ふるさとを離れ、東京に自分の軸がある私たちは、
地震の当事者にも傍観者にもなりにくい。
そんな気持ちを志水くんと共有します。
- むらかみ
- 最初に地震が起こったあと、東京でニュースを見ていて、
そわそわしたんだよね。
心配よりも、これからどうなるんだろうという不安が
大きかった気がする。
私、東日本大震災のとき何もしなかったんだよね。
できないというより、しなかったかな。
だから、そんな私をみんなが心配してくれるのが
申し訳ないなと思って、居心地悪かったなあ。
ありがたいんだけど。
人間一人では生きていけないってわかったけど、
改めて、負荷をかける立場になるって肩身狭いなと。 - 志水
- そうか。地震の後の週末は、俺は地元で手助けできないから
義務感みたいなものが出てきて。
さっきも言ったけど、SNSとかで情報拡散したり。
焦ってたのもあるけど、振り返ってみると、
混乱させてしまったかなって反省もあるかな。
現地にいる側としてどうだった?
そういえばtwitterとかで情報を集めるより足で稼いだ方が
いいって言ってたよね。 - むらかみ
- そうなの。
同じ情報が何度も流れてくるとか、少しズレてるな、
というのは、受け流せばいいからまだいいんだけど。
たとえば、ここにお水がありましたとか、どこどこの
お店が営業してますって言うでしょう?
でも、そこには物資が無限にあるわけじゃないんだよね。 - 志水
- 人が殺到したら、無くなってしまうよね。
- 志水
- そう。無くなるの。
貴重なガソリン使って、渋滞の中を辿り着いて、
体も心も疲れているところに、
欲しい物が無かったらがっかりするなって。
情報は嘘じゃなくても、嘘になっちゃうことがあるから、
ちゃんと扱わないといけないって思った。

あちこちに降り注ぐ瓦礫
- 志水
- よかれと思ってやっているから余計に難しいね。
- むらかみ
- それに地域によっても、家族単位でも、
被害が全く違うわけなんだよ。
そうなると、欲しい物も情報も変わるし。
うちはプロパンガスだったからガスは使えたし、
停電もしなくて。
水だけは丸一日止まってすごく不便だったけど。
インフラが全部ダメになったり、
家に住めなくなったり、怪我した友達もたくさんいて。 - 志水
- 被害は本当に違うよね。
俺もニュースを見て覚悟していた分、
想像していた最悪の状況まではなかったなという感想。
でも大丈夫じゃないところもたくさんあるんだよね。
家が半壊した友達から写真を見せてもらったけど、
ひどいな、こんなになっちゃうんだって。 - むらかみ
- 私も家の周りを歩いたんだけど、パッと見、不思議なほど
普段と変わらないんだよね。
ちゃんと見たらブロック塀が倒れたりガラスが割れたり、
壁が崩れているんだけど。
そのせいでテレビで見る景色にすごく違和感があったの。
益城の方は本当にひどいみたいなんだけど、
数キロの距離でこんなに違うんだなって。 - 志水
- 地震の直後は特に、
会う人会う人、
「ご両親大丈夫だった?」
からはじまるんだよね。
心配してくれるのはありがたいんだけど、
同時に、「熊本代表」みたいに扱われるのも、
少し居心地が悪いんだよね。 - むらかみ
- その地域の代表者みたいに扱われるんだよね(笑)
- 志水
- そう! それはある。
- むらかみ
- それって、温度差があるんだよね。私と、世界の(笑)
- 志水
- そうそう。俺そこまで背負い込めないなーって思った。
それに、熊本のことを知っている前提で聞いてこない? - むらかみ
- わかる。
- 志水
- 毎日熊本自身のニュース記事チェックしてるんでしょう?
っていう勢いなんだけど、いやー、そこまではって。
熊本城の様子どうですかって聞かれてもねえ、
いやーわからないですね、って。

熊本城の長塀も傾く
- むらかみ
- どうでもいいわけじゃないのに、答え方次第で
地元に関心がない人みたいになっちゃうよね。
みんなに「大丈夫だった?」って聞かれたでしょう?
ありがたいけど、自分の被害について、
言ってもどうしようもないと思ってしまう。
あまりに個別的というか、小さい話になっちゃうから。 - 志水
- 何かできないですか、って聞かれたら、
熊本に募金してください、って言うことにしてる。 - むらかみ
- ついでに、私、すぐに帰ったでしょう?
そのせいで、
「すごいね」
って言われることもあるの。
元々実家に頻繁に帰っているわけでもないし。
大丈夫だってわかっていたから、突き詰めると、気が向いただけなんだよね。それに金曜日だった、っていうだけ。 - 志水
- すごいなって思う気持ちはわかるな、でもみんなが感じる「すごい」が、その行動を起こした動機じゃないんだね。
- むらかみ
- そうなの。はっきり言うと、駆けつけるって一番簡単で、
わかりやすいことだよね。
簡単なのに地元のためにやってる感がすごくある。
そこに居心地の悪さを感じる。
私何もすごいことしてないし。被災してるし。
周りの人から怒られたし。
自分の気持ちについて、アウトプットを見て定型的な
評価をされるのが、ちょっと居心地わるいなって。 - 志水
- 相手の想像しているテンションと
自分の気持ちが違うってあるよね。 - むらかみ
- ただ、現地にいたから感じたこともあって。
個人的にね、ああいう状況で、地震から1日2日で、
「野菜が食べたい」
とか、違うかなっていたの。 - 志水
- そうだね、極論を言えば数日食べなくても死なないしね。
- むらかみ
- 私もそういう考えだった。
でも2日目かな。日曜日の夕方ぐらい。
私たちぐらいの女の人と、お母さんか、おばあちゃんか。
60歳ぐらいの人が、お箸がないことをすごく怒ってたの。
怒り狂うって言うよりは、
「お箸ないんですか」
って繰り返す感じで。
店員さんも疲れていてさ。
「在庫がなくなってしまったので」
って、言外に、状況を考えろって言っているでしょう。
なのに、おばさんは
「フォークもないの?」
って。そうしたら一緒に娘が怒って、
「こんな状況でお箸とか言ってどうするの、
ごはん買えたんだからいいでしょ」
って。
だけど、おばさんはぼうっとしてて、
「でもお箸がないの」
って何度もつぶやいて帰ろうとしないの。
最後は引っ張って連れて行かれたんだけど。
両方気持ちがわかるなって思っちゃったんだよね。
私もしょうもないことでイライラしたし、
親もイライラして喧嘩したもん。 - 志水
- 些細な事が癇に障っちゃうのかな。
いつもできることができないからなのかな。 - むらかみ
- みんな条件は同じでしょう?
冷静に考えればわかるはずなの。
「そんな状態じゃない」
って。でも、AだからB、みたいな割り切りには
心ができないのかなって。
あのとき地震の狂気を一番感じたかもしれない。
お箸がないことが、これは日常じゃないってストレスに
繋がるのかなって。
日常と違うことがもうストレスなんだね。
箸がないから困るんじゃなくて、箸がない、日常と違う、
それだけでストレスなんだ、これが積み重なったら
どうなるんだろうって。

3世代で通ったスーパーも倒壊
- 志水
- 最初の数日しのげれば、物資もインフラも回復していくと
思っているけど、現地にいたら簡単に割切れないかもね。
自分はもう熊本に住んでいないから、外にいる側として、
これからどう関わっていくか選択肢はあるけど、
現地と自分の状況を見ながら決めていくことになるかな。 - むらかみ
- その時どうするかも迷うけど、その後も何ができるか、
すべきかはもっと難しい問題だと思う。
自分で考えて判断しなきゃいね。またお話しできればいいなと思います。
ありがとうございました。
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