- 高橋
- そもそものお話をいたしますとね。
- 糸井
- お願いします。
- 高橋
- われわれ人間は、
ずっと「飢餓状態」に生きてきたんです。 - 糸井
- そうですよね、
近年になるまで、ながーいあいだ。 - 高橋
- まだ狩猟採取民だった時代には
獲物が捕れないかぎり、食べられなかった。
つまり、非常に短い「飽食」の期間と、
非常に長い「飢餓」の期間とを、
繰り返してきたんです。
基本的には、ごく最近になるまで。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 高橋
- そのとき、われわれは
「エサのある飽食の期間」に太っておいて
「エサのない飢餓の期間」を乗り切ることで
生き延びてきたわけです。
- 糸井
- つまり、その繰り返しだから‥‥。
- 高橋
- そう、現代人のように
「持続的に体重が増加する」ということは
まったくなかったと言っていい。 - 糸井
- 痩せたり太ったりしてたんだ、大むかしは。
- 高橋
- そう。
- 糸井
- 今みたいに、際限なく太れるような環境では
なかったということですね。 - 高橋
- そうなんです。
つまり、言いかたはむずかしいんですけど
結論的に言うと、
近年になるまで「太る」環境的要因というのは、
ほとんどなかったんですよ。 - 糸井
- ははー‥‥おもしろい。
- 高橋
- ところが、現代の先進国では、どうでしょう。
お金を出しさえすれば、
近所のスーパーやコンビニで
いつでも好きな食べ物が手に入りますよね。 - 糸井
- そうですね。
- 高橋
- 狩猟採取民だったころは、
環境的な条件で
手に入るエサの種類も限られていましたけど、
いまは
われわれ味の素なども頑張っておりますので(笑)、
お店に行けば、何でも並んでるわけです。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 高橋
- そうすると、確固たる根拠もないのに
好きなものを、
いつでも、いくらでも食べられちゃう。 - 糸井
- 「エサが取れたぞー! 食おう!」じゃなくて。
- 高橋
- 長い間、「飢餓と飽食」を生き延びてきた
われわれ人類の歴史を考えますとね、
いつでも、何でも、いくらでも
ものを食べられる、
そういう現代のような環境に置かれたら‥‥
「太らざるを得ない」わけです。
- 糸井
- なるほどなぁ‥‥。
- 高橋
- 狩猟採取民にとって
狩りの失敗、
つまり「エサが捕れない期間」というのは、
意図せざるダイエットだったんですね。 - 糸井
- うん、うん。
- 高橋
- まとめますと‥‥。
- 糸井
- はい。
- 高橋
- なぜ、最近になって
「肥満」や「メタボ」が問題化してきたか。 - 糸井
- ええ。
- 高橋
- 第二次大戦のころまでは、
ほとんどの国で「飢餓」が深刻な問題であり、
われわれの食生活が飽食化したのは、
ごく最近のことである。
このことが、まず前提となります。 - 糸井
- はい。
- 高橋
- そして、
過去には太れる環境になかったわれわれも、
いつでも、何でも、
いくらでも食べ物が手に入るようになって
どんどん、太ってしまったんです。 - 糸井
- ‥‥この話、リアルな実感がありますね。
- 高橋
- そうですか。
- 糸井
- 自分自身のことを振り返ってみると
よくわかるんですけど、
ぼくが、いちばん「空腹」と戦ってたのは、
高校時代だったんです。 - 高橋
- みんな早弁で(笑)。
- 糸井
- そうそう、あのころの「空腹」って
耐えられないほど辛かった気がするんです。
その記憶があるからなのかどうなのか、
「空腹」という状態に、
「強迫観念的な何か」を持ってると思うんです、
ぼくたちって。 - 高橋
- そうかもしれませんね。
- 糸井
- つまり、食べないと死んじゃう、倒れちゃう、
あるいは
腹が減っては戦ができぬ‥‥とか、いろいろ。 - 高橋
- ええ、ええ。
- 糸井
- そして「食べる」という行為に対しては
基本的に、否定的な意見は、出ない。 - 高橋
- 出ません。
- 糸井
- つまり、そういう飢餓的な記憶があるから、
おなかが空いてなくても
「3食、食べておかなきゃ」と思っちゃうのって
すごくわかりますよね。
- 高橋
- ええ、そうですね。
でも、1日2食しか食べてない時代だって
実際にあったわけです。 - 糸井
- つまり、その当時の人たちは、
現代のぼくらが「空腹」と感じるような状態で
ある時間を、すごしてたわけだ。 - 高橋
- それこそ、狩猟採取生活における「男」は、
日中ずっと活動して
エサを探しているわけですけど
獲物ってのは
そんなにしょっちゅう見つからないんです。
だから、母も子も、基本的には飢えている。 - 糸井
- ええ、はい。
- 高橋
- われわれは、そういう状態に適応して
これまで生き延びてきたわけで、
現代のように
非常に消化のいい食料を
恒常的に食べ続けられるという経験は、
まったくなかったと言っていい。 - 糸井
- 人類史の文脈で語られる「肥満論」ですね。
- 高橋
- ようするに、現代のわれわれは
たとえば
「砂糖が何十グラムも入っている炭酸水」を
とつぜん与えられて、
それを、カポカポ飲んじゃってるわけ。 - 糸井
- ‥‥ええ。
- 高橋
- そんなことやってれば、
そりゃあ、どうしたって太っちゃいますよ。 - 糸井
- ‥‥そうですよねぇ。