HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

毎日つづけても
嫌にならないし、
ぜんぜん飽きない。

ほぼ日がお届けしている、
小舟の先輩たちへのインタビューシリーズ。
5人目としてご登場いただくのは、
国立にあるおやつの店「フードムード」の店主で、
料理家のなかしましほさんです。
何人もスタッフを抱えるなかしまさんには、
これまでの職歴だけじゃなく、
人とはたらくことのおもしろさや難しさ、
お菓子づくりで大切にしていることなど、
いろいろなお話をうかがいました。
担当は、ほぼ日の稲崎です。

2

フードムードというお店。

フードムード店内の様子画像
なかしま
今回の「ほぼ日のインターン」って、
インターンだからお給料は出ないんですよね?
――
いえ、インターンなんですけど、
アルバイトと同じように時給は出るそうです。
なかしま
ああ、そうなんですね。
いや、私はスタッフを雇う側でもあるから、
ちょっとそのへんが気になっちゃって。
――
気になるというのは‥‥?
なかしま
やっぱりインターンの場合でも、
ちゃんとお給料を払って、
それに見合う労働をしてもらったほうが
お互いにとっていいと思うんですよね。
だって、お給料が出ないと
こっちもどこかで申しわけないきもちになるし、
はたらいてる側もちょっとは
「お金をもらってないから」
というのがあると思うんです。
だから、私の店では
「タダでもいいのではたらかせてほしい」という方は、
おきもちはよくわかるのですが、
いまのところはお断りしているんです。
――
たしかにタダでもいいってなると、
ちょっと責任感が薄くなるのかも‥‥。
なかしま
あ、そうそう、ちょっと話は変わるんですが。
――
はい?
なかしま
いや、この前、いきなりお店に
カタコトの英語で電話がかかってきて‥‥。
――
英語で?
なかしま
お店のスタッフが出たんですけど、
そのあとホテルの方が通訳で電話を代わられて、
「いまの方がきょうからそちらで、
1か月はたらきたいそうです」って言うんです。
「お金はいらないから、
寝床と食事だけ提供してほしい」って。
――
えぇ?!
なかしま
たぶん、都内のホテルからだと思うんです。
ちょうど私がいなかったので、
また午後に電話するって伝言があって。
でも、そのあと電話がなかったので、
たぶん、他で決まったのかなって思ってるんですけど。
――
それは、インターンってことですか?
なかしま
たぶんそうだと思います。
海外だとそういうのがよくあるみたいです。
有名なパン屋さんやケーキ屋さんに、
日本の人たちも勉強に
行ったりするという話を聞くので。
――
ちなみに、なかしまさんはお店の方をとるとき、
どんなところを見るんですか?
なかしま
採用のときですか?
――
はい。
なかしま
うーん、そうですね。
「ずっとフードムードが好きです」とか
「なかしまさんの大ファンなんです」という方は、
ちょっとご遠慮していただくことが多いかもしれません。
――
つまり、ファンの方はとらない?
なかしま
絶対、というわけではありませんが。
大好きとおっしゃってくださる方は、
お客様としてはとてもありがたいのですが、
現場でいっしょにはたらくとなると、
自分のなかのイメージとのギャップを
感じることがあるようです。
そもそもお菓子屋さんの裏側なんて、
かなり肉体労働なところもありますから。
――
そうですよね。朝も早いし。
フードムード店内の様子画像
なかしま
だから、いままで採用したスタッフは
「フードムードを知りませんでした」とか
「1回も店に来たことがないです」とか
「いつか自分のお店を持ちたくて、
いろんなお菓子の勉強をしたいです」とか、
とにかく淡々とはたらくスタッフが多いです。
いま、長くいるスタッフは、
わりとみんなそういう冷静な感じですね。
――
いまお店にいるスタッフで、
「いつかは自分のお店をもちたい」
という方もけっこう多いんですか?
なかしま
お菓子をつくる側は、
そういう思いのあるスタッフが多いと思います。
ただ、接客はまた違うと思うので、
モチベーションの保ち方が難しいとは思います。
――
それぞれ違うんですね。
なかしま
だから、接客の上手な人をいつも探してますね。
例えば、たまたま入ったカフェで
ステキな接客をされると、
直接声をかけてしまうことがあります。
――
スカウトもされるんですか?
なかしま
実際にお声をかけて、
転職される際、うちに来てもらった方もいます。
そのぐらい接客ができる人って、
お店にとっては貴重な存在なんです。
接客ってセンスですからね。
だれでもできる仕事じゃないので。
――
接客ひとつで
お店の印象も変わったりしますよね。
なかしま
そうそう、すごく大事ですよね。
でも、接客スタッフって、
「接客よりお菓子をつくるほうが大変」
ってきもちをもちやすいようで。
相手に敬意をもつのはいいけど、
自己肯定感が低いのは違うと思うので、
きちんと声にして伝えるようにしています。
「接客の人たちがいないと、
つくったお菓子も売れない」ということは、
よくみんなにも話してますね。
――
全体のミーティングみたいな場は、
定期的にもたれるんですか?
なかしま
全員でのミーティングは定期的にあります。
あとは、クリスマスとか忘年会とか、
だれかが入れば歓迎会とか、
そういうのが時々ある感じですね。
――
みんながいるところでは、
例えば、どんな話をされてるんでしょうか?
なかしま
お店って、お客様を呼びに行けなくて、
待ってなきゃいけない。
だけどスタッフたちとは
「ただ待ってるだけではダメだよね」
という話をよくしています。

やっぱりお店って、
お客様が行きたいと思うような何かを、
常に考えていないといけないと思うんです。
でも、だからといって
「じゃあ、イベントをいっぱいやろう」
ということでもないんです。
むしろイベントを仕掛けていくやり方が、
私はどうも苦手なんですよね。
イベントをたくさんやってる店より、
いつ行ってもいつも同じものが買えて、
それがいつもおいしいほうがいいなあって
思っちゃうので。
――
まさにフードムードって、
そういうお店ですよね。
いつ行ってもおいしいし、ずっとおいしいし。
フードムード店内の様子画像
なかしま
もちろん新しいメニューを
どんどん出すやり方もあると思うんです。
でも、私は前に買ったお菓子が、
次買っても同じようにおいしいほうが
大事だと思っています。

なかなか伝わりにくいんですが、
いまあるものを同じようにおいしくつくるって、
ほんとうはものすごく大変なことなんです。
必ず何か工夫をしていかないと、
ずっとおいしくありつづけるのは無理です。
いつもと同じようにつくるだけでは、
絶対に同じにはならないんです。