HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

憧れていた教師から、
「好き」が生かせる
ヴィレヴァンへ。

超マジメな小学校の非常勤講師が、
「ヴィレッジヴァンガード」に転職。
優等生タイプだった長谷川朗さんは、
なんとなく決めた将来の夢に流されるまま
社会へと漕ぎ出して大苦戦します。
「もう嫌だ、好きなことやりたい」と、
逃げるようにしてたどりついた場所が
書籍・雑貨店のヴィレッジヴァンガード。
自分の「好き」を生かせる仕事と出会って、
ようやくおもしろく働けるようになった
長谷川さんの「なるべく無理しない」働き方。
インタビュアーは、ほぼ日の平野です。

3

なるべく無理はしない。

長谷川朗さん画像
――
仕事の舞台が東京に移りました。
高円寺といえば、
サブカルチャーが根付いた街ですよね。
長谷川
高円寺店は開店して1年半くらいでしたが、
わかりやすくカルチャーらしいものが
お客さんに受ける店でしたね。
ぼくが店長になってからいろいろやって、
少しずつ売上の数字を伸ばしていました。
できるバイトの子が3人いたんですよ。
その中のひとりのセンスが素晴らしくて、
ヴィレヴァンが売上を取るためのセオリーとは違う、
うまい突き方をしてきたんです。
高円寺の街自体にCD屋がなかったから、
嵐のベスト盤とか宇多田ヒカルとかを仕入れて、
めちゃめちゃ売れました。
まわりの人からは「なんで嵐とか売るの?」
なんて馬鹿にされたりもしたんですが、
そのバイトの子のほうが、
高円寺に住んでいる人のことをわかってたんです。
――
「なぜヴィレヴァンで売るの?」
という気持ちもよくわかります。
長谷川
あと、高円寺は飲んべえが多いんで、
酒飲みグッズも売れましたね。
マンガも下北に次いで2番目に売れてましたし。
今までぼくが担当してきたエリアでのやり方と
違うむずかしさはあったけど、
「あ、高円寺っぽいな」という実感はありました。
高円寺店には1年半ちょっとぐらいいたんですが、
その頃に下北沢店のてこ入れをする話があって、
書籍を頑張っていくという方針になって、
ぼくに声がかかったんです。
――
下北沢店はヴィレッジヴァンガードの中でも
特に売上を求められるわけですよね。
長谷川
シモキタは、ずっと全国1位です。
長谷川朗さん画像
――
全国1位のお店の書籍担当として
「改革をしなさい」と。
どんなところから手を付けるのでしょう。
長谷川
下北沢っていう場所柄、
舞台とか映画とか音楽とかカルチャーっぽいものは、
たとえ売れなくても押さえたほうがいいと思って、
足りない部分をバーッと増やすところから。
売上には直結しなくても、
人が集まってきている感じはありました。
小説、文学、あとは旅系、料理本も意外と強いです。
それに宗教っぽいものも需要がありますね。
その辺のシェアを見ながら、増やしたり減らしたり。
――
特に長谷川さんが
プッシュしたものといえば?
長谷川
映画と音楽を増やしたのと、絵本も増やしてますね。
絵本って、プレゼントの需要もあって人気なんですよ。
一風変わった飛び出す絵本なんかは、
単価に関係なく売れていますね。
あとは文芸の分野でも、寺山修司とか安部公房、
押さえておきたい古典をひと通り揃えれば、
いつの時代でも絶対に売れてくれます。
それこそ、ぼくが赴任してすぐ、
蜷川幸雄さんの舞台で寺山修司原作の
『あゝ、荒野』を松本潤さん主演でやっていたんで、
寺山修司コーナーをでっかく作ったんです。
めちゃめちゃ人が来てくれましたし、
著名人が立ち読みに来てるのも見ましたね。
――
お店を動かすようになってから、
アルバイト時代に想像していた店長像と、
合致してますか、違うものでしたか。
長谷川
ぼくはあんまり変わらなかったなあ。
小倉店の2番目の店長の影響が強くて、
その人を鏡にしているんですけど、
彼はピンポイントで的確な仕事をする人でした。
自分でバチバチっと決める店長じゃなくて、
やりたいことを相談されたら、
「あぁ、いいよ。やってごらん」
と言って自分がレジに入る店長なんです。
それでも、自分の好きな商品は絶対に店に入れて、
いいものが置いてある店にしたかったし、
バイトも店長をサポートしてくれるんです。
知識をすごく持っていたのもあって、
バイトのみんなから尊敬されてましたね。
――
自由な雰囲気を作ってくれたんですね。
長谷川
バイトの子がたのしく働けることが、
一番お店を生き生きさせると思うんです。
ヴィレッジヴァンガードのおもしろさって、
暇な時間で無駄なアイデアが生まれて、
無駄なものをお客様に出して、ということなんで。
――
長谷川さんが暇な時間を使ってやった、
というアイデアはありますか。
長谷川
ハリーポッターの登場人物に
「ロン」っていますよね。
ロンがプリントされたTシャツを売って、
こんなPOPをつけました。
店内の画像
――
わっはっは、「ロンのロンT」!!
これはたしかに、POPありき。
人に言いたくなりますねー!
長谷川
めちゃめちゃ反応もよかったし、
実際にかなり売れてるんですよ。
「言いたいだけじゃん」ってだけなんだけど。
こういうこと、増やせたらいいんですけどね。
――
そういう無駄、もっとやってほしいなあ。
長谷川さんは大学生のアルバイトさんと
ふれあう機会も多いと思うのですが、
ふだん接する大学生ってどんな感じでしょうか。
長谷川
自分が年を取ったのがすごく大きくて、
流行りについていけなくなってきてます。
ぼくが彼らと同い年くらいだったら、
You Tuberとか声優さんっていう趣味嗜好に
走っているのかもしれないけど、
本当のおもしろさが、ぼくにもわかってなくて。
バイトの子から人気のものを聞いて
店に出していかないとついて行けません。
自分がいいと思えなかったら、
なかなか発信もできませんよね。
でも、ヴィレッジヴァンガードは特に、
若い文化を求めるお客さんがメインだから、
流行についていかなきゃ売上は立ちません。
ただ、ぼくはもうついていけないわけだから、
今いいと思っているものを小出しにして、
メインの分野は他の人に任してもいいのかなって。
長谷川朗さん画像
――
そういう意味で言うと、
若い人が活躍する舞台とも言えますよね。
長谷川
下北沢店の店長は、
バイトの子からアイデアを聞いて、
いっしょにグッズを作ったりしてますよ。
――
自分の趣味を誰でもが
出せる場でもあるんですか。
長谷川
趣味は出せる場だと思います。
ぼくも最近、Netflixでやってる
『ストレンジャー・シングス』っていう
アメリカのドラマが大好きで、
シーズン1を見てハマったんです。
その頃はまだそこまで人気がなかったんですが、
ぼくは大好きだったからグッズも売りたくて。
シーズン3になって人気が増してきて、
ヴィレヴァンでも配信された1週間くらいで
輸入Tシャツが百何十枚と売れて、
やっと火が点いてきたなあと思うんです。
イベントのポップアップストアでも
めちゃめちゃ人気で大行列ができました。
ぼくはずっとやりたいやりたいって言い続けてたんで、
「ほら見ろ、やっと来たか」っていう感じ。
長谷川朗さん画像
――
やりたいことが増えると忙しくはなるけれど、
好きなことができて、たのしそうですよね。
長谷川
たのしいですよね、やっぱり。
たのしいことが多いから、続けられています。
仕事してると、嫌なことってありません?
――
もちろん嫌なことぐらいあります。
長谷川
どんな仕事でも嫌なことってあると思いますけど、
ヴィレヴァンでの仕事はたぶん、
嫌な仕事の割合が低いと思うんです。
特に最近は猛烈に忙しいんですけど、
たのしいことのほうがまだ多いかなって。
半分、自分の趣味をやっている感覚に近いんです。
それこそ自分が「好き」と言ってるのが
売れるとめちゃめちゃたのしいし、
そのたのしさには、嫌なこともなかなか勝てません。
――
長谷川さんが先生を続けていたら、
どんな先生になっていたんでしょうかね。
長谷川
そろそろベテランの域に入ってきて、
教務主任とか主任みたいな
立場になっているかもしれません。
でも、興味のない仕事を普通に続けて
嫌なことばっかりあったら、
愚痴ばっかり言っていただろうなあ。
このインタビューの話をいただいたときに、
仕事に対するスローガン的なものが
なにかないかなと考えたんですが、
自分は「なるべく無理はしない」ですね。
「無理はしない」と言いたいけれど、
無理をせざるを得ないときもあるので、
「なるべく無理をしない」。
無理やりついていってもいいことないし、
キツそうだったら得意な方に逃げたほうが
先が見えてくると思うんです。
自分の好きなことでいいんで、
一個武器があるだけで強いなと思います。
それが自分の働き方かな。
――
ああ、得意な方に逃げてもいい。
勇気が出てくる話をありがとうございます!
長谷川
ありがとうございました。
(おわります)
2020-01-17-FRI