「マジックプリン」だけは、
私が楽しく味の想像をすることができない
唯一の食べ物だ。
冒険の終盤、最後の戦いの手前で
行くことになる大事な世界「マジカント」で、
「マジックプリン」は手に入る。
それまで4人だったところを、
この世界ではいきなりひとりで冒険することになるため、
PPを40も回復してくれる「マジックプリン」は
何度も口にすることになる。
本来私はプリンが大好きなのに、
「マジックプリン」の味を想像する余裕がないのは、
きっとあいつのせい。
「ネス、お前はいいよな…。
なんかお前のことがうらやましいよ。
……。
おれなんかダメさ。
だけど、ネス…ま、いいよ。
いつまでも仲良くやっていこうぜ、な」
と言ってくる、隣の家のあいつのせい。
『MOTHER2』では、隣の家のポーキーは、
ただひたすら嫌な奴だった。
主人公ネスの行く先々を邪魔し、
憎まれ口をたたき、
世界を滅ぼそうとまでしてしまう。
ポーキーの違った一面が見えるのは、
この「マジカント」だけだ。
ただ、それは、ポーキーの本心かどうかはわからない。
「マジカント」は主人公の心の中の世界が
具現化されたもの。
「いつまでも仲良くやっていこうぜ、な」は、
ポーキーの本心を主人公が潜在的に
感じ取ったものなのかもしれないし、
単に主人公がポーキーに対して
“こうあってほしい”と
希望していることなのかもしれない。
『MOTHER2』の中でその明確な答えは
用意されていなかった。
ところがその答えは、12年後に発売された
『MOTHER3』の中ではっきりと示される。
もう、打ちのめされるとしか言いようがない体験である。
一言もストーリーの中に
『MOTHER2』の話は出てこないのに、
『MOTHER3』の中で
『MOTHER2』の主人公たちは存在している。
ポーキーを通して、何度も登場するのだ。
『MOTHER3』の中では、
ポーキーははっきりと悪者として描かれている。
『MOTHER3』の世界をめちゃくちゃにした
元凶がポーキーである。
そのポーキーは、
ネスが武器として使っていたヨーヨーと同じものを、
大事な宝物「ともだちのヨーヨー」として
ケースに飾っている。
ポーキーの作った映画館では、
ネスの冒険が上映されている。
ポーキーの思い出の品が展示されている部屋では、
『MOTHER2』に出てきた電話やヘリコプター、
タコやこけしの像がずらりと並んでいる。
ここで初めてはっきりと、
ポーキーは『MOTHER2』で
世界を滅ぼしたかったわけでは
決してなかったとわかる。
どうして今になってそんなことを言うんだ!
どうして12年前に言ってくれなかったんだ!
ポーキーに対して、どのような感情を持てばいいんだ!
結局、「マジカント」でのポーキーの姿は、
ポーキーの本心だったわけである。
主人公ネスは、
自分の心の中の世界と向き合って、
ポーキーに対して何を思ったのだろう。
それを思うと、
どうしたってゲームを
“ゲーム”としてプレイするよりほかなくなる。
そのため、私は「マジカント」では、
「マジックプリン」をプリンではなく、
PPを40回復するアイテムとして捉えている。
だから、いつまでたっても
「マジックプリン」の味が、わからない。
(続きます。次は、エピローグ)