ほぼ日刊イトイ新聞

インタビューとは何か。松家仁之さん篇

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

松家仁之さんプロフィール

松家仁之(まついえまさし)

小説家・編集者。1958年、東京生まれ。
編集者を経て、2012年、
長篇小説『火山のふもとで』を発表(読売文学賞受賞)。
『沈むフランシス』(2013年)、
『優雅なのかどうか、わからない』(2014年)、
『光の犬』(2017年、芸術選奨文部科学大臣賞、
河合隼雄物語賞受賞)のほか、
編著・共著に『新しい須賀敦子』『須賀敦子の手紙』
『ぼくの伯父さん』『伊丹十三選集』(全三巻)、
新潮クレスト・ブックス・アンソロジー
『美しい子ども』などがある。

06
おもしろいインタビューとは。

松家
奥野さんは得意ですか、人と話すの?

ぼくは人見知りだから、本当は苦手なんだけど。
──
口数の多いほうではないと思います。
どっちかっていうと、ふだんは。
松家
じゃ、なんでインタビューする人に
なったんですか?
──
なろうと思ってなったわけじゃなく、
きっかけはなりゆきなんですけど、
仕事としてやりはじめたら、
こんなにおもしろいものはないなと。
松家
ぼくも小説を書くようになってから
新聞記者の人やライターの方に、
インタビューを受けるようになって。
──
そうですよね、ええ。
松家
そのときに、大雑把に言うと、
百戦錬磨のインタビューアより、
はじめのうちは
「この人、大丈夫かな?」くらいの、
どっちかっていうと、
おとなしい雰囲気の人のほうが、
記事がおもしろかったりするんです。
──
えー、なんででしょう、それ。
松家
いや‥‥わからないんですけどね、
ひとつには、たぶん、
臆するところなく
次々と質問を繰り出してくる人って、
何といえばいいのかな、
すでに記事が設計できてるのかも。

事前に、こういう記事にしようって、
ほとんど決まってるような感じで、
インタビューは、その確認作業‥‥?
そんな気がすることもありますね。
──
なんとなく、わかります。
松家
反対にね、トツトツと
言葉を探すように、
迷いながら質問してくる人のほうが
鋭かったりする。

ふだんはおとなしい性格だろうに、
取材の場面では、
粘ってじわじわ聞いてくる人とか。
──
ええ。
松家
ぼくが脇道に逸れるようなことを言っても、
無関心のまま本筋に戻してしまう人と、
ぼくの脇道に入ってみようか、
という人がいて。

取材のテーマから逸れちゃうけれど、
もう少し聞いてみようかって
さぐるように質問してくる人のほうが、
こちらの構えも緩んできて、
話題が広がったり、深まったりする。
そんなこともありますね。
──
自分も、いつも心がけているのは、
目の前のこの人の話を、
自分の狭い枠に収めてしまうのは、
つまらないということです。
松家
ああ、そうですよね。本当に。
──
すべてが想定範囲内、
聞きたいことをぜんぶ聞けたぞーって、
そんな取材があったら、
ちょっと疑ってみたほうがいいと思う。

思いもよらなかったって驚きがないと、
インタビューって、やっぱり、
おもしろくならないような気がします。
松家
インタビューアの驚きが、
読者の驚きにもつながるわけですから。
──
ええ。
松家
伊丹さんも、すごく人見知りする人で。
──
えっ、そうなんですか。意外。
松家
はじめてお会いしたとき、
飯倉に「狸穴(まみあな)そば」って
そば屋があって、
もうなくなっちゃったんだけど、
そこで、一緒におそばを食べたんです。
──
おふたりで?
松家
そう。座敷に上がると、
ぼくと伊丹さんしかいなくて、
そのときが初対面で、
あまり視線も合わせてくれず、
伊丹さん、何だかずっと、
お店の台ふきんで
何にも載っていないテーブルを
スースーと拭いたりして(笑)。
──
やっぱり、緊張されてたんですかね。
松家
おそばが来るまで、落ち着かない。

でも、好きな思い出なんです。
伊丹さん、テレビなんかで見てると、
平気な顔をして、ニコニコと
そこらへんの人に声をかけてるけど、
ふだんはそうでもないんだ、って。
──
でも、そんな伊丹さんも、
取材のときは、積極的なんですよね。
松家
そうなんです。だからそれが、
おもしろいなあと思うんです。

たぶん、どこかで切り替えて、
がんばってるんです。
ふだんは、人見知りの人が。
──
何だか勇気が出ます(笑)。
松家
おもしろい記事を書く人って、
日常的なベースは、
きっと受け身にも見える態度なんですよ。

その究極の姿が、河合隼雄さんで。
なにしろ、
ほとんど質問しないんだから(笑)。
──
自分は、インタビューの際
「どんな話になっても、かまわない」
という気持ちで臨んでいます。

松家さんも『考える人』時代は、
そんな気持ちだったんじゃないかと、
松家さんの仕事を読んで、
勝手にそう思っているんですが。
松家
そうですね。

それが『考える人』という媒体では
ゆるされましたし、
そのことは、村上さんなら村上さん、
どの引き出しを開けても、
絶対おもしろい話が出てくる人がいたから、
実現できたわけですけれど。
──
そういう人に、話を聞きに行ってた。
松家
そうそう、養老さんのときなんかは
とりわけそうで、
質問項目なんて、
たぶん用意していなかったと思う。

養老さんなら、どこを押しても
何かが出てくる気がするから。
──
その日、そのときに聞いたお話を
大切に持ち帰って、
あとから並べて構成を考えて、
そこから、切り口や
内容やタイトルを決めていくって、
インタビューとして理想です。
松家
話し言葉って、
そのまま書き言葉にできませんよね。
──
ええ。
松家
話し言葉は不要な繰り返しが多いし、
突然ピョンって文脈も飛んじゃうし。

つまり、インタビュー原稿って、
基本的には、
話し言葉ではなく書き言葉だと思ってるんです。
──
会話体でも。
松家
会話体でも。話し言葉なんだけど、
それをまとめるときは、
書き言葉の頭でまとめるというか。
──
わかります。

会話体だからこそ、
ときに、論理的であることが重要ですよね。
松家
そういうつもりでやっていたので、
養老さんのインタビュー音声と、
ぼくがまとめた
養老さんのインタビュー記事は、
大事なところは同じだけど、
文章の流れかたとしては、
けっこう違うものになってるはず。
──
「音声」が「文字」に置き換わるだけで、
印象が変わったりしますし。

文字起こしのテキストを読んで
「え、こんなに
 重要なことを言ってたんだ!
 なんで、
 もっと聞かなかったんだ‥‥」
と思うのはしょっちゅうです。
松家
ありますね。
──
文字起こしを読んだら、
テーマが変わったりとかもします。
松家
します、します。
──
すべてまとめ終えて、
あ、こういう話になったのかあと、
思うことさえあって‥‥。
松家
あります、あります。
ありますし、
そっちのほうが断然おもしろい。

やっぱり、
こういうインタビューにしたいという
事前の計画や準備がありすぎると、
耳にする言葉と言葉のあいだに
埋もれてしまいそうな、
「もっと大事なこと」があらわれても、
気づけないまま通りすぎたりして。
──
その「もっと大事なこと」って、
ひょっとしたら、口にした本人さえ、
気づいていないというケースも‥‥。
松家
あります。あると思います。

でも、インタビューはそうでなきゃ‥‥
というか、
そういうことが起こるからこそ、
インタビューって、
おもしろいんじゃないでしょうか。

<終わります>

2019-02-26-TUE

『伊丹十三選集』刊行記念
「伊丹十三と猫」
をTOBICHIで開催します!

松家仁之さんが第1巻を編集なさった
岩波書店『伊丹十三選集』が、
第3巻の刊行をもって、完結しました。
(第2巻は建築家の中村好文さん、
第3巻は伊丹十三さんのご次男、
伊丹万平さんによる編です)

Amazonでのおもとめは、こちら

これを記念して、
TOBICHIの「すてきな四畳間」にて、
「伊丹十三と猫」を開催します。
期日は、2月22日の金曜日、
「ニャーニャーニャーの日」から。
伊丹さんと猫にまつわる展示をしつつ、
『伊丹十三選集』はもちろん、
伊丹十三記念館オリジナルグッズや、
今回だけの記念グッズなど、
お買いものも楽しんでいただけます。
くわしくは、
催しの特設サイトでご確認ください。