ロールプレイングゲームでは基本的に
持ち物がいっぱいになったら何かを捨てないと、
新しいものは入手できない。
『MOTHER2』においてもそれは例外ではない。
この『MOTHER2』の世界の地面に、
最もたくさん投げ捨ててきたものは何かと問われたら、
間違いなく「クッキー」であろう。
主人公が敵地に捉えられて身動きが取れない間、
のちに仲間になるメガネの少年・ジェフを
プレイヤーは操作することになる。
舞台は「ウィンターズ」の街。
寄宿舎暮らしのジェフが、
夜中に寄宿舎を抜け出すところから始まる。
冒険へと出発する前に友達の部屋に立ち寄ると、
なんとそこには大量の
プレゼントボックスが置かれている。合計7個。
「みんなにくばるクッキーを
ひとつずつ、こころをこめて
つつんでたんだ」
と友達は言う。
明日は寄宿舎仲間のトニーの誕生日だからである。
けれど、私たちは幼い時分から、
たとえ相手が誰だろうと、どこの家だろうと、
そこに宝箱があれば中身を取り、
タンスがあれば勝手に開き、
ちいさなメダルを失敬してきた。
したがってこのゲームでは、
そこにプレゼントボックスがあれば、
失敬するということになる。
無心になってジェフは、
いや、ジェフを操作している私は、
プレゼントボックスを次々と開けて
「クッキー」を取り尽くした。
そして、心を込めてクッキーを包んでいた彼に
もう一度話しかけると、
「今日のジェフはずいぶんひどいことをするんだな」
と言われてしまった。
寄宿舎で暮らしていたそれまでのジェフは、
当然こんなことはしないはずだった。
今、プレイヤーである私が、
ジェフを操作することになったおかげで、
こんな事態になってしまったわけだ。
ほかに回復手段を持たないゆえ、
ここで「クッキー」を拝借するよりほかないとはいえ、
悪いことをしたと思う。
よりにもよって、友達のお誕生日のために
心を込めて包んでいた最中という設定も、にくい。
これだけ「クッキー」を取った直後、
必要なアイテムをカバンに詰め込んでいるうちに
あっという間にカバンがいっぱいになり、
「クッキー」をいくつか捨てることになるのも、にくい。
寄宿舎の外に出てまず遭遇するのは、
「オネット」で散々戦ったのと同じ、
「にくいカラス」だ。
(続きます。次は「2ドルの「しお」と、良心」)