06おもしろいインタビューとは。
- 松家
- 奥野さんは得意ですか、人と話すの?
ぼくは人見知りだから、本当は苦手なんだけど。
- ──
- 口数の多いほうではないと思います。
どっちかっていうと、ふだんは。
- 松家
- じゃ、なんでインタビューする人に
なったんですか?
- ──
- なろうと思ってなったわけじゃなく、
きっかけはなりゆきなんですけど、
仕事としてやりはじめたら、
こんなにおもしろいものはないなと。
- 松家
- ぼくも小説を書くようになってから
新聞記者の人やライターの方に、
インタビューを受けるようになって。
- ──
- そうですよね、ええ。
- 松家
- そのときに、大雑把に言うと、
百戦錬磨のインタビューアより、
はじめのうちは
「この人、大丈夫かな?」くらいの、
どっちかっていうと、
おとなしい雰囲気の人のほうが、
記事がおもしろかったりするんです。
- ──
- えー、なんででしょう、それ。
- 松家
- いや‥‥わからないんですけどね、
ひとつには、たぶん、
臆するところなく
次々と質問を繰り出してくる人って、
何といえばいいのかな、
すでに記事が設計できてるのかも。
事前に、こういう記事にしようって、
ほとんど決まってるような感じで、
インタビューは、その確認作業‥‥?
そんな気がすることもありますね。
- ──
- なんとなく、わかります。
- 松家
- 反対にね、トツトツと
言葉を探すように、
迷いながら質問してくる人のほうが
鋭かったりする。
ふだんはおとなしい性格だろうに、
取材の場面では、
粘ってじわじわ聞いてくる人とか。
- ──
- ええ。
- 松家
- ぼくが脇道に逸れるようなことを言っても、
無関心のまま本筋に戻してしまう人と、
ぼくの脇道に入ってみようか、
という人がいて。
取材のテーマから逸れちゃうけれど、
もう少し聞いてみようかって
さぐるように質問してくる人のほうが、
こちらの構えも緩んできて、
話題が広がったり、深まったりする。
そんなこともありますね。
- ──
- 自分も、いつも心がけているのは、
目の前のこの人の話を、
自分の狭い枠に収めてしまうのは、
つまらないということです。
- 松家
- ああ、そうですよね。本当に。
- ──
- すべてが想定範囲内、
聞きたいことをぜんぶ聞けたぞーって、
そんな取材があったら、
ちょっと疑ってみたほうがいいと思う。
思いもよらなかったって驚きがないと、
インタビューって、やっぱり、
おもしろくならないような気がします。
- 松家
- インタビューアの驚きが、
読者の驚きにもつながるわけですから。
- ──
- ええ。
- 松家
- 伊丹さんも、すごく人見知りする人で。
- ──
- えっ、そうなんですか。意外。
- 松家
- はじめてお会いしたとき、
飯倉に「狸穴(まみあな)そば」って
そば屋があって、
もうなくなっちゃったんだけど、
そこで、一緒におそばを食べたんです。
- ──
- おふたりで?
- 松家
- そう。座敷に上がると、
ぼくと伊丹さんしかいなくて、
そのときが初対面で、
あまり視線も合わせてくれず、
伊丹さん、何だかずっと、
お店の台ふきんで
何にも載っていないテーブルを
スースーと拭いたりして(笑)。
- ──
- やっぱり、緊張されてたんですかね。
- 松家
- おそばが来るまで、落ち着かない。
でも、好きな思い出なんです。
伊丹さん、テレビなんかで見てると、
平気な顔をして、ニコニコと
そこらへんの人に声をかけてるけど、
ふだんはそうでもないんだ、って。
- ──
- でも、そんな伊丹さんも、
取材のときは、積極的なんですよね。
- 松家
- そうなんです。だからそれが、
おもしろいなあと思うんです。
たぶん、どこかで切り替えて、
がんばってるんです。
ふだんは、人見知りの人が。
- ──
- 何だか勇気が出ます(笑)。
- 松家
- おもしろい記事を書く人って、
日常的なベースは、
きっと受け身にも見える態度なんですよ。
その究極の姿が、河合隼雄さんで。
なにしろ、
ほとんど質問しないんだから(笑)。
- ──
- 自分は、インタビューの際
「どんな話になっても、かまわない」
という気持ちで臨んでいます。
松家さんも『考える人』時代は、
そんな気持ちだったんじゃないかと、
松家さんの仕事を読んで、
勝手にそう思っているんですが。
- 松家
- そうですね。
それが『考える人』という媒体では
ゆるされましたし、
そのことは、村上さんなら村上さん、
どの引き出しを開けても、
絶対おもしろい話が出てくる人がいたから、
実現できたわけですけれど。
- ──
- そういう人に、話を聞きに行ってた。
- 松家
- そうそう、養老さんのときなんかは
とりわけそうで、
質問項目なんて、
たぶん用意していなかったと思う。
養老さんなら、どこを押しても
何かが出てくる気がするから。
- ──
- その日、そのときに聞いたお話を
大切に持ち帰って、
あとから並べて構成を考えて、
そこから、切り口や
内容やタイトルを決めていくって、
インタビューとして理想です。
- 松家
- 話し言葉って、
そのまま書き言葉にできませんよね。
- ──
- ええ。
- 松家
- 話し言葉は不要な繰り返しが多いし、
突然ピョンって文脈も飛んじゃうし。
つまり、インタビュー原稿って、
基本的には、
話し言葉ではなく書き言葉だと思ってるんです。
- ──
- 会話体でも。
- 松家
- 会話体でも。話し言葉なんだけど、
それをまとめるときは、
書き言葉の頭でまとめるというか。
- ──
- わかります。
会話体だからこそ、
ときに、論理的であることが重要ですよね。
- 松家
- そういうつもりでやっていたので、
養老さんのインタビュー音声と、
ぼくがまとめた
養老さんのインタビュー記事は、
大事なところは同じだけど、
文章の流れかたとしては、
けっこう違うものになってるはず。
- ──
- 「音声」が「文字」に置き換わるだけで、
印象が変わったりしますし。
文字起こしのテキストを読んで
「え、こんなに
重要なことを言ってたんだ!
なんで、
もっと聞かなかったんだ‥‥」
と思うのはしょっちゅうです。
- 松家
- ありますね。
- ──
- 文字起こしを読んだら、
テーマが変わったりとかもします。
- 松家
- します、します。
- ──
- すべてまとめ終えて、
あ、こういう話になったのかあと、
思うことさえあって‥‥。
- 松家
- あります、あります。
ありますし、
そっちのほうが断然おもしろい。
やっぱり、
こういうインタビューにしたいという
事前の計画や準備がありすぎると、
耳にする言葉と言葉のあいだに
埋もれてしまいそうな、
「もっと大事なこと」があらわれても、
気づけないまま通りすぎたりして。
- ──
- その「もっと大事なこと」って、
ひょっとしたら、口にした本人さえ、
気づいていないというケースも‥‥。
- 松家
- あります。あると思います。
でも、インタビューはそうでなきゃ‥‥
というか、
そういうことが起こるからこそ、
インタビューって、
おもしろいんじゃないでしょうか。
<終わります>
2019-02-26-TUE
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