ヒデさんのこと。
「ほぼ日」をつなげてくださったのは、
西麻布の日本ワインの専門ショップ
「遅桜」のソムリエ、
大山圭太郎さん。
その大山さんの語るヒデさんのこと、
出会ったときのことから、
語っていただきました。
ヒデさんとの出会いは5年ほど前にさかのぼります。
今でこそコロナで日本ワインの試飲会が
すっかりなくなっているんですけれど、
当時「日本ワイン祭り」が1年に1回あったんですね。
60くらいのワイナリーが集まって、
自慢のワインを試飲をしてもらい、アピールする会です。
豊洲の海沿いの会場に、
旧知のワイナリーがいっぱいあるなか、
ひとつ、聞いたことがないワイナリーがあるなあと。
それが「ドメーヌ・ヒデ」でした。
ふつう、そのイベントでは
ひとり1つグラスを購入して、
ワイナリーのブースを渡り歩いて飲むんですが、
そうすると比較がしにくいので、
ぼくは5個のグラスを買って、
5つのワイナリーのワインを注ぎ、
ヒデさんのワインもそのなかに置いて、
一ヶ所でまとめて試飲をしたんです。
「あ、このワインはおいしいな」とか、
「これはもう確実に大手ゆえの安定だな」とか、
「これはちょっと」とか感じるわけですが、
ヒデさんのワインは、
ダントツに「いい」‥‥というよりも、
今まで感じたことのない
日本ワインのオーラがありました。
もちろんすべてのワイナリーさん、
それぞれ、いいところがあるんですが、何かが違う。
具体的に言うと、ヒデさんは、
マスカットべーリーAっていうぶどう品種に
注力してつくられているんですけれど、
「こんなマスカットべーリーA、飲んだことないな」と。
皆さんが知っているマスカットべーリーAは、
基本的に「キャンディ香」、
「フォクシー・フレーバー」ともいうんですけれども、
ちょっといちごをすり潰したような匂い、
甘草(リコリス)に近い薬っぽい香りが特徴です。
甘い感じですね。
でも、ドメーヌ・ヒデのマスカットべーリーAは、
いちごや甘草の匂いが強く出ず、
どちらかと言うと、
良質なピノ・ノワールのような感じだったんですね。
それはとても珍しいことなんですよ。
そしてヒデさんと話をすると、
ことばの力をすごく持っている。
そのことばと、その場所の雰囲気、時間や天候が、
ワインを軸にして一気に「マッチ」しました。
それが、ぼくの感じた「オーラ」だと思います。
そういうことって、ワインを扱うものにとって、
滅多にない、死ぬまで忘れないであろう
強烈な経験なんです。
ヒデさんは、ご自身をきわめてロジカルな人間だと
おっしゃるけれど、
ちゃんと芸術家の部分を持っているんですよね。
そこもぼくを刺激しました。
ぼくはもうゾクゾクしちゃって、
すぐに南アルプスを訪れることにしたんです。
その頃、僕は、西麻布の「遅桜」という
日本ワインの専門店を任されたところで、
「これはすぐに戦力になる」と感じました。
オーナーに電話をして、
「あの人はたぶん、これからつくっていく中で、
すごいワインのつくり手になる思う。
間違いないです」と。
ワインって超熟することによって、
未来に向けて味が変わっていくんですが、
その未来が想像できたんです。