ほぼ日 | かけあしで、12枚のポスターを 解説していただきました。 土屋さんが、どんなかただったのかを、 もうすこし聞かせていただけますか。 |
マツヤマ | すごくおしゃれな方でしたよね。 |
徳光 | おしゃれだね、本当、おしゃれだね。 |
マツヤマ | もう本当に、行き届いた、 おしゃれな方でした。すべてが。 だから、伊勢丹の広告は、 土屋さんそのものなんですよ、 土屋さんのライフスタイルとか、 ファッションに対しての考え方のようなものが 提案のなかに、まんま出ているような気がしていました。 |
ほぼ日 | 僕らは、非常にユーモラスなお姿を想像するんですが、 一方では厳しい方でもあるんですか? |
マツヤマ | 私は、土屋さんに「厳しくされた」という 思い出はないんです。 怒られたこともないですし、 咎められたこともありませんでした。 本当に、優しい先生でした。 |
ほぼ日 | 教えることが、上手なんですか? |
マツヤマ | 教えるってこともされないですよ。 昔の職人さんみたいに、 「俺の背中を見て覚えろ」みたいな。 そうは言わないですよ。 言わないですけど、あえて、 「教えようか」っていう感じでは、ない。 私も、教わったわけじゃないんです、本当に。 きっちり「教わった」というより、 土屋さんのコピー、土屋さんの考え方を じーっと「見ていた」という感じでしたね。 でも、今考えると、あの頃、私、 のほほんと働きすぎていましたねー、 バカですねー。 もっといろんなことを聞けばよかった。 でも、土屋さんと一緒にいるっていうことが、 相当に勉強になったんだろうなと思いますね。 その時は勉強なんて思ってないんですが、 後で思うと、「あぁ、あぁ、あぁ」 って思うことはすごくあるんです。 |
ほぼ日 | たとえば、何か思い出すことってありますか? |
マツヤマ | 「コピーライターっていうのは、芸者なんだよ」 っていう言葉とか。これってたぶん サービス精神みたいなことだと思うのですが。 「その現場に行って、コピーライターが入ることで、 お座敷を、いかに盛り上げられるか」。 私、あれは、いつも思い出します。 それも、真面目に言うんじゃないんですよ。 土屋事務所って、3時くらいになると、 おやつタイムがあって。 ずっと、毎日必ず。 |
ほぼ日 | はい(笑)。 |
マツヤマ | 事務所の人間が集まって、 お茶とお菓子とか食べながら、 何でもないような会話とかしてたりするんですけど、 そういう時とかかなぁ。 甘いものもお好きでした。 脳をかなり使われる方だったからだろうと思います(笑)。 |
徳光 | よくね、僕もね、食べに行ったもん。 「そのくらいに行くと、ケーキが出てくるから、 行こうか」って言って。 |
マツヤマ | 「おいしいお菓子を食べに、土屋さんの所へ行こう」 みたいな。 |
ほぼ日 | いいですね、人が集まってくるのって。 |
マツヤマ | そうなんです。そうなんです。 |
徳光 | 食道楽だしね、土屋さん。 僕は、代官山の小川軒に、 初めて連れて行ってもらった。 小皿で、何種類もフランス料理が出てくるお店。 今は誰でも行けるけど、 当時は、なかなか入れなかったんです。 |
ほぼ日 | へぇ! |
マツヤマ | 私も、土屋さんの所にいる時には 本当においしいものを食べさせていただきました、 信じられないです、今考えると。 グルメ三昧の毎日でした(笑)。 体重も舌も、かなり肥えさせていただきました。 |
徳光 | お酒飲まないもんね、あんまりね。 |
マツヤマ | 軽くは飲まれるんですよ、ワインとか。 |
徳光 | でも、「酒飲みに行こう」っていう感じじゃない。 |
マツヤマ | そうですね。お若い頃は、結構飲まれて、 それでカラダを壊されたこととかもあったみたいですよ。 でも、私が働かせていただいていた頃は、 そんなにはもう飲まれてなかったです。 適度に嗜まれていたというか。 ワインも、本当お詳しかったです。 |
徳光 | そうだね。 |
マツヤマ | たとえば、すっごくいいワインをお店で頼んで、 少し残っちゃうことがありますよね。 ちょっともったいない~、と、 庶民の私は思うわけです(笑)。 でも土屋さんは「このワインで、ソムリエの人たちは、 勉強するんだから、残しておいてあげていいんだよ」と。 |
ほぼ日 | あ、なるほど! |
マツヤマ | 私なんかは、大学出たてですから、 「ほぉ!!」ばっかりですよ。「ほぉ!!」。 |
ほぼ日 | 今聞いても、「ほぉ!!」です(笑)。 |
徳光 | (笑) |
ほぼ日 | 大学出られて、すぐに、 土屋事務所に入られたんですか? |
マツヤマ | それが、もう本当に不思議なご縁があり、 大学4年生くらいの時から、 土屋さんの所でバイトさせてもらってたんです。 気に入ってくださったのか、 卒業後もずっといてもいいよ~、っていう感じで。 そのまま7年くらいお世話になりました。 スタートが土屋さんのところじゃなかったら、 私、広告業界にずっといたかどうかもわからないですね。 師匠が土屋さんだったからこそ、 コピーって愉しい、面白い、そして深い!! ということを直に「体験」できた。 だからこそ今まで続けられたし、 土屋さんみたいに、 生活を愉しむ大人になりたいと思ったのだと思います。 土屋さんも、弟子を育てるとかではなく、 「続けたいんだったら、続けてみたら」 とか、たぶんそういう感じですよ。 逆にコピーライターっていう仕事の 厳しさもわかっているからこそ、 私に無理強いはしないというか。 で、「こいつは、でも、やる気なのかな」 と思ってくださった場合は、 「こうしてみたら?」とか、「ああしてみたら?」 みたいなことが続いていくっていう。 土屋さんは、生き方を含めてですけど、 人に「こうしろ!」「ああしろ!」は、なかったですね。 土屋さん、そういう方でした。 バシッと言わないんですよね、いつもね。 |
徳光 | うん。「いいんじゃないの」なんて。 でも、その「いいんじゃないの」のひと言で、 「あ、あんまり気に入ってないな」ってわかる(笑)。 |
マツヤマ | 「いいんじゃないの」のニュアンスで(笑)。 |
徳光 | 「おもしろいんじゃない、それ」 とかおっしゃるんだけれど、 じつは「おもしろい」なんて言われたことは 相手にされてないんだ(笑)。 |
マツヤマ | (笑) |
徳光 | で、2週間くらい経つと、 原稿用紙に書かれたものを、 持ってくるんです。 普通、かばんからパッと出すじゃない? 出さないんですよ、絶対。 なんか知らないけど、 こんなところ(ポケット)から出すんだよね。 |
マツヤマ | そうですね。なんか、結構、 いろんな所にしまってたりして。 |
徳光 | いろんな所にしまうんだよ、本当に(笑)! |
マツヤマ | 本当に(笑)。 |
ほぼ日 | ちゃんとファイルしたりは? |
徳光 | いや、絶対そんなことなさいません(笑)。 |
ほぼ日 | へぇ、おもしろーい。 |
徳光 | 何もないのかなぁなんて思いながらね、いつも。 |
伊勢丹 宣伝部 |
でも、土屋さんにピシャって言われたこと、ありますよ。 |
マツヤマ | 本当ですか。 |
伊勢丹 宣伝部 |
僕らは、広告と売り場が 連動しなきゃいけないと思って、 教えを請うていたんですね。そうしたら、 「売り場と広告は連動しちゃだめだ」って。 「そんなことしちゃだめだよ。 それは絶対にだめだ。 先に行かなきゃだめなんだ」って。 |
マツヤマ | 「絶対に」っていう言葉をお使いになるなんて、 なかなかないですね。 |
徳光 | なかったね。 「売り場がついて来い」ってことでしょう。 |
伊勢丹 宣伝部 |
そう。「広告はもっと先に行け」ってことです。 |
徳光 | ディレクションっていうのは、 先のことやらないと、 ディレクションじゃないからね。 |
ほぼ日 | そういうことを教わったんですね。 |
徳光 | 粋なおじさんだったよね。 |
マツヤマ | そうそう。本当、そうなんです。 |
徳光 | 本当、粋なおじさんだった。 |
ほぼ日 | ありがとうございました。 徳光さん、マツヤマさん、 たくさんお話をお聞かせくださって。 |
徳光 | こちらこそありがとうございました。 |
マツヤマ | 本もそうですけれど、 土屋さんのこと、あらためて思いだすことができて とてもうれしかったです。 ありがとうございました。 |