養老 |
(かばんから、校正ゲラを出して) これどうです。 小檜山(賢二)さんっていうのがね、 『象虫』(ゾウムシ)っていう写真集を作っていて、 今度は『葉虫』(ハムシ)というのが出るんですよ。 |
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糸井 | 写真ですか、これ。 |
養老 | デジカメのね。 |
糸井 |
小檜山先生知ってます、ぼく。 すっごい穏やかな、ゆっくりしたかたですよね。 |
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養老 | そうです。 |
糸井 |
あのかた、 こんなレベルのことしてるんですか。 ものすごいですね。 |
養老 |
これ(ページを開いて見せる)、 虫糞葉虫(ムシクソハムシ)っていう虫です。 足縮めると、毛虫の糞ソックリだから。 |
糸井 |
うわー。 この写真のデカさすごいなぁ。 |
養老 | これがトゲナシトゲトゲ。 |
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糸井 | トゲナシトゲトゲ。 |
養老 | これトゲアリ。 |
糸井 | トゲアリ(笑)。 |
養老 |
トゲナシ。 これが、トゲトゲです。 |
糸井 | 小檜山さんこんなことしてたんだ。 |
養老 | そうなんです。 |
糸井 |
これは、(昆虫)マニアの養老さんが見ても やっぱり恐ろしい書籍ですか。 |
養老 |
そりゃそうですよ。 これだけ集めるのは大変ですもんねぇ。 しかも、小檜山さん凝ってて 採りたてのほとんど生きてるものばかり。 放っておくと、茶色になってしまうんですよ。 |
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糸井 | 呆れた。 |
養老 |
これ見せると世界中が呆れます。 虫がこうだってことは、 なんとなく、みんな知ってるんだけど、 こういう形でデモできなくて、 最初に載せてくれたのは、芸術新潮だった。 で、ぼくがやたら褒めたもんだから、 小檜山さん元気がでちゃってね(笑)。 |
糸井 | いけるんだ、と。 |
養老 |
そう。 でもこれってなんでしょう。 新たな分野ですよね、 アートと技術がくっついた新ジャンル。 |
糸井 |
つまり、すでにある何かを、 撮ることがもう行為ですよね。 表現ですよね、もうね。 |
養老 | そうです。 |
糸井 |
これは予想して撮ってるわけでしょ。 このようなイメージを。 すごいなぁー。 彫刻の一種ですかね。 作品論としては。 |
養老 |
あー、そうですね。 質感がかなり出ていますよね。 |
糸井 |
で、間に入ってるのは、 道具はカメラなんですか。 |
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養老 |
普通のデジカメです。 あとはコンピュータですね。 |
糸井 | データの処理なんだ。 |
養老 |
それぞれ撮っていると とてもピント合いません。 だから全部ピントが合うように、 部分撮影したものを重ねていくんです。 ぼくが論文用に頼んでいるものは、 (昆虫1体につき) 150枚ぐらい撮ってくれてるんですよ。 150枚が1枚になる。 |
糸井 |
そのことを考えついたのは、 もうとっくなんですか。 |
養老 |
3、4枚合成するのは、 しょっちゅうやってます、ぼく。 そういうソフトそのものもいま 無料でも手に入りますからね。 |
糸井 |
人間の想像力って安いですねぇ。 養老先生なんて、解剖なさってるから、 人を見たときに、 内臓とかを意識しながら見てるんですか。 |
養老 | 内臓は意識しませんけどね。 |
糸井 |
ぼくは、養老さんには違う人体が 見えてるんだろうなっていうのは、 前々から、それはけっこうつらいことかなぁ とか思ってたんですよ。 そんなことはない? |
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養老 |
つらいかどうかは知りません、 他の人になれないから。 |
糸井 | じゃあ、内臓のことまでは考えないんですね。 |
養老 | 内臓はあまり関心がないですね。 |
糸井 | 関心がない(笑)。 |
(つづきます)