10代の時間を共有し、
ふるさと熊本から離れて暮らす同級生のダイアローグ。
2人目のお相手は、僧侶の本多清寛くん。
今は東京にいますが、将来は熊本に戻り、
実家のお寺を継ぐ予定です。
- むらかみ
- 1か月ぶりだね。お時間もらってありがとう。
- 本多
- 熊本であったことをまとめたいと思っていたから、
ちょうどいいタイミングだったよ。 - むらかみ
- 2か月経って、熊本のニュースも少なくなったね。
- 本多
- そうだね。でも、もう少ししたら夏休みだから、
ボランティアとかで話題になるかなと思っているけど。

法話中の本多くん
- むらかみ
- ご実家はもう落ち着いた?
- 本多
- 幸い、被害も大きくなかったからね。お寺の方は本堂が
壊れたり、ご位牌やお墓が倒れたりしたけど。 - むらかみ
- ゴールデンウィークが終わるまで、
3週間ぐらい熊本にいたんだよね。
それに空港が復旧してからすぐに熊本に戻ったでしょう?
ご家族の反対はなかった? - 本多
- 自身の時は子供が1歳半と2か月だったからね。
一応、奥さんから
「危ないよー」
とは言われたけど、
自分は決めたことは何言ってもやるってわかってるから。
地震と関係なく、自分の家庭は万一の備えもしているし、
今は奥さんの家族と同居しているから、その点も安心。 - むらかみ
- そうなんだ。
本ちゃんの前に、志水(※)に話を聞いたんだけど。
考え方が真逆で興味深かった。彼は、混乱している中で
熊本には帰るべきじゃないって意見だから。
(※:第1回・2回でお話を聞きました) - 本多
- そうだね。自分が帰る時にもそういう趣旨の
コメントをもらったから、
志水がどう感じているかはわかってたつもり。
「今帰ってもできること無いんじゃないの?」
という考えね。 - むらかみ
- うん。
たとえば医療や救助とか、
具体的に被災地で動けるプロじゃなければ、
現地入りは控えるべきという意見についてどう思う? - 本多
- 自分の場合は具体的にやれることがあるから帰ったかな。
お坊さん同士のネットワークがあって、
福岡の寺に物資を集めて、運んでとか。
熊本に着いたらどう配ってまわるかもわかっていたし。
あと、一番は東日本大震災についての経験かな。
それが活かせると思ったし、逆に東北に行ってなければ、
熊本帰るのはもっと迷ったかなあ。 - むらかみ
- そうなの?
- 本多
- 実家とか友達のことだけを考えれば、被害の状況として
帰らなくても大丈夫かなという判断をした気がする。 - むらかみ
- 東北ではどんなボランティアをしていたの?
- 本多
- 3月11日は永平寺での修行が終わって熊本にいたから、
被災直後を体験することはなかったんだよね。
その年の4月から東京に出て来て。
仮設住宅をまわって、傾聴っていう、被災者の方のお話を
聞いたりする活動とかを何度かやらせてもらったり。
今回、被災地に入ったタイミングは違うけど、
あの時の経験が背中を押したというか、
なかったら熊本には行けなかったと思う。 - むらかみ
- 東北で経験したことがあったから、熊本に戻って、
こういうことをやりたい、というのが明確だった?

お寺にも被害が。位牌を整理
- 本多
- うーん、やりたい、とは違うかな。
やれると思ったことをやる、というスタンスだね。
炊き出しとか、何かしらお手伝いとか。
私設避難所っていう、正式には避難所じゃないけど、
人が集まっている場所があるの。
実質的に避難所の役割を担っているんだけど、
公式に避難所として登録されてないから、自治体の
支援対象に入らずに物資が届かなかったりするの。
そういうところにバイクで回って、物資を届けるとか。
とはいえ、かなり余ったんだけどね。 - むらかみ
- 余ったの?地震から数日しか経ってないのに?
- 本多
- そう。 正確には物資が無くて困っている人はいるんだけど
そういう人は避難所に来れない事情があったりして。
物資が余っている、という状況と、
なくて困っている人がいるという状況が両立しちゃう。
避難所に来れる人の分は足りているから、
余って見えちゃうということなんだけどね。 - むらかみ
- 特定の避難所に物資が集中したってニュースもあったね。
- 本多
- その問題もあるね。
目に見える範囲に困っている人がいないと、
足りてるということになっちゃうんだよね。 - むらかみ
- 物資については足りる足りない以外にも議論があるよね。
地震が起きる前から、暮らしが大変な人もいるでしょう? - 本多
- いるね。うん。
- むらかみ
- 物資を貰いに行ったら、
「もうお店営業しているんだから、買えばいいのに」
って言われて傷ついたっていう話を聞いて、
違和感を感じたの。
震災がなかったとしても食べ物や日用品は必要でしょ。
それを支援して欲しいって過剰な気がして。 - 本多
- そうだね。家が崩れて財産を失ったような人と、
元からギリギリの生活をしている人へのサポートは
分けて考えるべきだね。
ただ個人的には、2、3週間ぐらいは、
「足りてるじゃん」
って言わなくてもいいんじゃないかな、と思ってる。 - むらかみ
- 欲しい人がいて、物資があればあげると。
- 本多
- そうだね。それがよかったか悪かったかは、
充分あげたあとの議論でいいかなと。
足りてるからいいでしょ、ではなくて、
欲しいと思っている人にはあげる。 - むらかみ
- なるほど。

配達する支援物資
- 本多
- 地域や人によっても事情はまったく違うから、
足りている人とそうでない人を外から判断できないという
難しさもあるしね。
益城は入った? - むらかみ
- 行ってない。かなりひどいんでしょう?
- 本多
- 被害はひどかったね。別世界。
- むらかみ
- うちは益城に墓があるけど、写真を見たら
積み木が崩れたみたいになってた。 - 本多
- 元からの経済状況とか、家族構成でも、
被災した時の大変さって違うと思うんだよ。
だからベストな支援も変わって当然で。
自分がボランティアをしたエリアは比較的、
落ち着いていたから、
一番難しいな、と感じたのは、
与え過ぎとか貰い過ぎとかではなく、
物資をあげたくてもあげられなかったことなんだよね。 - むらかみ
- 配る量がないからではなくて?
- 本多
- そう。たとえば1週間分の食料をあげようとすると、
「これで足りるからいいです」
って言われたりするの。
絶対に数日後には困ることがわかってるけど、
いいですって言われたらあげられない。
それは行政では顕著に出ていて、
「欲しいです」
って申し出がないとあげられないんだよね。
避難所に物資が余っているのに足りないという人がいる、
というのも根っこはそこだと思うんだよね。
届けることができないから、だぶつくという。
自分がやったみたいに、民間の組織が動く必要性は
そこにあるかなと思う。 - むらかみ
- でも、拒否されると困っちゃうよね。
- 本多
- 今々を考えれば確かに足りているんだよ、
今夜のごはんとか、明日のお水とか。
でもこちらは避難が長期化することを想定して、
一週間分貰っておいてよ、と思うんだよね。
だけど、押し付けることはできないし。
この人がすぐにまた困ることがわかっているのに
助けられない、みたいな歯がゆさはあったよね。 - むらかみ
- それは遠慮しているのかな?
- 本多
- 遠慮が大きいのかなあ。
「他の人にまわしてください」
というのはよく言われたかな。 - むらかみ
- なんだか、自己主張する人が得するというのも
もやもやするけど。 - 本多
- だから、欲しい人がいる限り与えるっていうのは、
一番平等かなと思うんだよね。
もちろんそのためにも、声をあげやすくしたり、
拾ってあげる仕組みや工夫が同時に必要だけどね。
(つづきます)