- 高橋
- ひとくちに「太る」と言いましても、
「太りやすい人」と
「太りにくい人」が、いらっしゃいます。 - 糸井
- はい、いますね。
- 高橋
- このことについて詮索した研究者が
アメリカにいるんですが、
「NEAT」(ニート)といいまして、
非常におもしろいコンセプトを、
お出しになっている。 - 糸井
- みんなが知ってる「無業者」のほうの
「ニート」ではなくて。 - 高橋
- ちがいます。
「Non Exercise Activity Thermogenesis」
の頭文字をとって「NEAT」。
日本語では「生活強度」とでも訳せるでしょうか。 - 糸井
- 生活強度、ですか。
- 高橋
- ふだん、ふつうに生活している人って
そんな目を三角にして運動してませんな。 - 糸井
- してないでしょうね。
- 高橋
- 実際、われわれがエネルギーを消費しているのは、
マラソンや重量挙げじゃなくて、
基本的に「日常生活」の活動を通じて、ですよね。
- 糸井
- 立ったり座ったり、という。
- 高橋
- そうそう、一日のエネルギー消費のうち
その「立ったり、座ったり」の
「日常生活の活動」の部分に相当するのが
「NEAT」なんです。
- 糸井
- ははぁ。
- 高橋
- たとえば、
職種として日常的に立っていることが多い人は
座りっぱなしの人よりも、
エネルギーの消費量が多くなります。
具体的に言うと、「立ってする軽労働」の場合、
NEAT部分の一日のエネルギー消費量は、
1400キロカロリーほど。
もちろん、その他にも
基礎代謝で1000キロカロリー以上は必要ですが。 - 糸井
- はい、はい。
- 高橋
- で、そのような人のことを
「NEATが高い人」と表現するんです。 - 糸井
- じゃ、デスクワークで座りっぱなしな人は、
「NEATが低い人」? - 高橋
- そうです。
おなじ「座りっぱなし」でも、
ちょこまか手を動かすのと、
ぜんぜん動きのないような仕事では、
差が出てきますけどね。 - 糸井
- じゃあ、やはり
意識的に、立ったり、座ったり、歩いたり、
階段を登ったりしたほうが、
NEATが高まるということですね。 - 高橋
- そのとおりです。
で、このNEATを提唱したアメリカ人は
さらに突っ込んで調査すべく
「痩せている人」と「太っている人」を集めて、
ある実験をしたんです。
どんな実験かというと、
8週間の間、毎日毎日「1000キロカロリー」を
オーバーロードするんです。 - 糸井
- オーバーロードというのは‥‥よぶんに食べる?
- 高橋
- そうです。
1日に1000キロカロリー余分に食べることを、
8週間、続ける。
今まで、1日に2000キロカロリー摂ってたら
毎日、3000キロカロリー摂取する。 - 糸井
- うわー‥‥すごいというか、怖いですね。
- 高橋
- でも、たくさん食べてるからといって
いつもやらない運動をしちゃうと
実験になりませんから、
ふだんの生活は、そのままキープします。 - 糸井
- 監視してるんですね。
- 高橋
- つまり立ち仕事の人は、立ち仕事のまま。
座りっぱなしだった人も、そのまんま。
で、8週間、経ちました、と。 - 糸井
- ‥‥はい。
- 高橋
- 結果としては、
「1キロくらいしか太らなかった人」と
「7〜8キロ太っちゃう人」と、
バラバラの結果が、出てきたんです。 - 糸井
- それは‥‥なんでですか?
- 高橋
- 全員について
どのぐらいの時間、立っていて、
どのぐらいの時間、座っていて
どのくらいの時間、寝ているかをチェックしました。
そしたら、まぁ、予想どおりと言いますか、
「あまり太らなかった人」は
立ってる時間がすごく長かった人だったんです。
で、太っちゃった人は、ちょうどその逆。
座ってる時間が、すごく長かった。 - 糸井
- ははー‥‥。
- 高橋
- そういう結果を受けて、人間のなかには
生来的に
「立ちがちな人」と「座りがちな人」が
いるんだろうと、
このNEATの研究者は、考えたんです。 - 糸井
- ええ、ええ。生まれつきに。
- 高橋
- ようするに、
座りがちな人、つまりNEATの低い人が
太ってるんだろうし、
立ちがちな人、つまりNEATの高い人が
痩せているんだろう、と考えた。 - 糸井
- ‥‥今後、あらゆる場面で
人が「立ちがち」になる可能性が(笑)。 - 高橋
- つまり、この研究者が導き出した結論は、
「肥満に対抗するには、
意志を持って
NEATを高くすべきである」と‥‥。 - 糸井
- なるほど。
- 高橋
- そういうことになります。
確かに「立つ」という行為には
何らかの意思が必要です。
つまり、何らかのことを考えているわけです。 - 糸井
- なるほど、頭も使ってるんだ。
- 高橋
- その一方で「座る」について言うと、
もちろん「考えてる」ことだってありますが
ぼんやりして、
パソコンをカチカチやってても、
まぁ‥‥バレやしないですよね。
- 糸井
- ええ、たしかにそうですね。
- 高橋
- つまり、ぼんやりしてるだけで
脳を働かせていなくても、
「座る」という行為は、許容されてしまう。 - 糸井
- 周囲からね。うん、そうですね。
- 高橋
- ‥‥というふうに考えてくると、
少なくとも「肥満」の問題について言うなら、
NEATの高い人のほうが、
絶対にいいのは、確かだということです。
たとえば、糸井さんが太らないのって、
NEATが高いせいなんですよ。
まあまあ、どう表現すればいいか
わからないけど、
いろいろ考えて、ちょこまか動き回るから。 - 糸井
- うーん、自分では
座りがちな人間だと思ってるんですけど‥‥
そうなのか。 - 高橋
- まぁ、立ち仕事ほどではないにしろ、
座っていても、あたまを使って考えてれば
NEATは高くなります。
ただね、
そうやってNEATの高い人のほうが、
絶対にいいのであれば
進化の過程において、
過去になぜ、
そういう「セレクション」が起きなかったのか。 - 糸井
- つまり、なぜNEATの低い人が、
淘汰されなかったのか‥‥という意味ですね? - 高橋
- 理由はさまざまあるんでしょうが、
ともかく現実には、淘汰されていない。 - 糸井
- 実際、となりの席に「座ってる」し。
- 高橋
- つまり、生来的に「座りがち」である
それらNEATの低い人たちが
現代の
いつでも、何でも、好きなだけ食べられる状態に
置かれたら?
「どうしようもなく太ってしまうのは、
避けられない」
これが、そのアメリカ人研究者の結論なんです。