毎日、トラックで靴を運びながら
夢見たロンドンで、
スタイリストのかっこよさを知る。
数多くのミュージシャンや俳優から
信頼されている
スタイリストの宮島尊弘さんは、
洋服のことも、
スタイリストという仕事のことも、
まるで興味がなかったそうです。
でも、憧れの街ロンドンで、
スタイリストのかっこよさを知った。
専門学校卒業後、古着屋の店員や
トラックの運転手を経て、
今の宮島さんになるまでの道のりを、
お話くださいました。
以前の職場で
よくお仕事をごいっしょしていた、
「ほぼ日」の奥野が担当です。
スタイリストというお仕事。
- ――
- 自分の興味がどこにあるかわからない、
という若い人って、
今も昔も、
たくさんいるとは思うんですが‥‥。
- 宮島
- うん。
- ――
- これ‥‥自分自身の実感としても、
やりたいこととか、
自分に向いている仕事が何かって、
はたらくうちに、
見つかっていく気がするんですね。
その点、宮島さんも、
社会に出て、お仕事をするうちに。
- 宮島
- まあ、やってみたら、できたんだよね。
それで、ここまで続けられた。
何度も言っているように、もともとは、
洋服にも、スタイリストにも、
ずーっと何の興味もなかったんだけど。
- ――
- 宮島さんの若いころって、
まだ「スタイリスト」と言ったって、
知らない人のほうが、
多かったりしたんじゃないですか。
- 宮島
- そうだと思う、たぶん。
- ――
- でも、今や、ぼくたちは、
あらゆる場面の裏側に
スタイリストという専門家がいると
知ってます。
ぼくらの目に触れるものは、
たいがいスタイリングされていると。
- 宮島
- そうなったんだろうね。
ここ20年とか、それくらいの間に。
- ――
- 宮島さんも、独立して
すでに20年以上経つわけですけど、
スタイリストというお仕事の、
どういうところがおもしろいですか。
- 宮島
- 俺の場合、
出だしがミュージシャンだったから。
- ――
- はい、Dragon Ash ですよね。
- 宮島
- ミュージシャンのスタイリングって、
ファッション誌で
モデルに服を着せるときとちがって、
「じゃ、次はこれ着て」
って感じじゃ、絶対ないわけだよね。
(降谷)建志とかもそうだけど、
「これ、どうですか?」って聞いて、
「いいね」
とか
「何か、こっちのほうが好きかも」
みたいなやり取りがあって、
実際に、洋服を着てもらうんだけど。
- ――
- はい。
- 宮島
- ようするにさ、
自分がかっこいいなと思っている人、
そういう人に
「この服、似合いそうだな」だとか、
「この服を着たら、
いつもの感じとはちょっとちがって、
かっこよさそう」
と思って現場に持って行くんだけど。
- ――
- はい。
- 宮島
- その人が
「あ、それいいじゃん!」って言って
実際に着てみて、
「わあ、やっぱりかっこいいわ」
みたいになる、
そういう瞬間には、グッと来るよね。
- ――
- その人が、よろこんでくれる‥‥。
- 宮島
- 自分がかっこいいと思ってる人にさ、
自分の感性を認めてもらう、
大げさに言えば、
まあ、そんなような瞬間じゃない。
ああ、スタイリストって悪くないと、
そういうとき、思ったりはするよ。
- ――
- なるほど。
- 宮島
- 若いころは雑誌も好きだったけど、
だから今は、
ミュージシャンだとか役者さんを
スタイリングするほうが好き。
その人のことを自分なりに捉えて、
どうすれば、その人のよさを、
もっと引き出せるか考えて、
洋服を選ぶほうがおもしろいから。
- ――
- 今まで、スタイリングをしてみて、
印象に残っている人は誰ですか。
- 宮島
- ブランキー・ジェット・シティは
かっこいいよ、やっぱり。
後半、ずっと担当してたんだけど、
年上ってこともあって、
こっちもちょっと、緊張感あるし。
- ――
- 洋服を提案するときは、
やっぱり、緊張するものですか。
宮島さんのキャリアがあっても。
- 宮島
- 緊張? するよ。するする。
めちゃくちゃ緊張してるよ、毎回。
でも、それはブランキーに限らず、
フィッティングのときって、
いつになっても、緊張感はあるね。
誰に対しても、いつでもね。
- ――
- どう受け止められるだろう‥‥と。
- 宮島
- つまり「この服ぜんぶ嫌だ」とか、
絶対ない話じゃないから。
- ――
- あの、スタイリストさん同士って、
傍から見ていると、
すごく仲良さそうに見えるんです。
- 宮島
- いや、実際みんな、仲いいよ。
わざわざ連絡して会おうってのは
(熊谷)隆志くらいだけど、
街で会っても、よくしゃべるしね。
先輩・後輩とかも関係なく。
- ――
- そうですか。
- 宮島
- 嫌だなあって奴は、ほとんどいないよ。
- ――
- 宮島さんって、優しいじゃないですか。
後輩からは慕われるし、
仲間からは好かれる人だと思うんです。
- 宮島
- そう?
- ――
- スタイリストの世界も、
当然、かなり厳しいと思うんですけど、
スタイリングの実力はもちろん、
「お人柄」というのも、
ひとつのことを長く続けていく上では、
重要なんだろうなあと。
- 宮島
- 最初、嫌な奴だと思われてんだよ、俺。
みんなに言われるんだもん。
最初、しゃべりづらかったとか何とか。
- ――
- ええ、ええ。
- 宮島
- でも、そういう奴が、
いざしゃべったらふつうなもんだから、
印象がよくなるだけじゃない?
- ――
- ぼくは、雑誌の『smart』編集部に、
大学を出たあとに入ったんですが、
はじめての現場が、
宮島さんのロケ撮影だったんです。
- 宮島
- あ、そうなんだ。
- ――
- 夏のTシャツ特集で、
カメラマンさんが三宅勝士さんで、
東京中の歩道橋をめぐって、
その上で、
モデルカットを撮るという企画で。
- 宮島
- 何それ、めんどくせ(笑)。
そんなのやったっけ。覚えてないな。
- ――
- そのとき、まだ新入社員だったから、
何を着てっていいかわからず、
ひとりだけスーツ姿だったんですよ。
で、ガチガチに緊張してたんですが、
突然、宮島さんが、
「スーツってのはこう着るんですよ」
みたいなことを言いながら、
ぼくのスタイリングを、やり出して。
- 宮島
- あー(笑)。
- ――
- めちゃくちゃイジられまして、
カメラマンさん、ヘア・メイクさん、
モデルさん、ロケバスさん、
他のスタッフさんたちも、大爆笑で。
こっちは、ただの新入社員ですから、
「怖い!」と、
「俺は、いつかこの人に殺される!」
くらいに震え上がってたんです。
- 宮島
- え、スーツを直してるんでしょ、俺。
親切に。
- ――
- そうなんですけど‥‥
白いシャツの襟を立てたりですとか、
明らかに遊んでるんです。
- 宮島
- 別に怖いこと何にもしてないじゃん。
- ――
- 正直言って、顔が怖かったんですよ。
- 宮島
- あー‥‥そうだよね、わかる。
当時は必要以上にサングラスかけてた。
- ――
- でも、後から考えたら、
あれは、新人の緊張をほぐそうという、
宮島さんの優しさだったのかな、と。
- 宮島
- まあ‥‥そうなのかな(笑)。
- ――
- その後も、
一緒にお仕事をさせていただくうちに、
だんだん、
すごく優しい人だとわかってきまして。
つまり、お人柄というのも、
宮島さんにお仕事をお願いしたくなる、
大きな要素だと思ったんです。
- 宮島
- ああ、そうですか。
何というか‥‥ありがとうございます。
(おわります)
2020-02-07-FRI