10代の時間を共有し、
ふるさと熊本から離れて暮らす同級生のダイアローグ。
最後のお相手は富永真純ちゃん。
18歳までの思い出が詰まった熊本を、
パティシエとして遠くから支援しています。
- むらかみ
- 久しぶり。卒業以来?10年ぶりくらいかな?
- 富永
- 本当にすごく久しぶり。
- むらかみ
- 今日は時間もらってありがとう。
最近は熊本に帰ってる? - 富永
- 家族も東京に出て来ているから、冠婚葬祭ぐらいしか
帰る機会がなくて。もうだいぶん帰ってないかな。 - むらかみ
- そうなんだ。じゃあご家族も大丈夫だったんだね。
- 富永
- まだ熊本市内に家があるけど、一応大丈夫だったみたい。
でも友達も親戚もいるから心配。
なにより思い出が全部あるでしょう。本当に悲しい。
- むらかみ
- まさか地元でこんなことが起こるとは思わなかったよね。
未だに現実感がない。
真純ちゃんが地震のあと、チャリティでチャリティで
手作りのくまモンのマドレーヌを売っているのを見て、
久しぶりに会いたかったし、話を聞きたいなと思って。
今も続けているんでしょう? - 富永
- そう、ほそぼそとだけど。
知り合いのレストランとか、お手伝いしている
箱根のカフェに置いてもらってるの。 - むらかみ
- パティシエだからできる支援だよね。
地震が起きてすぐにはじめたでしょう? - 富永
- そうだね。
何かできることはないかと考えていて、
自分ができることかなって。 - むらかみ
- くまモンのマドレーヌってピッタリだね。
- 富永
- くまモンの型が売っているのは知っていたから、
これだ!と思って。
それから、知り合いのお店とかに置かせてもらえないか
連絡を取り始めて。 - むらかみ
- 正直驚いた、すごく行動力があるなって。

お店の一角でくまモンマドレーヌを販売
- 富永
- やろうと思ったのは、東北の震災の時の後悔があったから。
あのときは、自分が本当に無力だなって思ったんだよね。 - むらかみ
- 無力感はみんな感じていたよね。
- 富永
- うん。でもそれだけじゃなくて、罪悪感もあって。
その頃はケーキ屋さんで働いていたんだけど、
3月11日も、12日も、いつも通りケーキを作っていたの。
職場には牛乳もバターも小麦粉も充分あって、
電気もガスも通ってて。東北はあんな状況なのに。
普段と同じ環境でお菓子を作りながら、
本当にお菓子って贅沢品だなと思ったんだよね。 - むらかみ
- 確かに、命を繋ぐという意味では優先度は下がるよね。
- 富永
- あの時の気持ちを思い出したんだよね。
地震の次の日に、
「水が足りないから送って欲しい」
って、熊本に住んでいる人から同僚に連絡があって。
みんなで慌てて水を集めて送って。
私の家族は東京にいるし、親戚も大丈夫だったんだけど、
やっぱりそんなにひどい状況なんだ、って驚いた。
でも、その日も私たちはいつも通り仕事をして、
お菓子を作るんだよね。
またあの時と同じことしてるなって思った。
こんなことしていていいのかなって。 - むらかみ
- 状況は違うけど、少しわかる。
私は金曜の夜に実家に帰って、月曜日の朝の便で
東京に戻る予定だったんだけど、空港が閉鎖になって
飛ばなかったんだよね。
いつ再開するかわからなくてイライラしている自分に、
東京に戻るほどのことを私はしているのかなって
考えてしまったり。
ちょっと自分の社会の中での価値がわからなくなった。 - 富永
- 自分の仕事への疑問が大きくなっちゃって。
食べる物がない、って困ってる中で、
お菓子なんて送ってもなあ、
私、おにぎり屋さんだったらよかった、
とか思ってた。
おにぎりならみんなのためになるのにって。 - むらかみ
- でも私は地震のあと、
コンビニが開いてチョコレート買って。
いつも食べているのに、すごく美味しかったなあ。
安心したよ。日常が戻ってきた感じがして。

熊本に帰るたびに食べるいつものパフェ
- 富永
- そうなんだ。嬉しい。
パティシエだし、お菓子作るのは大好きだから、
お菓子が人を幸せにするのは信じてるの。
だからくまモンのマドレーヌを作ろうと思ったし。
でも、やっぱり迷いは出ちゃう。
この牛乳、お菓子を作らずに被災地に送ったほうが
いいんじゃないかとか。 - むらかみ
- 特に水がありません、食べ物がありません、
ってニュースで流れている状況では考えちゃうよね。 - 富永
- そうそう。
東日本大震災のとき、材料が品薄になるって情報が
すぐに業者さんから回ってきたの。
それで必要な牛乳やバターを買いに走ったんだけど、
その時もすごく違和感があって。
スーパーはしごして買い占めた材料でお菓子を作りながら
何のためにお菓子を作ってるんだろうって、
仕事への疑問が出てきてしまって。 - むらかみ
- そういえば東北の震災の時は週明けがホワイトデーで、
お菓子を買っている人を見て複雑な気持ちになった。
別に今、お菓子を買っても買わなくても、
現地の人には何の影響もないってわかっているけど。
作っている側も複雑だよね。 - 富永
- 私はその時も今も、お菓子やケーキを買ってくれる人の
お金で生活しているし、その時働いていたお店は、
被災地でお菓子を作ったり配ったりしていたの。
買ってくれる人がいないと生活も支援もできない。
やりたいことをやるにはお金が必要だって、
自分が実際に動いてみると本当に実感する。 - むらかみ
- お金って重要だよね。
熊本にいる時、命の危機が去った後は、
お金があれば大体の問題は解決出来るなと思ったもん。 - 富永
- 今も好きなことをして働けてるって幸せだし、
自分らしい支援ができていると思う。
だけど私が集められるお金は微々たるものだし、
生きるか死ぬかみたいな状況で、お菓子は必要?
作ることに意味があるの?って考えちゃって。 - むらかみ
- ああいう異常な状況だと、「生き残る」ことの優先順位が
飛び抜けて上がっちゃって、生きることに直結しない
モノの価値がとても下げられるように感じるね。 - 富永
- 大学は法学部だったから、友達はきちんとした企業に
就職していくけど、私はパティシエになろうと決意して。
みんなは社会貢献してるのに、自分はお菓子を作る
仕事で社会に役に立てているのかな、
という不安が常にあって。
だからお菓子で貢献したかったの。

甥っ子に贈ったケーキ
- むらかみ
- 私が甘いものを好きだからっていうこともあるけど、
お菓子とかケーキってすごくパワーを貰えるよ。
被災した人も、ニュースを見て暗い気持ちの人も、
お菓子を食べている時は、怖さやつらさを
忘れられるんじゃないかな。
私は募金することぐらいしかできなかったから、
羨ましいと思う、具体的に貢献する力を持っていること。こんな状況でお菓子を作って誰が救われるんだろう、
という気持ちもわかるけど、
お菓子を食べて幸せになってくれる人が一人でもいるなら
意味があることだと思うな。 - 富永
- そうだといいなと思う。私も本当は一番やりたいのは、
被災地の人に私のお菓子を食べてもらうことだから。
今は人脈もないし、作って運んで配ってということは
難しいから諦めちゃったんだけど。 - むらかみ
- 間接的にでも届くといいよね。
真純ちゃんがこうやって熊本のためにって
動いているのはすごいなって思う。
(つづきます)