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糸井 |
今年で震災から4年が経ったわけですが、
ぼくは「東北の復興」が
ある意味で「絵に描きにくくなってきた」
と思っているんです。
そんなときに、どうしてぼくが
河野さんに会いたいと思ったかっていうと、
河野さんって
いちばん「表情に表れてる」人なんですよ。
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河野 |
ああ、はい(笑)。
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糸井 |
ものすごく、わかりやすいんです。
我慢はするけど、やせ我慢はしないし、
一所懸命のときは夢中だし、
もちろん穏やかな顔つきのときもある。
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河野 |
ええ。
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糸井 |
これはもう何回も、ご本人に言ってますけど
はじめて会ったときは
「アドレナリンが、ポタポタ落ちてる」状態。
あの年の秋くらいには、河野さん、
口では理性的に語ってくれるようになったけど
雰囲気からは
まだまだ大変な状況だってこと、よくわかった。
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河野 |
そうかもしれませんね。
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糸井 |
「気仙沼のほぼ日」ができたのは
震災の年の秋‥‥11月1日なんですけど
そのころ河野さんに会ったら、
すでに「正月が怖い」と言ってたんです。
「忘れられる」という意味でね。
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河野 |
ええ。
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糸井 |
ぼくは「まだ1年も経ってないのに」って、
つまり河野さんが怖がるほど
人は忘れないものだと思ってたんですが、
実際には
人に「忘れたい気持ち」がないはずがなくて。
その後「忘れないで」「忘れないよ」という
コール&レスポンスが
1~2年、続いたんだと思うんですが‥‥。
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河野 |
そうでしたね。
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糸井 |
だんだん力仕事が減っていって
「わかりやすい光景」が見えなくなったら
やっぱり人って、忘れていくんです。
だったら、あらかじめ
「忘れにくい仕組み」はないかなと考えて、
ぼくらは
「気仙沼のほぼ日」って「場」をつくった。
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河野 |
ええ。
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糸井 |
あれはもう、そこへ行けば「ある」わけで、
忘れるも何もないんです。
2年でめどをつけようと思ったんですが、
まだ、ぼくたちには
東北のみんなと付き合う理由がある、
できることはしようと思って、
契約更改のときに、
また2年、継続することにしました。
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河野 |
はい。
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糸井 |
ぼくらにできることって何かを考えたとき、
力仕事の減っていくこれからは
「アイデアが必要になる」と思ったんです。
ぼくの頭に最初からあったのは
「長くやれること」
「新しい芽生えに役立つこと」でした。
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河野 |
なるほど。
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糸井 |
気仙沼のほぼ日、さんま寄席、
うまけりゃうれるべ市、ツリーハウス、
気仙沼ニッティング‥‥
そうやって、いろいろやってきて思うことは、
「また来たよー」
「おお、来たか」くらいの関係で続くような、
からかわれに行くくらいの距離感が、
お互いの負担にならないし
「ほんとうの、東北への行き来」だなあ、と。
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河野 |
うれしいですね、そう言っていただけるのは。
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糸井 |
ぼくらは、あんがい用事があるんです。
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河野 |
はい(笑)。
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糸井 |
気仙沼には自分の会社の社員もいるし、
気仙沼ニッティングは
毎週1回、ミーティングしてますしね。
ぼくらは「気仙沼のほぼ日」をつくったおかげで、
そうできるんだけど、
そういう「場所」がない場合には
「何をすればいいんだろう?」になってますよね。
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河野 |
そうかもしれないです。
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糸井 |
とはいえ、 河野さんとは
ただ馬鹿話をするためだけに行き来できるような、
そんな関係になりつつあるけど(笑)。
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河野 |
たしかに(笑)。
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糸井 |
もっともっと、そうなったらいいと思うんです。
みんな「まだ手伝いは必要だ」ってことは
わかってるんだけど、
同時に「忘れること」に対する
「自責の念」のような気持ちを、
どう処理していいか、わからなくなってる。
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河野 |
そうなんですよ、それが困ったもので。
予想はしてたことです。
でも、いまは「忘れてほしい」んです。
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糸井 |
福島の高校生も同じことを言ってました。
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河野 |
ああ、そうですか。
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糸井 |
彼らは、本当に、すばらしかった。
愛すべき家族の間でも
考えかたがバラバラなわけですけれど
それでも、
ちがう意見の人とも一緒にやっていきたいと、
きちんと考えているんです。
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河野 |
へぇー‥‥。
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糸井 |
ある生徒が、こう言ってたんです。
「もっと前向きに
忘れるということをしたほうが
いいと思うようになった。
この意見に対して
みんなの反論を求めます」って。
‥‥いいでしょ?
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河野 |
いいですね。
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糸井 |
それに対して、まわりのみんなも
「わかるんですけど、反論したいと思います」
みたいな感じで。
もちろん、簡単に答えは出ないんですけどね。
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河野 |
ええ、出ないでしょうね。
「忘れてほしい」というのは
言葉が適当じゃないかもしれないですけど、
「自責の念で苦しまないでほしい」
というか、
「何にも悪いことしてないですよ」
と言いたいんです。
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糸井 |
うん、うん。
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河野 |
「そうじゃない付き合いをしましょう」と、
今は、そう思ってます。
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糸井 |
日本を見渡せば、
まさに、いろんな自然災害が起きていて
そのたびに、人は
助けたり助けられたり、していますよね。
誰かに助けられた経験のある人が、
「東北に対して自分は何もできなかった」
という気持ちのままでいるよりは、
とにかく東北に行って、
町から町へゆっくりとめぐっていって
憑きものを落とすみたいな、
そういう「気持ちの整理のしかた」も
あると思うんです。
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河野 |
うん、憑きもの、落としてほしいです。
こころのなかに
「忘れることへの罪悪感」があるって
きついと思うので。
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糸井 |
「こんにちは」が言いづらくなりますし。
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河野 |
義務感と罪悪感の東日本、みたいなのは
ちょっと、たのしくないと思うんです。
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糸井 |
うん。
<つづきます> |