ぶどうの生育から瓶詰めまで
一貫して「ビオ・ディナミ」という手法に
もとづいてつくられています。
ヒデさんこと渋谷英雄さんに、
それがいったいどんなことなのかを教えていただきました。
自分のワインづくりの方法として、
月齢(陰暦)を基準に作物を育てる
「ビオ・ディナミ」を採用しています。
ぶどうの生育については、
苗植えから手入れ、収穫まですべてです。
満月日の引き潮時間に剪定作業や収穫をしたり、
収穫は農家のみなさんと一緒に新月の夜にします。
また、育てるのに化学肥料や化学農薬は使いません。
▲醸造においていちばん月齢が関わるのは
「オリ引き」という作業。
引き潮のときに抜いたものと、
上げ潮のときに抜いたものは味が違うのだそう。
「引き潮は硬いワインになり、
上げ潮はまろやかなワインになります」
醸造のあいだも、月齢に添って
「いま、するべき作業」を決めます。
月の満ち引きに合わせて、
樽からワインを出すオリ引きや、
瓶詰めを行なっています。
どうしてビオ・ディナミにしたか。
それは慶良間に住んでいたときの経験と知識が
もとになっているんです。
島には仲間と住んでいたんですが、
夜はみんな漁師なんですね。
夜8時頃になったら、電灯潜りといって、
ライトを持って潜って魚を捕りに行く。
冬の間、ずっとそれしかやることがない。
その後のダイビングの学校時代をふくめて、
海には3000本以上潜っていますが、
経験的に、自然って、潮の満ち引きが
大きく影響していることを体で覚えました。
産卵もそうですし、海の中の景色が違うんですよ。
空港の近くで小さな農場をやっていたことがあるんですが、
そのときも「ビオ・ディナミ」の考え方で
作物を育てました。
▲醸造所からすこし離れた山のなか、 拓けて気持ちのいい風が吹く場所に ヒデさんのぶどう畑がある。
潮は月齢に影響される、
それはすべての生き物、植物も動物も同じである。
それが僕の自然に対する
考え方のベースになっているんです。
ですから南アルプスに来て、
ぶどうづくりから醸造までを
「ビオ・ディナミ」にしたのは、
僕にとっては自然なことでした。
▲ぶどうを潰すのは通常「除梗破砕機」を使うが、
ドメーヌ・ヒデでは足踏みで行なっている。
古くからフランスで使われてきたやりかた。
踏み方のちがいでも、味が変わるそう。
▲24時間一緒にいると
いろいろ発見があっておもしろい、とヒデさん。
1年目はわからなかった樽の様子が、
2年目は「これは醗酵してるな」と感じることができた。
3年目からは寝ていても醗酵のピークが全部わかるように。
といっても、一般的にみなさんがご存じの
ヨーロッパにおける「ビオ・ディナミ」って、
もうちょっとロジカルじゃない部分というか、
やや、スピリチュアルなところがあるんですね。
ヨーロッパの「ビオ・ディナミ」は
ルドルフ・シュタイナーが作ったんですけれど、
僕が大学のときに勉強したのは、
デューイという、さらにその上の先輩の学者の、
「成すことによって学ぶ」っていう「体験主義」です。
わたしの中では流れは一緒なんだと思っていますが、
ただ、ちょっとその中でも、
非科学的なところはロマンや夢として理解しつつ、
もうちょっとロジカルに、ということです。
本流の彼らから言わせたら、ぼくのやりかたは
「ビオ・ディナミ系」なのかもしれません。
▲「愛がある畑ですよ」と言うヒデさんの、
ちょっとチャーミングな遊びが。
▲出庫待ちの倉庫。1年に30種類ほどのワインをつくる。