Lesson1053
そこから先は、相手の自由
2022-09-07
人間関係で妙に疲れるとき、
自分のチカラでどうにもならないことを、
自分のチカラでどうにかしようとしてないだろうか?
つい先日まで、
私は、誤解を解こうと切羽詰まっていた。
朝起きて、コーヒーを入れようとするも、
「どうすれば相手にわかってもらえるか」
伝え方を必死で模索しだす私がいる。
説明の言葉を、ぼそぼそと独り言のように
つぶやいてみては、
「ああ! これじゃ全然伝わらない」
と首を大きく振って、いちから考え直す。
そうこうするうちに手がおろそかになり、
湯が沸騰しすぎたり、
コーヒーをカップに注ぎこぼしたり。
この数カ月は、そんな調子で、
来る日も来る日も、気がついたら私は、
伝わる言葉を模索していた。
けど、誤解されている時は、
何を言っても、裏目、裏目に出て、
悪く、悪く取られてしまうことがある。
例をあげると、
SNSで炎上している有名人が、
何を言っても、どんな伝え方をしても、
伝わらないどころか、
言えば言うほど悪化し、
すべての言葉が、
「炎上の燃料」
になってしまう、あの感じだ。
時を待つしかない。
でも1日でも早く誤解を払拭したい、
いてもたってもいられない私もいる。
そうして私は、気づくとまた、
伝わる言葉を模索して、
そのたびなぜか、へとへとになった。
私の場合、疲労困憊すると背中が痛む。
「自分はなぜこんなに疲れているんだろう?」
たしかにツラい模索にはちがいない。
でも、ここまでヘトヘトになるのは、
なにかチカラの向け方がおかしいんじゃないか。
答えがでないまま、その日も、
「2年くらいが冷静になるのに必要と聞いた」
「いや、そんなに間をあけたら説明を放棄して
逃げたと思われるんじゃないか」
「そんなの嫌だ、だったら少しでも早く伝えないと‥‥」
と独り相撲で考えていた。
「こんな伝え方じゃ理解してもらえない」
「理解されなかったら私の尊厳は木っ端みじんだ」
「どうすれば理解してもらえるのか!」
緊張が張り詰めたとき、
私の中からぽこっ、とこの言葉が湧いて出た。
「理解するかどうかは、相手の課題。」
あっ、そうか!
その瞬間、カラダに張り詰めていた緊張が、
スーッとやわらいだ。
ああ、ああ!
私は疲労困憊の原因がわかった。
「本来できないことをやろうとしていた」
”馬を水辺に連れて行くことはできても、
水を飲ませることはできない”
とよく言われる。
これになぞらえると、
自分で水を飲ませるまでをやらなきゃと、
焦って自分を追い込んでいた。
正直に、相手のことを想いやって、
理解しやすい説明をするまでが私の課題。
けど、そこから先、
相手が理解するかどうかは、相手の課題。
もっと言えば、
「相手の自由。」
自分でどうこうしようにも、
どうにもならない人の想いを、
無自覚に自分でどうこうしようとしているとき、
いつもの何倍も疲れる。
私には誤解を解くための説明をすることはできる。
でもその先、相手がどう反応するか、
理解するかしないか、
理解したとしても受け入れるか受け入れないか、
それは、相手の課題。
相手が生きてきた人生や環境、
価値観にかかわることだ。
当然、私の説明がまずくて理解されない場合もあり、
その場合は説明の工夫改良、私の努力だけど、
自己ベストの説明ができたとして、
そこから先の、相手の反応まで
どうこうするのは、もともと不可能だ。
だから伝えきったその先は、
「手放す。」
私がやるべきことは、
人道的にまっとうに、
仰いで天にはじず、俯して地にはじず、
の説明をすることだ。
自分にできる範囲を切り分けてから、
あの妙な疲労困憊に陥ることはなくなった。
そう言えば、少し前、
高齢の母に説明をして、どっと疲れた。
あれも、「馬に水を飲ませる」かのような
不可能なことをしていたと後から気づく。
手放せてなかった、執着していた。
市役所に手続きに行くという母に、
スカイプ越しに、
持ち物、手続き、を説明した。
それだけで小1時間かかった。
終わったあと疲労困憊、背中が痛んだ。
けど考えたら、
高齢の母にわかりやすい説明をするまでが
私の課題だ。
その先の母の反応、「わかる」かどうか、
「できる」かどうかは、母の課題だ。
母が育ってきた時代や、
いまの高齢の母の体力や記憶力の限界として、
わかれないこともある。
頭でわかっていてもできないことだってある。
「母がわかるまで、できるまで、私がなんとかする」
という努力は、
一見、親孝行のように見えるけど、
水辺に連れて行った馬にたとえて言えば、
飲まない・飲めない自由を認めないようなものだ。
結局、市役所の手続きは、
家族が母に付き添って行ってくれて、
無事にできた。
あとから考えると、私にできたことは、
「母が困っていると家族に知らせた」だけ、
「結果的に母と付き添ってくれる人をつないだ」だけ。
でも、それだけはできていた。
「そこから先は、相手の課題。」
手放して、
相手の自由な反応を受けとめる、
それは、
相手への「信頼」でもある、
相手を「尊重」することでもある、
自分のカラダも軽くなる、
と私は思う。
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自由はここにある!
ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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