毎日つづけても
嫌にならないし、
ぜんぜん飽きない。
ほぼ日がお届けしている、
小舟の先輩たちへのインタビューシリーズ。
5人目としてご登場いただくのは、
国立にあるおやつの店「フードムード」の店主で、
料理家のなかしましほさんです。
何人もスタッフを抱えるなかしまさんには、
これまでの職歴だけじゃなく、
人とはたらくことのおもしろさや難しさ、
お菓子づくりで大切にしていることなど、
いろいろなお話をうかがいました。
担当は、ほぼ日の稲崎です。
オリーブ少女とカセットテープ。
- ――
- ほぼ日ともご縁の深い、
料理家のなかしましほさんです。
いつもお世話になってます。
- なかしま
- こちらこそお世話になってます。
- ――
- まずは自己紹介をかねまして、
どんなお仕事をされているのか、
あらためて教えていただけますでしょうか。
- なかしま
- はい。なかしましほと申します。
国立で「フードムード」という
お菓子のお店を10年以上やってます。
そこではクッキーとか、シフォンケーキとか、
焼き菓子を中心に販売していて、
ほぼ日さんでも何度か通販をしていただいてます。
- ――
- フードムードのお菓子、
社内でも大人気です。
- なかしま
- ありがとうございます(笑)。
他にも、お菓子やお料理のレシピを
本や雑誌などで発表する仕事をしてます。
フードコーディネーター的に、
新しくオープンするお店のメニューを考えたり、
CMや映画に登場するお料理をつくることもあります。
料理教室も時々ひらいたり、
とにかく食にまつわるやりたいことがあれば
何でもやるという感じです。
- ――
- いまのようなお仕事をする前は、
何をされていたんでしょうか?
- なかしま
- アンケートでも書きましたが、
実家の家業が牛乳屋だったんです。
牛乳を販売する販売店でした。
そこは祖父と祖母がやっていて、
小さい頃はそこを継ぎたいと思っていたのですが、
私が高校生くらいのときに、
その家業をたたんでしまいました。
そのあとは、もともと音楽が好きだったので、
音楽に関わる仕事がしたいと思うようになって、
いちばん最初はレコード会社に就職しました。
そこで営業事務的なことを2年くらいやってから、
音楽系の出版社に転職します。
食のことを仕事にしはじめたのは、
そこを辞めたあとなので、
25か26歳くらいだったと思います。
- ――
- 出版社にいたときは、
どういう雑誌に関わっていたんですか?
- なかしま
- 私が入ったのは「ロッキング・オン」というところで。
- ――
- えっ、あのロック雑誌ですか?!
- なかしま
- いやいや、『rockin'on』誌ではなくて、
その会社が出している『H(エイチ)』という、
カルチャー系の雑誌がありまして。
- ――
- あ、『H』。いまもありますね。
- なかしま
- それが創刊して間もない頃でした。
いまとはまた少し違うテイストの雑誌で、
映画だとウォン・カーウァイとか、
ファッションだと「アンダーカバー」とかが
人気の頃でした。
- ――
- もともとは音楽がお好きだったんですか?
- なかしま
- そうですね。
ただ、そんなに洋楽とかは聴いてなくて、
やっぱり姉(三國万里子さん)の影響が大きくて、
姉が聴くものをいっしょに聴くという感じでした。
姉は大江千里さんとか、
財津和夫さんのTULIPとか、
矢野顕子さんもよく聴いていました。
私は、高校生のときにバンドブームがあったので、
その頃はユニコーンとかジュンスカ、
レピッシュとかを聴いてましたね。
あと、オリジナル・ラブとかフリッパーズ・ギターとか、
いわゆる「渋谷系」とかも好きでした。
まさに『オリーブ』で育った世代なので(笑)。
- ――
- 聞いた話によると、
ご実家には大量のカセットテープがあると‥‥。
- なかしま
- ありますね(笑)。
カセットのツメを折ったり、
録音するときはテープを貼ってダビングしたり。
そういうカルチャーがあったこと、
もうご存知ないでしょう?
- ――
- いやいや、ぜんぜん知ってますよ。
ぼく、高校生くらいまでは、
家でオリジナルテープをつくって、
好きな子にあげたりしてましたから(笑)。
- なかしま
- そうそう、みんなあげるんですよね(笑)。
自分で録音したものをベストみたいにして。
好きな子にテープをつくるって、
それ、もう自分の心のなかを
相手に見せるようなものじゃないですか。
それってけっこうすごい行為ですよ。
- ――
- いま思うと恥ずかしいです(笑)。
でも、テープはけっこう好きでした。
- なかしま
- テープ、いいですよねー。
私がレコード会社にいたときは、
新曲のデモテープが宣伝用に届くので、
それをダビングするのが私の仕事でした。
ダビングしたテープを、
町のCD屋さんやタワーレコードとかに
プロモーション用に配るんです。
会社のなかでいちばん新人だったので、
1日に何十本ものテープを
とにかくずっとダビングしてました。
- ――
- でも、CDもあるんですよね?
- なかしま
- お店で売られるのはCDなんですが、
サンプル素材として届くのは
まだテープの時代なんです。
そのサンプルをCD屋さんが気にいると、
レーベルに発注が来るんです。
その頃は洋楽の部署にいたのですが、
BECKのデビュー作がすごく盛り上がってました。
- ――
- そういう時代ですか。はーー。
- なかしま
- そこではもう毎日毎日、
宣材用にテープをダビングして、
それに曲目を打ったのをコピーして、
ということをずっとやってましたね。
- ――
- その頃から「いずれは食の仕事をしたい」とか、
そういう思いはあったんですか?
- なかしま
- その頃は私の人生のなかでも、
食への意識がすごく薄いときだったんです。
まだ高校生ときのほうが、
家でチーズケーキを焼いてたくらい。
当時もお菓子づくりは好きでしたけど、
やっぱり会社ではたらきはじめると、
お菓子を焼く余裕もぜんぜんなくて。
食べることは二の次という感じでしたね。
- ――
- じゃあ、いまみたいなお仕事をするとは、
その頃はまったく思いもせず‥‥。
- なかしま
- まったくなかったです。
お菓子は好きでしたけど、もっと受け身でした。
会社の先輩が買ってきたものを食べたり、
だれかにケーキバイキングに連れていってもらったり。
自分でおいしいお店を開拓することも、
まったくしてなかったですね。