HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

画家・絵本作家のミロコマチコさん。
彼女が描く動物や植物はいつも、
画面からはみ出さんばかりにちからづよく、
あざやかで、生命力にあふれています。
ほぼ日でも、
糸井重里の著書『忘れてきた花束。』の装画や、
ほぼ日手帳2016のカバー「赤いインドサイ」など、
さまざまなお仕事をごいっしょしてきました。
今回は最新刊の絵本『つちたち』について
お話しするつもりが、
いつしかミロコさんのこれまでを
うかがう流れに‥‥。
しかし、聞いても聞いても
彼女がいまに至る道のりが
見えてきません。
さて、「ミロコマチコ」は、
いつ出てくる?

ミロコマチコさんプロフィール

ミロコマチコ

1981年、大阪府生まれ。
2004年から画家として活動を開始。
2012年『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で
絵本作家デビュー、
同作で第18回日本絵本賞大賞を受賞。
自らが飼っていた猫を描いた絵本
『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で、
第45回講談社出版文化賞を受賞。
地球を見ちゃった
糸井
元気でしたか?
ミロコ
すこぶる元気です。
糸井
「すこぶる」って漢字書けますか?
ミロコ
書けないです(笑)。書けたらカッコいいですね。
糸井
(検索して)「頗る」。皮に頁だ。
絵本ができそうなくらい、ドラマチックな漢字(笑)。
ミロコ
おお、かしこくなりました。
糸井
ミロコさん、新しい絵本が出たんですね。
『つちたち』。
土が主役。
これは、やっぱりすごいですよ。
ミロコ
ありがとうございます。
ずっと考えてたんですよ、去年。
ずーっと土を見てて。ひとつぶずつ。
糸井
土について調べたりしましたか。
ミロコ
調べることはそんなにあんまりしないです。
糸井
ミロコさんはきっと、そういうことしませんよね。
ミロコ
はい。
さいしょは、オーストラリアに行ったのがきっかけで。
大陸中央らへんの、
エアーズロックのあたりの土って赤いんですよ。
私、そんな土をそれまで見たことがなかったので、
ビックリしたんです。
すごく感動して、
「地球を見ちゃった」みたいな気がして。

それで、土のことをずっと考えてて、
帰国したときに「あんな大自然から
こんなちっぽけな東京の家に帰ってきた」と思ったら
一瞬ガーンってなってたんですけど、
向こうで履いてたスニーカーを見たら、
靴底がもう真っ赤になってて。
糸井
ほうほう。
ミロコ
「あ、連れて帰ってきた」と思ったんです。
でもよく考えたら、あそこの土も、うちの庭の土も、
海にもぐってたどれば、つながってるんだよなと思って。
それを考えるとうれしくなった。
私もあそこで生きてる植物や動物と同じように
生きているんだと思って、
土をテーマに1年間、展覧会をしたんです。

それで「次、何の絵本をつくろう?」と思ったとき、
「よし、今なら土だ」って。
糸井
僕自身、けっこう土に興味があって、
ミロコさんが土の絵本を描いているって聞いて
「あ、いいとこ行くなあ。俺の興味も同じだよ」
と思っていたんです。
できあがった『つちたち』を読んだら、
もうみごとに土好き! って感じだったから、
うれしくなっちゃった。
ミロコ
よかったです。
糸井
ミロコさんの絵に合ってるんですよ。
ミロコ
土が?
糸井
うん。
僕、今回帯を書くにあたって、
カラーコピーをいただいたんです。
ミロコ
はい、まだ本になってないゲラを、
そのときに見てもらいました。
糸井
そうそう。
そのカラーコピー、今でも、
自分で本読むときのブックカバーに使ってますよ。
ミロコ
おお、うれしい。
糸井
『つちたち』はミロコさん自身が
「土」という題材を選んだわけですけど、
ミロコさんが絵本をつくるとき、
編集者が「これについて描いてくれ」と
頼んでくる場合もあるんですか?
ミロコ
ほとんどないです。
いつも「何でもいいよ」と言われます。
「好きなように」って(笑)。
実際飼っていた猫のことを描いている
『てつぞうはね』という絵本だけは
「あの猫の絵本、つくらない?」と言われました。
でもそのときも、あとはぜんぶ自由。
糸井
ちょっと無責任にも聞こえるな(笑)。
自分で「今度はこれを描こう!」というのは、
どうやって?
ミロコ
よく思いついたことを、
チュルチュルって手帳にメモしておきます。
それで、あとから見てふくらむこともあるし、
そのときワーッとふくらむこともあるし。
糸井
『つちたち』は、
ふくらんだわけですね。

しかし、ミロコさんは
デビューしてから尽きないね。
何がたまってるんだろうね?
ミロコ
えー、尽きそうです、いつも。
糸井
そう?
自分ではそう思う?
ミロコ
そうですね。
何も浮かばないなあ、
みたいなときはいっぱいあります。
絵本をつくるときも、
ま、ちっちゃい種みたいのはいっぱいあるけど、
本になるまでではないってのが多くて、
こう見えて遅ーいです。
糸井
つくりはじめるのが遅いんですか。
ミロコ
そうですね。
いちどラフの形になってからは
めっちゃ早いんですけど、
お話ができるまでは
ジリジリジリジリやってます。
糸井
絵本の「お話」部分は、
絵に対してどんな役割ですか?
たとえば歌でいうと、
曲が絵だとしたら、お話は詞みたいなものですか。
ミロコ
うーん‥‥そうかもしれない。
でも、もしお話が詞で絵が歌だとしたら、
メロディからも思いうかぶし、
言葉からもうかぶし、
つくる順番としてはバラバラです。
糸井
ああ、それはつまり、
シンガーソングライターということですね。
ミロコ
はっ、そうなんですかね?
糸井
たとえば、
ものすごいスピード感のある
動物が走っている絵とか描いたら、
それはまた言葉を呼びおこしますよね。
ミロコ
ああ、そうですね。
絵が浮かんでから言葉がついてくるときもあるし、
言葉ができてから絵がついてくることもあります。
糸井
そうすると、漫画家におけるネーム、
いわゆる設計図みたいなものを
途中で編集者に見せる、
あのプロセスはないんだね。
ミロコ
ないですね。いきなりこれ(ラフ)になってしまう。
糸井
もう最初からこれ?
ミロコ
これを「ラフ」と呼んでいます。
糸井
え、これは現物ではないの?
ミロコ
現物ではないです。
これを編集者さんに見せて、
「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と
言われたりして。
糸井
てことは、これはできあがりの絵本とは違うんだ。
ミロコ
はい、ちがうです。
これをなんども描き直す。
糸井
感心しました、いま。
ミロコ
あ、そうですか(笑)。
糸井
じゃあ僕は帯を書くとき、
このラフと呼ばれるものを
受け取っていたわけだ。
ミロコ
はい、そうです。
本番とは違って、ラフの方は
イメージをはやく形にしたいので、
全体的にちょっとあわててます。
糸井
(1ページずつラフと絵本を見くらべて)
お、色が違う。構成も違う。
ふーん‥‥いやあ、すごいなあ。
どっちもよくて、
完成版の絵本のほうがもっといいってのは
最高ですね。
ミロコ
完成版のほうがよくて、よかった(笑)。
(つづきます)
2016-2-18-Thu

『つちたち』

ミロコマチコ 著
(学研プラス 1,512 円 )
大地の土がうたい、踊り、空をとぶ。
時をこえてエネルギーを爆発させる
土のものがたり。
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