毎日つづけても
嫌にならないし、
ぜんぜん飽きない。
ほぼ日がお届けしている、
小舟の先輩たちへのインタビューシリーズ。
5人目としてご登場いただくのは、
国立にあるおやつの店「フードムード」の店主で、
料理家のなかしましほさんです。
何人もスタッフを抱えるなかしまさんには、
これまでの職歴だけじゃなく、
人とはたらくことのおもしろさや難しさ、
お菓子づくりで大切にしていることなど、
いろいろなお話をうかがいました。
担当は、ほぼ日の稲崎です。
ぜんぜん飽きない。
- ――
- これを読んでる学生のなかには、
「将来、自分のお店をもちたい」とか
「いつか食の仕事をしたい」という方も
いらっしゃると思います。
そういう若者たちに
「こういう経験はしたほうがいいよ」
みたいなアドバイスってありますか?
- なかしま
- 将来、飲食をやりたい場合、
アルバイトでもなんでもいいので、
なるべく現場経験は積んだほうがいいと思います。
例えば、私の店で製造スタッフを募集する際、
未経験者は、現段階ではお断りさせていただいてます。
どんなにやる気があったとしても、
フードムードみたいな小さなお店だと、
時間や人数の余裕がないので、
なかなか手とり足とり教えられないんです。
はたらきたい業種の最低限のマナーとかルールとか、
そういうのを先に身につけているだけでも、
きっとチャンスって広がると思います。
- ――
- 調理学校のようなところには、
やっぱり行ってたほうがいいんですか?
- なかしま
- それはまた別の話だと思います。
飲食の経験がないからって、
学校に行けばいいという話じゃないんです。
私もそういう学校に通ったことはないです。
飲食のお店は、
保健所の許可、設備等の許可をとれば、
調理師免許は必須ではありません。
もしやりたいことがはっきりしてるなら、
わざわざ学校に行かなくても、
その世界に飛び込んじゃっていいと思いますよ。
- ――
- 思い切ってはじめちゃったほうがいい。
- なかしま
- 現場にまったく飛び込まずに、
ずっと「どうしようか」と悩んでる人も
けっこういるじゃないですか。
「自分のお店もちたいんですけど、
どうしたらいいですか?」って、
私もよく相談されるんですが、
「それはもう、やってみるしかないです」
としか言えないんですよね。
- ――
- もう、やるしかないと。
- なかしま
- 日本で食をあつかう場合、
いちばんハードルとなるのは
「保健所の許可」が下りるかどうかです。
自分のつくったお菓子やパンを
販売したいと思っても、
自宅の台所でつくったものは、
いまの法律では販売できません。
必ず保健所の許可があるキッチンじゃないとダメで、
それには家のごはんをつくるのとは別の台所が必要です。
だからこそ、もしそういう仕事がしたいなら、
それはもう覚悟を決めて、
保健所の許可が出るスペースを
用意するしかないんです。
- ――
- つまり、そこまでの覚悟を
決められるかどうかなんですね。
- なかしま
- そこまでしてほんとうにやりたいかどうか。
そういう場所を借りるということは、
やっぱりお金もたくさんかかりますからね。
でも、ほんとうにやりたいなら、
その覚悟を決めるしかないんですよね。
もし偉そうに聞こえちゃったら、すみません。
でも、ほんと、それしかないので。
- ――
- しほさんもそうやって覚悟を決めたからこそ、
いまがあるわけですよね。
- なかしま
- そうですね。はい。
- ――
- 最後にもうひとつおうかがいします。
いまのお仕事は、
これからもつづけていくと思いますか?
- なかしま
- はい、そう思います。
私、自分のつくってるお菓子に関しては、
まったく飽きることがないんです。
もちろん力の入れ方に波はありますが、
これからずっとつづけるというのは、
この仕事をはじめたときに
自分でなんとなくわかったんですよね。
だから、たぶんずっと、
おばあちゃんになってもやってると思います。
- ――
- 「自分でわかった」というのは、
それは直感みたいにしてわかったんですか?
- なかしま
- 直感というよりも、
いまのお仕事はいくらやっても、
ぜんぜん飽きないんです。
もう、それにつきると思います。
私、けっこう飽き性なので、
他のことはすぐに嫌になるんですけど、
お菓子づくりだけはぜんぜん飽きない。
- ――
- 「飽きない」というのは、
いつぐらいに気づいたんですか?
- なかしま
- 自分でお菓子のレシピを考えて、
それを通販しはじめたときくらいからです。
だからもう、はじめからですよね。
とくにいま自分がやってる
「バターを使わないお菓子づくり」は、
ほんとにいくらやっても飽きないんです。
バターを使うお菓子って、
自分が食べるのは大好きなのに、
自分でつくるときはバターの焼けた匂いに、
ちょっとだけウッてなることがあるんです。
でも、いまフードムードでつくる
バターを使わないお菓子は、
いくら焼いてもぜんぜん嫌じゃない。
そうそう、いま話しながら思ったけど、
「嫌じゃない」という表現がちょうどいいかも。
大好きというよりも、嫌じゃないんです。
だから、毎日できるんだと思う。
- ――
- 嫌じゃないからつづけられる。
- なかしま
- だから、お菓子づくりを仕事にして
すぐにそう思えたのは、
すごくラッキーでしたよね。
そういうのが見つからないっていう
相談もよく受けますけど、
でも、そんなのは見つけようと思って
見つかるものでもないと思うんですよね。
たぶん、自分が何か引っかかったものを、
ちょっとずつでもつづけてみるのがいいのかなあ。
それも、あんまり期待しすぎないでね。
- ――
- 期待しないほうがいいんですか?
- なかしま
- だって、期待しすぎたり、
高い目標をもちすぎると、
きもちに余裕がなくなるじゃないですか。
もちろんそうやって
自分を鼓舞している人もいるでしょうけど、
私は目の前のことを、
淡々とつづけるやり方のほうがあってますね。
- ――
- たしかに、大きな夢を掲げすぎると、
それだけで動きが鈍くなるときはあります。
- なかしま
- 私みたいに淡々とした生活でも、
やっぱりしょっちゅう越えなきゃいけない
小山はたくさん出てくるんです。
それをがんばって越えていくだけでも、
ちゃんと成長してる感覚はあります。
最初から富士山とかエベレストを目指さなくても、
まずは高尾山くらいからのきもちで、
はじめてみたらいいんじゃないでしょうか。
- ――
- そうやって体力をつけてから、
高い山を目指してもいいわけだし。
- なかしま
- そうそう。
それくらいのきもちで社会に出るのが、
ちょうどよかったりするんですよ。
私はそう思いますね。
- ――
- きょうはありがとうございました。
いつもはお菓子のことばかりなので、
こういうお仕事の話が聞けて新鮮でした。
またぜひ、いろいろ質問させてください。
- なかしま
- どうもありがとうございました。
こんな感じでよかったのかしら(笑)。
またいつでも呼んでくださいね。
(おわります)
2020-02-14-FRI