私は「フォーサイド」から
「サマーズ」、「ランマ」、「スカラビ」の、
いわゆるゲーム中盤で手に入る食べ物がとにかく好きだ。
「フォーサイド」という都会から、
ヘリコプターに乗ってリゾート地の「サマーズ」へ。
そこで不思議な体験をすることで遠く離れた異国の
「ランマ」にも足を運び、「サマーズ」に戻ってきたら
船に乗って砂漠の「スカラビ」へ。
田舎町から都会に出てきて、
初めての旅行をするような流れに、
ワクワクは最高潮に達する。
それに呼応するかのように、
それぞれの街がじぶんたちの自慢の味を
披露してくるのである。
まずは、「フォーサイド」の街で
ひとつだけ手に入る「いちごとうふ」。
アボガド、ではなく、アボカド。
ふいんき、ではなく、ふんいき。
「いちごどうふ」ではなく、「いちごとうふ」だ。
ところで私は、
「せかいじゅのは」を使えないタイプの人間だし、
「ラストエリクサー」はため込む。
『MOTHER2』では「いのちのうどん」を
ひとつも使わずに終えたことなどざらだし、
そんな私に「いちごとうふ」がどうして食べられよう!
食べるとHPを30回復するだけの
なんてことはない食べ物なのだが、
たとえ持ち物がいっぱいになっても、
「いちごとうふ」だけは生涯守り抜く所存である。
「サマーズ」へ着くと、
フードコレクター心をくすぐる充実のラインナップに、
コントローラーを握る手が思わず汗ばむ。
浜辺には「ひしょちのジェラート」を売るワゴンが、
レストランでは、「シェフのおすすめ」、
「サマーズふうパスタ」、「クラーケンのスープ」、
「ロイヤルアイスティー」が買える。
これだけバラエティ豊かでありながら、
じつはこのあたりまでゲームを進めると、
回復を食べ物に頼ることはほとんどなくなってくる。
別のゲームで言うところのMPにあたる
サイコポイント(PP)の数値もすっかり高くなり、
回復をしたいときはほとんどの場合、
その超能力のような魔法のような力を使う。
それでいて、
道端に落ちているプレゼントボックス(宝箱)
の中からそれなりに回復アイテムを拾えるため、
「サマーズ」以降は
意識をして食べ物を買おうとしないと、
売ってることすら気づかずに通り過ぎるプレイヤーも
多いかもしれない。
極め付きが、この直後に仲間になる
「ランマ」の国の王子・プーの存在だ。
修行中の身であるプーは、
俗世の食べ物をほとんど受け付けない。
この「サマーズふうパスタ」おいしいよ、
といくら言おうが、
本来HPを108回復するはずが、
HPが6しか回復しないのだ。
プーの口には合うのは、
「ランマ」で売っている「さとりのべんとう」のみ。
「やぎバターがゆ」すら食べられないと知ったときは、
控えめに言ってショックであった。
「ランマ」だけで買える名産品なのに。
こんなにおいしそうなのに。
やぎで、バターで、粥。
どう考えてもおいしくなる要素しか入っていない。
このように、PPだけで事足りるようになることに加え、
回復アイテムとしての食べ物の使い勝手が
一気に悪くなるのだ。
なのに、次の「スカラビ」へ進むと、
まあお国柄を表した魅力的なお食事に
舌鼓を打つことになる。
「まめのコロッケ」、「モロヘイヤスープ」、
「コンガリくしやき」。
街の外にいる行商は、「ほしにく」を売ってくれる。
いい。じつに、いい。
『ひみつのたからばこ』(アスペクト)という
『MOTHER2』の攻略本がある。
いくつかある『MOTHER2』の攻略本の中でも
プレミアがついているこの本は、
インターネットの中古書店で8000円前後。
ゲームの攻略法を紹介しているというよりも、
主人公が『MOTHER2』の世界で体験したことを
日記風に書いている、冒険記のような作りになっている。
この本の帯で、糸井重里さんは、
こんなコメントを寄せている。
「ゲームは苦しいものじゃなく、
楽しいものなんだということが
この本のスタッフは本当によくわかっている。
楽しい!!」
ただ“ゲーム”をしているだけでは、
必要ないし、気づかれないかもしれない。
それでも、
リゾート地では「ひしょちのジェラート」を売り、
砂漠の国では「コンガリくしやき」を売る。
おかげで私は、この旅行を楽しめた。
買った食べ物はどれもお土産にして、
自宅の倉庫へ送っておいた。
(続きます。次は「ポーキーとプリン」)