01真正面でしかありえない。
- ──
- 監督のドキュメンタリーを拝見していると、
「相手の真正面にカメラ」の構図で、
インタビューを撮っている印象があります。
- 原
- わたしは、インタビューということは、
本質的に、こう、
「サシの勝負」って感覚があるんです。
だいたい、大事なことを話すときには、
こうやって向き合うでしょう。
向き合って、こう、目と目で見合って、
で、距離にしたって、
3メートルも4メートルも離れること、
ないじゃないですか。
- ──
- はい。
- 原
- 誰か人と話すときってのは、
1.5メートルくらいの間(ま)で話すんです。
だから、インタビューを撮るときにも、
その人から、1.5メートルくらいのところに、
カメラを置くんです。
- ──
- それも、その人の「真正面」に。
よく、インタビューイの「斜め前方」から
撮影していることは多いと思うんです。
でも、原監督ほど「真正面」からは‥‥。
- 原
- 真正面でしかありえない。
- ──
- どうしてですか?
- 原
- カメラは、わたしの目線とイコールだから。
実際には、相手は、カメラではなくて、
わたしの目を見て話しています。
となればね、カメラも真正面に置くんです。
サシの勝負ってことは、
相手はわたしの目をじっと見ながら、
わたしは相手の目をじっと見ながら、
インタビューしたりされたりしてる、
そういうことだから。
- ──
- なるほど。
- 原
- テレビのドキュメンタリーだとか、
映像の学生の作品なんかに多いんですけど、
相手が車を運転しているとき、
カメラマンなりディレクターなりが
助手席に座って‥‥相手の横顔に向かって、
インタビューしてたりするけど。
- ──
- そういうシーン、けっこう見ますね。
- 原
- わたし、あれが大嫌いで。
- ──
- サシの勝負って感じがしないから、ですか。
- 原
- ぜんぜんサシじゃないし、
そもそも、そんな運転「危ない」じゃない。
- ──
- ああ、それは、たしかに。
- 原
- 運転のときは運転に集中しなけりゃ
危ないですし、
そうやって運転中に何か質問されて、
聞かれたほうは答えてるけど、
そんな状態で、
本気で考えて、
本気で答えることができるんだろうかって、
不信感があるんです、わたしには。
- ──
- 向き合ってるのは「ハンドル」ですものね。
- 原
- そんな言葉で、あなた、満足できますか?
インタビューっていうのは、
つまり、こうやって差し向ってるときに
交わす言葉というのは、
そんな状況じゃあ、奪い合えないですよ。
- ──
- 奪い合えない。
- 原
- ええ、わたしには、そういう感覚がある。
聞くほうだって答えるほうだって、
それまでに積み上げてきた人生の重みを
ぜんぶ込めて言葉に託して、
必死で相手に届け合ったり、
ときには奪い合ったりするということが
インタビューなんですから。
- ──
- それじゃ、1対1で向き合う他ないですね。
- 原
- そうです。
- ──
- 以前、原監督のトークショーに行ったとき、
「昔はフィルムで撮ってたけど、
いまは、デジタルのカメラで撮ってる。
だから自分のインタビューも、
昔のほうが切れ味があったはずだ」って
おっしゃっていたのが印象的で。
- 原
- それはそうです、残念ながらね。
フィルムの場合は、
もう、1秒毎に金がかかってるわけだから、
そりゃ、研ぎ澄まされますよ。
- ──
- その言葉を聞いて、
「あ、原監督にお話を聞いてみたいな」
と思ったんです。
- 原
- 昔、わたしね、NHKのBSで、
『世界・わが心の旅』という番組があって、
わたしが行きたいと言って、
ガンジスの源流に行かしてもらったんです。
そのとき、だんだん源流に近づいていく、
その手前でね、
ものすごい風景を目の前に動けなかった、
そんな状態のわたしに、
後ろからくっついてきたディレクターが、
「今、どういうお気持ちですか?」って。
- ──
- ええ。
- 原
- もう、わたしね、アッタマ来ちゃってね。
カーッとなって「このやろう!」と‥‥
まあ、言ってはいないけど、腹が立って。
- ──
- どうしてですか。
- 原
- 森林限界を超えて、あたり一面、
樹木なんかもまったく生えてなくってね、
とにかくね、
凄まじい光景なんです、目の前が。
そこにね、石ころが積み上げられていた。
それは明らかに「死のイメージ」だった。
- ──
- 賽の河原みたいな?
- 原
- そう、でね、まったく同じ場所に、
女性の性器をかたどった石の真ん中にですよ、
男根を思わせる石が、屹立してんです。
それは、ようするに生殖、生のイメージです。
つまり、この世のものとは思えない場所に、
死と生が同時に存在している、
その光景に、もう心から感動していたんです。
- ──
- はい。
- 原
- これがインドだ、なんたることだと、
もう一歩も動くことのできなかったわたしに、
「今、どういうお気持ちですか?」
ってそんなこと聞いてくるバカがいるかよと。
- ──
- 思わず「監督」の部分が出てしまって(笑)。
- 原
- ドキュメンタリーうんぬんの前に、
人の感情に対して失礼じゃないかと思ってね、
頭に来ちゃったんだけど、
まあ、わたしも、今回は撮られる側だし、
ぐっと怒りを抑えて、
「こういうときは、話しかけないもんですよ」
とか何とか、収めちゃったんだけどね。
- ──
- 感動している姿を、そのまま撮るべきだと。
- 原
- そうですよ。だってそうでしょう。
それ以外に何か撮るものあります?
あの感動を中断するなんてもっての他ですよ。
- ──
- 映像作品では「聞かないこと」が、
より雄弁に語るって場合が、あるんですね。
- 原
- 人に話を聞くというのは、わたしにとって、
その人の人生のいちばん濃いエキスを、
カメラの前で、見せてもらうことなんです。
だからね、話を聞く側のわたしたちが、
生半可な心構えじゃあ、
つまんない言葉しか、出てきやしませんよ。
- ──
- 横顔にインタビューしたりだとか。
- 原
- そんなのじゃあ、話にならないです。
全身全霊エネルギーを込めてね、
真正面から目の前の相手と向き合わなきゃ、
獲れないんですよ、言葉なんて。
<つづきます>
2018-04-27-FRI