もくじ
第1回5代目になるかもしれない人の葛藤 2017-12-05-Tue
第2回彼女(たち)が家を継いだ理由 2017-12-05-Tue
第3回家族のために 2017-12-05-Tue
第4回時代に合わせて生きていく 2017-12-05-Tue
第5回私はどうしたいのか 2017-12-05-Tue
第6回独白 2017-12-05-Tue

東京で働いてはいるものの、岩手の紫波町というところで120年以上続く餅屋を継ぐかどうするかの瀬戸際にいます。先のことはわからないから、まずは頑張って生きます。

家族を守るための仕事

家族を守るための仕事

担当・髙橋元紀

岩手県紫波郡紫波町。
盛岡と花巻のちょうど中間にあるこの町に
明治14年創業の餅屋があることはご存知でしょうか。
その屋号を『高福』といいます。
136年目を迎えたその店は3代目である祖母と4代目の母が切り盛りし、
細々と、堅実に、家族だけで経営しています。
母の代からは、家の餅を使った料理を振る舞う喫茶店をはじめ、
地元紙やTVに取材されることもしばしば。
地元の憩いの場となっています。

しかしそんな中、5代目はというと東京のIT企業で働いている様子。
26歳の5代目になるはずだった男は、
どうやら店を継ぐべきかたたむべきか、悩んでいるみたいです。
日本でも事業継承・後継者不足がひとつの社会問題になっていますが
冷静に振り返れば、自分がそのど真ん中にいるとは……。

136年の歴史を背負う店のこれからについてのお話です。

第1回 5代目になるかもしれない人の葛藤

「継がなくていい、どこへ行ってもいい」。
老舗の餅屋にたまたま生まれてしまった僕は
幼い頃からそう言われて育ってきました。
そしてその言葉どおり、
26歳の現在に至るまで長野・オランダ・名古屋・京都・東京と
住む場所もやることも転々と変えて好き勝手に生きています。
就職でも地元に帰るという発想はありませんでした。

でもその間も、どこかに家業のことが引っかかっていたように思います。
伝統を自分の代で潰してしまっていいのか。
本当に餅屋の仕事だけで生活していけるのか。
店がなくなることで悲しむ人はどれだけいるのか。
岩手に戻って僕は楽しく生きられるのか。
祖母は、母は、継いでほしいと言えないでいるのではないか。

自分は、本当はどうしたいのだろう。

それらひとつひとつに答えを出していくのはあまりにも難しく、
ここ数年、悩むだけで立ち止まっていました。

たまに人に「実家が古い餅屋で」と話をすると
「絶対継いだほうがいいよ!」と言われ、
驚くほど「継がないほうがいい」という人はいませんでした。

「日本の文化を担える」
「家業があることは幸せ」
「歴史は大切にしたほうがいい」
と、かけられるその言葉にうなずける部分はありながらも
それらの言葉と自分の心との距離のようなものを感じていました。

僕にとって家のことは生活と地続きで、
伝統が、文化が、という言葉は
どこか遠いのです。

それならば「餅は餅屋」もとい
家のことは家の人、ということでこのコンテンツを口実に
これまで避けてきた話題、「家を継ぐこと」について
3代目の祖母と4代目の母に店に対する思いと、
私に期待していることを聞いてみることに。
これまで遠ざけていた問題と向き合います。

(つづきます)

第2回 彼女(たち)が家を継いだ理由