1960年代半ばからずっと、 土屋耕一さんは、伊勢丹の仕事をしてきました。 ファッションから、くらし、ギフト、イベント。 伊勢丹があつかっているのは「商品」ですが、 土屋さんのことばは、いちどたりとも、 それが「商品広告」であったことはないといいます。 土屋さんのことばのなかには、 いつもかならず「あたらしい暮らしの提案」があり、 ポスターは、それをうつす キラキラした鏡のような存在でした。  のちに、伊勢丹が企業スローガンをつくったときに、 すみずみまでそれを浸透させるため、 社内報に連載された、土屋さんご本人の解説つきの、 歴代のポスターがあります。 新宿のローカルデパートが、 世界一といわれる百貨店になるまでの歩みが、 その12枚に凝縮されています。 当時をよく知るひとたちにうかがったお話、 歴代の資料画像とともに、おとどけします。
POSTER 11 & 12  1981年 生活の、同級生  1982年 HEALTHY SEXY ことし一年、使うことが多くなる言葉です。

ほぼ日 かけあしで、12枚のポスターを
解説していただきました。
土屋さんが、どんなかただったのかを、
もうすこし聞かせていただけますか。
マツヤマ すごくおしゃれな方でしたよね。
徳光 おしゃれだね、本当、おしゃれだね。
マツヤマ もう本当に、行き届いた、
おしゃれな方でした。すべてが。
だから、伊勢丹の広告は、
土屋さんそのものなんですよ、
土屋さんのライフスタイルとか、
ファッションに対しての考え方のようなものが
提案のなかに、まんま出ているような気がしていました。
ほぼ日 僕らは、非常にユーモラスなお姿を想像するんですが、
一方では厳しい方でもあるんですか?
マツヤマ 私は、土屋さんに「厳しくされた」という
思い出はないんです。
怒られたこともないですし、
咎められたこともありませんでした。
本当に、優しい先生でした。
ほぼ日 教えることが、上手なんですか?
マツヤマ 教えるってこともされないですよ。
昔の職人さんみたいに、
「俺の背中を見て覚えろ」みたいな。
そうは言わないですよ。
言わないですけど、あえて、
「教えようか」っていう感じでは、ない。
私も、教わったわけじゃないんです、本当に。
きっちり「教わった」というより、
土屋さんのコピー、土屋さんの考え方を
じーっと「見ていた」という感じでしたね。
でも、今考えると、あの頃、私、
のほほんと働きすぎていましたねー、
バカですねー。
もっといろんなことを聞けばよかった。
でも、土屋さんと一緒にいるっていうことが、
相当に勉強になったんだろうなと思いますね。
その時は勉強なんて思ってないんですが、
後で思うと、「あぁ、あぁ、あぁ」
って思うことはすごくあるんです。
ほぼ日 たとえば、何か思い出すことってありますか?
マツヤマ 「コピーライターっていうのは、芸者なんだよ」
っていう言葉とか。これってたぶん
サービス精神みたいなことだと思うのですが。
「その現場に行って、コピーライターが入ることで、
 お座敷を、いかに盛り上げられるか」。
私、あれは、いつも思い出します。
それも、真面目に言うんじゃないんですよ。
土屋事務所って、3時くらいになると、
おやつタイムがあって。
ずっと、毎日必ず。
ほぼ日 はい(笑)。
マツヤマ 事務所の人間が集まって、
お茶とお菓子とか食べながら、
何でもないような会話とかしてたりするんですけど、
そういう時とかかなぁ。
甘いものもお好きでした。
脳をかなり使われる方だったからだろうと思います(笑)。
徳光 よくね、僕もね、食べに行ったもん。
「そのくらいに行くと、ケーキが出てくるから、
行こうか」って言って。
マツヤマ 「おいしいお菓子を食べに、土屋さんの所へ行こう」
みたいな。
ほぼ日 いいですね、人が集まってくるのって。
マツヤマ そうなんです。そうなんです。
徳光 食道楽だしね、土屋さん。
僕は、代官山の小川軒に、
初めて連れて行ってもらった。
小皿で、何種類もフランス料理が出てくるお店。
今は誰でも行けるけど、
当時は、なかなか入れなかったんです。
ほぼ日 へぇ!
マツヤマ 私も、土屋さんの所にいる時には
本当においしいものを食べさせていただきました、
信じられないです、今考えると。
グルメ三昧の毎日でした(笑)。
体重も舌も、かなり肥えさせていただきました。
徳光 お酒飲まないもんね、あんまりね。
マツヤマ 軽くは飲まれるんですよ、ワインとか。
徳光 でも、「酒飲みに行こう」っていう感じじゃない。
マツヤマ そうですね。お若い頃は、結構飲まれて、
それでカラダを壊されたこととかもあったみたいですよ。
でも、私が働かせていただいていた頃は、
そんなにはもう飲まれてなかったです。
適度に嗜まれていたというか。
ワインも、本当お詳しかったです。
徳光 そうだね。
マツヤマ たとえば、すっごくいいワインをお店で頼んで、
少し残っちゃうことがありますよね。
ちょっともったいない~、と、
庶民の私は思うわけです(笑)。
でも土屋さんは「このワインで、ソムリエの人たちは、
勉強するんだから、残しておいてあげていいんだよ」と。
ほぼ日 あ、なるほど!
マツヤマ 私なんかは、大学出たてですから、
「ほぉ!!」ばっかりですよ。「ほぉ!!」。
ほぼ日 今聞いても、「ほぉ!!」です(笑)。
徳光 (笑)
ほぼ日 大学出られて、すぐに、
土屋事務所に入られたんですか?
マツヤマ それが、もう本当に不思議なご縁があり、
大学4年生くらいの時から、
土屋さんの所でバイトさせてもらってたんです。
気に入ってくださったのか、
卒業後もずっといてもいいよ~、っていう感じで。
そのまま7年くらいお世話になりました。
スタートが土屋さんのところじゃなかったら、
私、広告業界にずっといたかどうかもわからないですね。
師匠が土屋さんだったからこそ、
コピーって愉しい、面白い、そして深い!!
ということを直に「体験」できた。
だからこそ今まで続けられたし、
土屋さんみたいに、
生活を愉しむ大人になりたいと思ったのだと思います。
土屋さんも、弟子を育てるとかではなく、
「続けたいんだったら、続けてみたら」
とか、たぶんそういう感じですよ。
逆にコピーライターっていう仕事の
厳しさもわかっているからこそ、
私に無理強いはしないというか。
で、「こいつは、でも、やる気なのかな」
と思ってくださった場合は、
「こうしてみたら?」とか、「ああしてみたら?」
みたいなことが続いていくっていう。
土屋さんは、生き方を含めてですけど、
人に「こうしろ!」「ああしろ!」は、なかったですね。
土屋さん、そういう方でした。
バシッと言わないんですよね、いつもね。
徳光 うん。「いいんじゃないの」なんて。
でも、その「いいんじゃないの」のひと言で、
「あ、あんまり気に入ってないな」ってわかる(笑)。
マツヤマ 「いいんじゃないの」のニュアンスで(笑)。
徳光 「おもしろいんじゃない、それ」
とかおっしゃるんだけれど、
じつは「おもしろい」なんて言われたことは
相手にされてないんだ(笑)。
マツヤマ (笑)
徳光 で、2週間くらい経つと、
原稿用紙に書かれたものを、
持ってくるんです。
普通、かばんからパッと出すじゃない?
出さないんですよ、絶対。
なんか知らないけど、
こんなところ(ポケット)から出すんだよね。
マツヤマ そうですね。なんか、結構、
いろんな所にしまってたりして。
徳光 いろんな所にしまうんだよ、本当に(笑)!
マツヤマ 本当に(笑)。
ほぼ日 ちゃんとファイルしたりは?
徳光 いや、絶対そんなことなさいません(笑)。
ほぼ日 へぇ、おもしろーい。
徳光 何もないのかなぁなんて思いながらね、いつも。
伊勢丹
宣伝部
でも、土屋さんにピシャって言われたこと、ありますよ。
マツヤマ 本当ですか。
伊勢丹
宣伝部
僕らは、広告と売り場が
連動しなきゃいけないと思って、
教えを請うていたんですね。そうしたら、
「売り場と広告は連動しちゃだめだ」って。
「そんなことしちゃだめだよ。
 それは絶対にだめだ。
 先に行かなきゃだめなんだ」って。
マツヤマ 「絶対に」っていう言葉をお使いになるなんて、
なかなかないですね。
徳光 なかったね。
「売り場がついて来い」ってことでしょう。
伊勢丹
宣伝部
そう。「広告はもっと先に行け」ってことです。
徳光 ディレクションっていうのは、
先のことやらないと、
ディレクションじゃないからね。
ほぼ日 そういうことを教わったんですね。
徳光 粋なおじさんだったよね。
マツヤマ そうそう。本当、そうなんです。
徳光 本当、粋なおじさんだった。
ほぼ日 ありがとうございました。
徳光さん、マツヤマさん、
たくさんお話をお聞かせくださって。
徳光 こちらこそありがとうございました。
マツヤマ 本もそうですけれど、
土屋さんのこと、あらためて思いだすことができて
とてもうれしかったです。
ありがとうございました。

2013-09-02-MON
 
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