10代の時間を共有し、
ふるさと熊本から離れて暮らす同級生のダイアローグ。
1人目の相手は、志水正敏くん。
高校を卒業し、熊本を出て12年。
東京で働いている志水さんは、
地震が起こった次の週末に熊本へ帰りました。
- むらかみ
- 早いタイミングで熊本に帰ったと思うけど、
やっぱり早く自分の目で見たいという気持ちから? - 志水
- いろんな条件が重なって帰ろうと決めたけど、
正直に言うと帰るべきか、迷う気持ちも大きかった。
両親も家もひとまず問題ないことはわかっていたし、
帰って何ができるわけでもないと思う気持ちもあって。

最初にお話を聞いた志水くん
- むらかみ
- Facebookの投稿を見て迷っているのかな、と思ってた。
- 志水
- 災害が起こった直後は、現場の人が対処すべきだ、
というのが自分の考えなんだよね。
それに幸い、早いうちに親や実家は大丈夫そうだと
わかったから、飛んで帰る状況ではなかったんだ。
家が傾いて住めないとか、被害が大きかった友達の方が
心配な気持ちは大きかったね。 - むらかみ
- 避難所に行かなかったからかもしれないけど、
実家の周りは近所の人たちで助け合っていたかな。 - 志水
- 熊本に帰る前にボランティア協会に行ったんだけど、
そこでもすぐ現地に行くのは避けたほうがいい、
という話を聞いたんだ。
余震に巻き込まれて自分が被災者になるリスクや、
現地の人に負担をかける恐れも改めて知ったし。
その上で、熊本の状況とか、自分の仕事とかを検討して
一週間後に帰ることにしたんだけど。
やっぱり住む場所や車もあって、土地勘もある地元の人が
まず動くべき、というのが鉄則だと思ってる。 - むらかみ
- 私も持てる分だけごはんとかパンとか買って帰ったよ。
本震の前で、お店も営業しているって聞いたから
いらないかなーとか思っていたけど、
結果的にそれで助かったから、備えは大事。 - 志水
- まずは地元の人が助け合うという前提。
他所からまず来て欲しい、必要な人はプロ。
食べ物や水がないから物資を送らなきゃ、
って大騒ぎだったけど、コンビニやスーパーもかなり早く
回復していったよね。
それは流通のプロが適切に動いたから。
物資を送るのは善意だけど、そのせいで渋滞が起こる、
数日後には物がタブついてしまう、そういう問題は
きちんと考えないといけないと思ってる。
全体を回復するにはプロの手が不可欠だという考え。

再開直後の熊本空港は一部営業
- むらかみ
- 実際に熊本に帰ってからもその考えは変わらなかった?
- 志水
- プロじゃないなら、衝動に任せて動くべきではない、
という考えは変わらないかな。
とは言え、自分もいざ帰るとなったら、結構身構えいて。
自分が必要な分の物資は持って行ったし、
まだ食べ物も不便があれば、親も栄養が偏ってるかなと
思って、サプリメント買ったりとか。 - むらかみ
- 私も持てる分だけごはんとかパンとか買って帰ったよ。
本震の前で、お店も営業しているって聞いたから
いらないかなーとか思っていたけど、
結果的にそれで助かったから、備えは大事。 - 志水
- 自分自身にも歯がゆさはあるんだよね。
すぐ現地に入っても、助けになれるプロじゃないという。
医者とか薬剤師とか、出来ることが明確でいいなと思う。
もちろん、親の顔を見て安心とか、親も帰って喜んで
くれたというのはあるけど。
片付けを手伝ったり力仕事はできたし。 - むらかみ
- 現地に飛んで行かないにしても、
心配な気持ちとどう付き合えばいいと思う?
子供がいたり仕事があって、帰りたくても帰れなくて
苦しい思いをしている子がいたんだけど。 - 志水
- 直後は不安だったけど、うちは幸い連絡がすぐに
ついたし、大きな問題もなかったから。
むしろ親は、
「こっちのことはいいから自分の心配ばせえ」
って感じだったしね。
自分ができることって特にないなって気持ちもあって。
たとえば怪我して不自由だとか、入院したとか、
具体的な問題があれば別だっただろうけど。 - むらかみ
- 確かに、私も何をやったでもなくて。
むしろ、物資を持って熊本に来た方が役に立てた、
帰らなければよかった、と思ったくらい。 - 志水
- それにちょうどあの頃仕事がピークで、
仕事を離れるっていう選択肢はなかったんだよね。
家に住めなくなった友達がいたから、家探しの手伝いとか
してあげたらいいかな、とか思っていたけど。
こんな冷静に語ってるけど、実際は慌ててたけどね。
高校の野球部のLINEに情報を流しちゃったりとか。
すぐに駆け付けないのもそうだけど、
支援する側も、不安だったり、何かしたいという気持ちを
うまくコントロールすることが重要かもね。 - むらかみ
- 気持ちが空回りして迷惑を掛ける可能性もあるしね。
私は熊本にいて、何かやったほうがいいんだろうなー、
って思いながら何もできなかった。
地元の小学校が避難所になっててね。
ふらっと見に行ったら、小学生が大きなポリタンクに
入った水を配っていたの。
家庭科室からもってきたみたいなお玉とか計量カップとか
使って、容器を持って行ったら水を入れてくれるの。
それを見てたら、なんだか疲れた顔している自分が
情けないなあって思ったんだけど、
ちょっともう遠かったね、距離が。
自分はこのコミュニティにはいられないって。
そう思う自分も、ダメだなあって思っちゃったよね。
地元の人がやるべきこと、できてなかったよ。

- 志水
- そうか。俺もボランティアセンターに行ったときは、
地元の中高生がたくさんいて、
人手は足りているなと感じたな。 - むらかみ
- 必要なボランティアの数や適性も変わるから、
状況も変わっているみたいだよね。
必要な支援の種類が変わっていくんだろうね。 - 志水
- そうだね。
- むらかみ
- あと、心の強さもね。負けてられないって頑張れる
人もいれば、気持ちが落ちちゃう人もいるわけじゃない。 - 志水
- 特に混乱が落ち着いてくると、差が見えちゃうからね。
誰をどうサポートするかってとても難しいと思うよ。 - むらかみ
- くよくよ考えてもしょうがない、行動だ!っていうのも、
ありかなとも思っちゃうよ。 - 志水
- そうだね。地震の直後にからっぽのトラック飛ばして
駆けつけるような行動力とか。
ボランティアの鉄則に戻ると混乱を起こすリスクは
否定出来ないけど、行動力がプラスに働くことも
あるんだろうなと思うね。 - むらかみ
- 結果論の部分もあるよね。
- 志水
- その人たちの正義感で救われる人がいるならね。
- むらかみ
- 悲しいから泣くとか、可哀想だから助ける、みたいな。
直情型というか。 - 志水
- そう。混乱している中で
「困っている人がいる!」
という感情に突き動かされちゃうと二次災害のリスクも
あるし、冷静になったほうがいいという立場だけど、
最近はああいうむちゃくちゃな状況の時は、
ストレートなエネルギーも必要なのかもな、とも思うな。 - むらかみ
- 私も、考えなしに熊本に帰っちゃったから
怒られたんだよね。 - 志水
- 二次災害のリスクとか、インフラにも
負荷をかけるわけだしね。

大型家具も転倒する揺れ
- むらかみ
- 余震はあるだろうなと想像していたけど、
正直言えば、東日本大震災の時に東京でも余震を経験
していたし、まああれぐらいなら大丈夫だろうと
高をくくってたの。
元々、地震への恐怖心が強くないほうだから。 - 志水
- 縁もゆかりもない人がボランティアに行くのと、
心配で帰るのは動機が違うとは思うけどね。
やっぱりリスクを犯さないという意味では、
被災地に人が集まるのは避けるべきだろうね。 - むらかみ
- 今回みたいに、時間差で大きな地震が起きるというのは
象徴的だよね。 - 志水
- 一概に時間や日数で区切るのも難しいけど、
数日~1週間は状況を見極めて、それから動くというのも
被災地のためにできることだと思うな。
(つづきます)