- 3代目
- 保健所の許可も降りなくなって、今使ってるような餅つき機だってもうだめになるんだってよ。
- 4代目
- 今のが壊れてしまえばね。
- ―
- え、じゃあ世の中のお餅屋さんはどうなるの?
- 4代目
- どん、どん、ってつくこともなくなって、全自動に変わっていくんじゃないかな。
- 3代目
- そう、だから本当の餅の味はなくなってしまうかもね。でも、もうそれが分かる人いないんだもん。悲しいかな。お餅の味分かる人たちはどんどん亡くなっていってしまうから。
- ―
- えー、でもそれはすごくもったいない気がする。
- 3代目
- 衛生面とかよりも手を入れて餅をつくのが危険なんだって。怪我するかもしれないから。私なんか何十年もやってても手なんかついたことないのにさ。
- 4代目
- ねぇ、どんな仕事でも危険はあって、それを気をつけるのがプロなのにね。怖いけどね、確かに。
- 3代目
- もうそういう時代さね。
- ―
- じゃあもうどこの餅屋でも同じような味になっちゃうのかな。
- 3代目
- そうかもね。もうこういう半自動の餅つき機を作る人もいないんだから。これが壊れたらもう終わりかもね。今の機械を直し直しやっていくしかない。
- 4代目
- 今使ってるのも特注だけど、もう作った工場も潰れてしまってねえ。
- 3代目
- 今も機械の部品が消耗してきて、近いうちに使えなくなるかもしれない。もう変えの部品作っているところもないし……。杵も変えたいんだけどね。それは大工さんに頼まないと。
- ―
- そんなところにも問題があったんだね。
- 4代目
- そんなだからマーケティングの仕事を極めるのがいいかもしれないけどね。
- ―
- 家のマーケティングをする手もあるけどね。
- 4代目
-
でもサラリーマンだったら毎月収入が安定的に得られるよ。家の仕事をしたら全ての裁量が自分次第になってしまうし、ムラがあるよ。
あなたはなにをしたいの?この店を考えないとしたら。家庭のことも考えないとしたら。なんにもない自分だったら。
- ―
- ……。
- 4代目
- でね、ないと思うんだよ。そういうのって。毎日の積み重ねしかないと思うんだよね。仕事もさ。継ぐっていうこともそうで、よっぽど強い意志があれば別だけどさ、あとはそうでなければ、与えられたことを精一杯やればいいんじゃないかな。私の場合で言えば、基盤がこの家にあったから外せなかったというところが大きいから。
- ―
-
わざわざ美味しいものをなくしたくないという思いもあってね。もしここを継いで収益を出して生活できるのであれば継ぎたいとも思うんだけど。うちが残ることで喜んでくれるのは家族だけじゃなくお客さんでもいるわけだし。ただ一方でそれをやることによって、誰もかれも不幸にしてしまうかもしれないというリスクも結構あるなと思っていて。
そのリスクを無くしたいんだけど、今の家の状態だと難しいから、方策を考えていかなきゃなって。
- 4代目
- あなたの話を聞いていると、ここを継ぎたいし、守りたいと思っている感じだよね。
- ―
- そう、かもね。
- 4代目
- なくしてしまって、マーケティングだけで食べていこうって気はないんだね。
- ―
- マーケの仕事は正直、いくらでも変わりはいるんですよ。やりたいという人も多いし。別に僕がたまたまそういう役に就いているだけで、同じ知識を持っている人は世の中にいっぱいいるわけで。でも、ここを継げる人は世の中に僕しかいないし。じゃあ、自分にしかできないことをしたほうがいいのかなって思うことはある。
- 4代目
-
そう思ってくれるのは本当に嬉しい。でも今後家庭を持ってみたいなことを考えると、慎重にね。家族を作っていて、店のせいで家族を失うようにはなってほしくないと思うから、それができた上で家のことを考えてくれたらいいなって。
難しい問題だけどね。
- ―
- うん。だからしばらくは両方できるように、帰省した時に店を手伝いながら、東京で今の仕事を続けるよ。
(つづきます)