- 糸井
- それでは、高橋先生の言葉でいうと、
「肥満」というのは、いったい何なんでしょう。 - 高橋
- もともとは、皮下脂肪をつけるための、
「加齢による適応」‥‥です。
- 糸井
- 「人間は、太るようにできている」という
今日のテーマとも、
通じてきそうな考えかたですね。 - 高橋
- 年齢が若いうちは
たくさん食べて、たくさん動けるから
まだいいんですが‥‥。 - 糸井
- はい。
- 高橋
- だんだん歳をとってくると
自分自身で獲物が捕れなくなりますし、
それから
「夜の寒さがこたえます」なんてときに、
歳のせいで動けなくなっていても、
皮下脂肪があれば
熱のインシュレーション(保温・保冷)を
してくれますからね。
- 糸井
- なるほど、なるほど。
- 高橋
- つまり、皮下脂肪が溜まるということは、
加齢における適応なんです、間違いなく。
歳をとったときの勲章みたいなものでね。 - 糸井
- じゃあオレ、適応できたみたいだわ(笑)。
- 高橋
- 身体全体にぐるりと平均1センチの厚みで
皮下脂肪がつくと
だいたい「10キロ」になるんですよ。 - 糸井
- へぇぇ!
- 高橋
- で、糸井さんが「腹が減った〜」なんて言ってた
高校時代にくらべて、
いま「プラス10キロ」あたりにいるなら、
それは、
「適正な脂肪の付きかた」だと思っていいでしょう。 - 糸井
- うわ! ぼくは今、まさにそんな感じです。
- 高橋
- そのあたりに収まっているのなら、
「加齢による適応」の範囲内だと思います。 - 糸井
- はー‥‥そうですか。
- 高橋
- 美容的な理由から
それ以上、皮下脂肪を減らしたいとなれば、
また別の話になりますけど。 - 糸井
- つまり、オレはおおむね、いいと。
うれしいなぁ(笑)。 - 高橋
- 皮下脂肪って、適正についているぶんには
何の問題もないんです、基本的には。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 高橋
- だから、平らかにね、粛々と歳を重ねた結果、
ついてきた皮下脂肪と、
不摂生でボコっとついちゃった内臓脂肪とでは
まずファンクション(機能)が違うし、
こう言い切っちゃうと
厳密には間違いも含まれるかもしれないですが、
問題になるのは、内臓脂肪のほうなので。 - 糸井
- なるほど、なるほど。
- 高橋
- 身長の伸びも止まって、
もうこれ以上、体重の増える要素がないとき、
プラス10キロくらいまでは
皮下脂肪が増えたせいだと思うのですが、
それ以上になると
内臓脂肪が体重増加に寄与しはじめます。 - 糸井
- そういう仕組みだったんだ。
- 高橋
- 人間は「短い飽食と長い飢餓」の時代には
冷蔵庫がないわけですから、
皮下脂肪や内臓脂肪として貯蔵するわけです、
エサをね。
で、この場合の「内臓脂肪」というのも
ついたり、なくなったり、
つまり、ダイナミックに増減していれば、
それは別に悪いことでも何でもないわけ。 - 糸井
- ええ、はい。
- 高橋
- でも、それが溜まり続けてしまった状態を
メタボリック・シンドロームと言うんです。 - 糸井
- そうか、そうかーー‥‥。
- 高橋
- メタボに陥ってしまったとき、
生体が、これはどう考えても異常だと判断すると、
たとえばインスリンの働きを下げて、
これ以上、
脂肪として蓄積しないように作用するんです。
インスリンが働かなければ、
当然、血糖値が下がってきませんから、
食欲が抑制されます。
つまり、食べようとも思わなくなるはず‥‥。 - 糸井
- はず。
- 高橋
- はず。
ところが「ストレス」を理由にしたりね、
説明のしかたは
いろいろありますけれど、
本来ならば食べようとも思わない状況でも、
人間は、食べることができる。
そこにあるのは「食という快楽」です。
- 糸井
- ああ‥‥なるほど。
- 高橋
- やはりぼくらは、意志を持った動物ですから、
「さはさりながら、やっぱり食べたいなぁ」
とかなんとか言って、
生体的には
食べる必要なんかまったくないのに、
食べることができちゃう。
おいしいものを、いろいろとね。 - 糸井
- そういう環境にいますしね。
- 高橋
- だから「肥満」や「メタボ」の問題に関して
基本的な理屈を言うなら
「たくさん食べても、
そのぶん、エネルギーを消費すればいい」
ということなんですが‥‥。 - 糸井
- ええ、わかりやすいです。
- 高橋
- 加齢による皮下脂肪の増加であれば、
10キロくらいまでなら
まぁ、円満かなぁと判断しています。 - 糸井
- なるほど、そうでしたか。
- 高橋
- 仮に1年に1キロずつ溜めていくとすると
10年で10キロ、溜められます。 - 糸井
- ええ、溜められますね。
- 高橋
- この「1年で1キロ」というペースは
誰が証明をしているわけでもないんですけど、
私としては円満な数字だと思っていて。 - 糸井
- はい。
- 高橋
- でね、その「1年に1キロ」を
1日あたりに換算すると、
「20キロカロリー」になるんですよ。 - 糸井
- え、そんなちょびっとなんですか?
- 高橋
- 1キロの脂肪というのは、8000キロカロリー。
- 糸井
- ほう。
- 高橋
- その「8000キロカロリー」を365日で割ると、
1日あたり「20キロカロリー」と出てくる。 - 糸井
- つまり、たった20キロカロリーの積み重ねを
10年続けると‥‥10キロ太っちゃうんだ! - 高橋
- そうです。
ここで、さっきの「NEAT」の話でいうと
脳という器官は
身体の5分の1のエネルギーを消費してます。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 高橋
- 人が、一日に「2000キロカロリー」のエネルギーを
使うとすると
脳だけで、400キロカロリーを消費している計算。
そうするとね、
「20キロカロリー」という数字は、
「400キロカロリー」の「5%」じゃないですか。 - 糸井
- つまり‥‥。
- 高橋
- 座りっぱなしのデスクワークだとしても
朝から晩まで必死に考えてる人と、
なーんにも考えないで
ぼんやりパソコンをカチカチやってる人では
いずれ、
かなりの差がついてくると思ったほうがいい。 - 糸井
- なるほど、一生懸命、頭を回転させることで
一日に20キロカロリーぐらいは
よぶんに消費することができる‥‥ということですね。 - 高橋
- そうです。
座りっぱなしでNEATが低い職業だとしても、
一生懸命、頭を使っていれば
充分、肥満に対抗する手段になると思うんです。