェクトに入ったんですが、サンプルを見て、「すごいハナができあがったな」というのが最初の感想でした。装置のクオリティに、ものすごく驚きましたし、こんなにきれいな削り節は、見たことがこれまでになかったんですよ。普段見ているものとまったく違う。ものすごく驚いたとともに、このプロジェクトに参加できてほんとうによかったと思いました。
今回の削り節は、シンプルに卵かけごはんにトッピングするというのが、ぼくも、周りのメンバーもおなじ意見。ただしヤマキの社員は、お醤油ではなく、ヤマキめんつゆをかけていただきます。ぜひおためしくださいね。

ヤマキはいま、忙しい人たちによりそった、
時間をかけずにおいしいものが食べられるような
食品をたくさんつくっています。
いわば、日常で気軽に使っていただくものですね。
めんつゆにしても、白だしにしても、
だしの素にしてもそうです。
でも、お客さまにインタビューをすると、
「土日だけは、花かつおで出汁をひいて、
お味噌汁をつくります」
という声があったんです。
月~金は、共働きで忙しいから、
めんつゆや白だしやだしの素を使う。
でも、土日は、わたしも丁寧に料理がしたいんです、と。
それは、おいしいものがつくりたい、
おいしいものを食べさせたい、
食べたい、というだけじゃなく、
キッチン全体にふわ~っといい香りがする嬉しさ、
料理をしていること自体の楽しさがあるからなんですって。
舌だけのたのしみや、
必要な栄養をとるという役割だけじゃなく、
誰かのために、いっしょに食べるために、
そして自分のためにという料理のありかたに
そう商品を、ぼくらも、ちゃんとつくっていきたい。

「ごはんにのっけるぜいたくな削り節。」は、
まさしく、そんな商品だと思っています。