- 糸井
- いやぁ、なんとか言い訳したいんだけど(笑)。
その、「イトイはすぐ帰る」ということについて。
- 小林
- いやいや、実際、帰ってるから。昔から。
- ──
- それは社内でも昔から評判です。
パーティー、コンサート、試写会、
個展、懇談会、打ち上げ‥‥。
だいたい「楽しかった!」「じゃ」って。
- 小林
- そうだよね(笑)。
- 糸井
- だいたい、なんだろう?
そもそも、ずっと居られる人のほうが
すごいなと思うよ(笑)。
- 小林
- すごいですよね、考えてみたら。
- 糸井
- しかも、「腹いっぱいだ」とか、
「飲みすぎた」とか言いながら、
「まだ酒飲んでます」じゃない?
- 小林
- そう。
- 糸井
- あれ、俺はできないんだよ(笑)。
- 小林
- いや、そっちのほうが賢明だと思いますよ。
ああいう場から、さっと帰ってたら、
身のまわりから争いごととかなくなると思う。
だいたい、飲んだら、最終局面で、
なんか些細なことからもめたりしますから。
- 糸井
- あぁ、最終局面でね(笑)。
- 小林
- そういうのが楽しい夜を台無しにするわけ。
で、翌朝の目覚めがメチャクチャ悪い。
ズルズルいるタイプって、そういう場面を
何度も経験してると思うんですよ。
だから、糸井さんみたいに断ち切ればいいのに、
まぁ、できないんですよね。
- 糸井
- それができるのは、
俺がまったく酒を飲まないというのが
大きいんじゃないですか。
- 小林
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 酒を飲んでたら、
帰りたくても酒が引き止めますよね。
- 小林
- あ、そう考えるとわかりやすい。
イトイさんの情が薄いわけでも、
怒ってるわけでもなく‥‥。
- 糸井
- 酒でしょう。
- 小林
- あぁ、そうか。
- 糸井
- よかった。少しはわかってもらえた(笑)。
- 小林
- 飲んでないから、温度が違うんだな。
酒を飲んでる者どうしだと、
正直、そんなに楽しくもないのに
「わーっ、楽しいなぁ!」みたいになっちゃうから。
- 糸井
- そうだよね(笑)。
- 小林
- だから、「帰るわ」っていう人がいると、
「え? もう帰るの?」ってなるけど、
だいたいはお酒の力でその場が持ってるから。
- 糸井
- 昨日、ちょうどね、
お酒を飲まない人どうしで食事に行って、
そのうちのひとりがしみじみ言ってたんだけど、
「お酒を飲んで、その人の話が
おもしろくなるっていうことは
まずないですよね」と。
- 小林
- あーー、なるほど。
それはね、酒飲みにはわからないのよ。
- 糸井
- まぁ、酔っぱらうことによって、
その人の愛すべき一面が出たり、
愉快なキャラクターになることはあっても、
「話がおもしろくなる」ことはない、と。
というか、ふだん話がおもしろい人の話も
たいてい「おもしろくなくなる」と。
- 小林
- それね、酒飲みの、100人中100人が、
気付いてないと思いますよ。
- 糸井
- だからって、いっしょにいたくないわけじゃ、
まったくないんだけど、
まぁ、そういう傾向があるよね。
同じ話を何度もしたり、
やけに真面目に語り出したりとかさ。
- 小林
- いや、厳しい指摘だけど、その通りだと思います。
たしかに、同じ話を繰り返す。
気づかないで3度目、とかってあるよね。
「この人、3度目だぞ、この話」って。
- 糸井
- うん(笑)。
- 小林
- あれ、でも、なんで楽しいと思うんでしょうね。
本人たちは。
- 糸井
- 楽しいんだよね?
- 小林
- 楽しいんですよ。
- 糸井
- 感覚を共有してるのかね。
「楽しい」っていう感覚や感情を。
- 小林
- あ、そうですね。
お酒とともに、その感情が入ってくる。
- 糸井
- だから、そこのところが、つまり、
「安く」なるんじゃないですか。
- 小林
- あ、そうだ。
- 糸井
- ハードルが低くなる。
- 小林
- そうだね。
いや、なんか自分の日々をこう振り返ると、
そのへんは厳しい指摘だな。
- 糸井
- はははは。
- 小林
- ハードル低いところで笑ってるんだな
とかって思うと、悲しいな。
- 糸井
- くりかえすけど、だからけしからんとか、
そういうことを言いたいわけじゃないよ。
楽しくなってる人といるのは基本的には楽しいし、
そういう人どうしが集まって楽しくしてるのは、
やっぱりうらやましいですよ。
だいたい、何度も言うけど、俺が帰るのは
楽しくないからじゃないんだ。
帰るべきときに帰ってるだけなんだ。
- 一同
- (笑)
- 小林
- いや、なんかね、まぁ、
今日みたいなのは特別なんですけど、
ぼく、男どうしで、シラフで、
集まって話したりしないんですよ。
その、なんか、酒飲みって、
「シラフで、ちゃんと話できないよね」
っていう空気が常にあるんですよ。
- 糸井
- ああ、それはなんとなくわかる。
ぼくは、いま、こうやって、友だちと会って
無駄なこと話すことも仕事になってるんで、
そういう意味では、助かる。
- 小林
- あぁ。
- 糸井
- だって、俺が、仕事抜きで
「薫ちゃん、今度、会って話をしない?」
って言われたら、困るでしょ?
- 小林
- 俺、別に付き合うけどね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 変わらないなぁ、そういう返しが(笑)。
- 小林
- はははは。
- 糸井
- まぁ、やればできるのかもしれないけど、
「ヨイショ」っていう声が必要でしょ、やっぱり。
- 小林
- でも、なんだろう、あの、
落語家が一席こう、高座に上がるような気分で、
「えぇ、お話ししましょうか」っていうのも、
ちゃんと付き合ってもいいですよ(笑)。
- 糸井
- じゃあ、今度本当に試してみるか(笑)。
すみません、時間が来たみたいなんで、
取ってつけたように、『深夜食堂』の話を(笑)。
- 小林
- あ、そういえば、そうだった。
- 糸井
- まぁ、無理にぼくが説明しなくても、
みんな感じてると思うけど、楽しみですよ。
なにより、この映画の実現を
まわりの人たちみんなが願っていて、
仕事してる人ひとりひとりが、
きちんと集まってるのがいいなと思うんだ。
- 小林
- ありがとうございます。
- 糸井
- 応援します、ほんと。
- 小林
- どうも、どうも。
今日はお時間をいただいて。
- 糸井
- こちらこそ。
薫ちゃん、酒も飲めないのに、ありがとうね。
- 小林
- (笑)
(小林薫さんと糸井の対談はこれで終了です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。)
2015-02-05-TUR